ある宿で
〔ご注意〕***30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい***
「じゃ、明日の夕方まで各自、自由行動ね。くれぐれも騒ぎは起こさないこと。特にそこの2人！」
陰の船長と言われる彼女は当然のように、その喧嘩っ早い男二人に言い放った。
肝心の船長は「おっし〜何食うかな〜やっぱ肉だな肉〜！！」しか言わないのだから、これも仕方ないと言えば仕方ない。久々に町中で過ごせるとあってクルー達はみんな浮かれているようだ。
「俺達も行くか」
サンジがゾロの腕を取って歩き出した。皆が見ていてもお構いなしだ。今更隠すこともないので堂々としているが、さすがにゾロは抵抗があるらしく、伸ばされてきたその腕を払いのけた。サンジは唇をとがらせて言う。
「何だよ、ゾロ。」
「おめぇな、ベタベタすんじゃねぇ。」
「．．．ごめん、忘れてたよ。お前、超照れ屋だったもんな。」
「うるせぇっ！」
そんなに怒らなくたって、とサンジは小声で言いながらゾロのパンチを軽くよけた。
そっぽを向いてしまったが、赤面してることは後ろからでもわかる。本当に正直な男だな。
「可愛いよなぁ．．．」
思わず声に出して言ってしまった。それがゾロの耳に入ったからまた怒りが増幅。
「テメェ、もう一発お見舞いしてやろうか？ 次は手加減しねぇぞ。」
ゾロはますます顔を赤くして怒っている。同い年の男に可愛いと言われても何も嬉しくない。いや、相手が誰でも嬉しくない。
（それをわかってて、このクソコックは俺にいつも可愛い可愛いと．．．。あームカツク）
サンジとゾロにとって、そんなやり取りもいつものことで、いわば挨拶みたいなものだ。
喧嘩しながらも、二人は町に繰り出して行った。
＊＊＊＊＊＊＊＊
いくつか店を回って用事を済ませた後、二人は宿へ到着した。なかなか小奇麗な建物だ。偶然辿り着いたにしてはいい宿だな、とゾロは思った。早速昼寝できそうだ。でも実は、サンジは買い物しながら、すでにこの宿をみつけていて、最後に辿り着くようなルートで歩いていたのだった。時々同じ道に出たりしたが、ゾロがそれに気付くことはなかった。先に扉をくぐったのはサンジだった。
「いらっしゃいませ」
フロントに立っていたのは黒髪の女だった。派手なプリント柄のシャツを着ている。
勿論初対面だが、どこかで見た出で立ちだ。彼女の背後の壁には刀が立て掛けてあった。
「二人。部屋空いてますか？ お嬢さん。」
「ええ、空いてますとも。相部屋ですけど。それから．．．お嬢さんはやめて下さいな。」
「てっきり、ここの娘さんかと．．．」
「お客さん、お世辞が上手ね。この宿は、主人と私の二人でやってるんです。あいにく主人は、宿の備品と食料の調達に出てて今日は帰りません。だから悪いんですが、今夜はその、いつものお食事は出せないんです。」
「今、食材切らせてるということか...」
「いいえ、そうじゃないんです。材料はまだストックがありますが．．．」
「じゃぁ、ご主人がここの料理人というわけですね。」
「ええ。私は食事以外の仕事担当なんです。せっかく来て下さったのにすみません。」
「ああ、それなら僕が作りますよ。厨房お借りできますか？勿論、あなたの分も一緒にお作りします。」
「えっ！あなた、コックさん？そうだったの。じゃぁ、お言葉に甘えて、お願いしようかしら。食材は何でも使って下さって結構です。勿論お代は要りませんわ。」
女はサンジを厨房へと案内した。冷蔵庫には沢山の食材が揃っている。
「じゃぁ、私、お風呂の準備をしてきますから。あ、それからこれは、お部屋のカギです。」
フロントの隅にある宿帳を引っぱり出して、その上にペンとカギを置くと、女は風呂場へと姿を消した。
「何だ．．．あの女。」
「ん？何？．．．ゾロ、もしかして妬いてる？」
「誰がっ．．．」
「ゾロ．．．？」
「．．．パクリだ。」
「え？」
「パクリ女のパクリだ。着てるモンと言い、髪型と言い、やけに似ている。刀まで．．．。」
「そんなに気に障るのか？．．．あの海軍の．．．、えっと．．．名前は確か．．．た．．．」
「テメェその名前を口にするなっ。聞くだけで何かイラツクんだ。」
「（ゾロ．．．）」
＊＊＊＊＊＊＊＊
「お客さん、お風呂の用意できてますよ。疲れてるでしょう、今からでも入って下さいな。」
宿の女は、にこにこしながら厨房を覗いた。調理台の上には色々な材料が綺麗に切り揃えられ並んでいる。これだけの量の仕事をこんな短時間でやってのけるなんて、と女は驚き、興味深げにサンジの方を見やった。サンジはエプロンを外して煙草に火をつけたところだった。
「コックさんなのに煙草吸うのね。」
「これがないと死んでしまうんでね。」
「舌が鈍るって聞くけど？」
「．．．クソジジイも言ってたな．．．あ、いやこっちのこと。」
「うちの主人も言ってるのよ。でもね、その当の本人もやっぱり煙草吸うんですよ。それでも料理の腕は確かで。ああ、でもあなたほどじゃないと思いますけど。」
それにしても綺麗に切ってあるわねぇ、と感心しながら食材を眺める女。すでに下味がついてる物もあり、後は火を入れるだけになっている。
「お風呂、冷めないうちに入って下さいな。」
それだけ言うと女は手にシーツを抱えて２階へと続く階段を上がっていった。
＊＊＊＊＊＊＊＊
思っていたより広々とした風呂場だった。これなら二人で入ってもゆったり手足を伸ばせそうだ。サンジは、ゾロがなぜか隅っこで体を流しているのをみつけて呼びかける。
「ゾロ、もっとこっち来いよ。」
「ここでいい。」
「じゃぁ俺がそっち行く。」
「来るなっ。なんで、いちいち来るんだ。」
(来るなと言われれば、余計行きたくなるのを知らないのか？)
「背中流してやるからさ。」
「(背中だけで済まないんじゃないのか？)」
「おっ、よくわかってんじゃん...じゃぁ話は早い．．．」
「なっ、なんでっっ．．．(俺の考えてることわかる．．．？)」
「ゾロ．．．」
石鹸を泡立てた手で、サンジはゾロの背中を洗い始めた。それだけのことなのに、ゾロは一瞬体をぴくりとさせた。背中はあっという間に洗い終わり、手はゾロの胸
の方へ移動して来た。厚い胸板をまさぐるサンジ。その手つきを見るだけで赤面するゾロ。何ていやらしい動きをするんだ、と一瞬思った。でもその手でいつも俺は...
と、いつかの情事を思い浮かべていると顔が熱くなってきた。
「ぁ．．．ん」
風呂場に艶かしい声が響いた。サンジの手はゾロの胸の小さな蕾をとらえたのだ。
何度も何度も肌を重ねて得た、ゾロだけのための絶妙な愛撫。ちょっと力が入り過ぎると痛がるので、優しくしてやる。あんなに酷い怪我をいっぱいしてきている癖に、本気で痛がる。こういう時だけ、とても敏感だ。
もっと声を出して欲しいサンジだったが、ゾロは既に『食いしばり態勢』だ。
「力抜けよ、ゾロ。」
「駄目だ。」
「なんで？」
「声．．．」
「声．．．？」
「響くだろうが。」
「風呂場だから響くの普通だろ。いいじゃん出せば。」
「それはできねぇ．．．あぁっ」
口を閉じるのが間に合わずに、ゾロは少しだけ、声を出してしまった。サンジはその声を、何度も頭の中で反芻させた。
サンジの頭の中では、既にゾロは体を開いてサンジを受け入れている。薄っすらと赤らんだ瞼を半分閉じて、その腕で、サンジの背中をしっかりと抱え込んでいるゾロ。
絶頂が近づいているらしく、腹部をサンジに押し付けて来ている．．．。
．．．サンジの妄想は止まることなく続いた。
「．．．サンジ？」
ゾロの声で我に返る。目が少し赤い。胸も何だかドキドキしているようだ。
「ゾロ．．．俺もう我慢できねぇよ．．．」
「．．．ってまだ何もしてねぇ．．．?」
サンジの手はゾロの下腹部へ伸びている。一瞬の出来事でゾロは阻止できなかった。
ゾロのそこは、まだ大きな変化はなかった。それに対して、サンジの中心部はすでに熱を帯び、その大きさも固さもピークにさしかかり、ゾロの腰にその熱のありかを伝えていた。
本当に我慢できないらしく、ゾロの腰へぐいぐいと押し付けてくる。
「はぁ．．．ゾロ．．．」
「おいっ、やめろ．．」
ゾロは今、サンジとの温度差が大きいことに気付いた。このまま抱き合うのには、少し躊躇いがあった。
しょうがないなとばかりにゾロが体を向き直し、サンジの体を離した。
「そこへ座れ。」
こうなったサンジには、もう何を言っても駄目だ。ゾロはサンジを壁にもたれさせ、座らせた。
「俺が．．．．．．してやる．．．．．から．．．」
「え？」
「今日だけだぞ。」
サンジが見た光景。あり得ない．．．。自分の下半身にあるのは、愛しいゾロの後頭部。
慣れない手つきで、サンジの今にもはちきれそうなモノをつかみ、躊躇わずに口に含んだ。
「ああっ．．．．う．．．．」
風呂場に声がぐわんぐわんと響き渡った。
サンジの手に力が入る。ゾロの柔らかい緑髪をつかんでいた。
どう？とか、気持ちいい？とか、一切言ってこない。ただただ優しくゆっくりとサンジを愛してくれた。
ゾロ．．．．．．。
何か言ってくれよ．．．．。
いや、いいんだ．．．全部わかってる．．．から．．．
何も言わないのがお前らしいってことだよな．．．。
「はぁ．．あ．．．．．ふ．．んん．．．っ」
．．．．どこでこんなこと覚えやがった。力入んねぇじゃねぇかよ．．．。
クソが！後で何倍にもして返してやるからな、覚悟しやがれ．．．．
あ．．．駄目．．．だ．．．
．．．．．．
「ゾロ．．．はっ．．うっっ．．．！！」
「痛ってぇ．．．」
あまりの痛さにゾロは、一瞬だけ少し口を開けてしまった。サンジが渾身の力で髪をつかんだのだ。
ゾロの唇から白濁の液がトロトロと零れ落ちた。口の中に残っているものを、ごくんと飲み干す。
「ゾロ．．．．．．．」
「．．．．．．．」
「ゾロぉ．．．」
「あぁ？」
「すっげぇ．．．良かった．．．．．」
「．．．．」
やっぱり照れるのか、ゾロはこっちを向かずに体を洗いはじめた。
サンジは急いで体を流すと、名残惜しそうに一度振り返ってから、先に風呂場を出た。
＊＊＊＊＊＊＊＊
再び厨房に入り、サンジは料理の仕上げにかかる。ゾロは食器をテーブルに並べ始めた。どんどん料理が盛られていく。
「わぁ、とっても美味しそうだわ。」
宿の女は大喜びだ。彼女自身も好きだという、ワインを抱えて席についた。
テーブルいっぱいの料理と珍しいワインで宴が始まった。
（．．．おっとあんまり飲みすぎないようにしねぇとな。おまえのためにもな？）
サンジはゾロに無言のサインを送った。
女は目の前に並んだ料理の一つ一つを口にするごとに、美味しいと感動していた。
サンジは、時には料理の説明をしながら、合間にゾロの方を見ながら料理を口にする。
ゾロはと言うと、全くいつも通りに味を褒めるでもなく、料理を平らげていった。
やがて食事も終わり、サンジは満足そうに、空になった皿を一つ一つ確認する。
後片付けをしようとしたサンジを女が制した。後は私がやりますから、という言葉にサンジは素直に従った。
「じゃぁお願いします。その間にデザートをご用意しますよ。」
それを聞いて女は、嬉しそうな顔を向けた。
「私は紅茶を持ってきますね。アール・グレイでよろしいかしら？」
宿の女とサンジが談笑しているのを、ゾロは時々適当に相槌を打ちながら聞いていた。
話の内容は殆ど記憶に残っていなかった。彼女の顔を見れば嫌でもあの女を連想してしまう。あまり見ないように努めた。
「とても美味しいお料理をありがとう。明日の朝食は簡単な物ですが私がご用意しますから、お二人ともごゆっくりと休んで下さいね。」
何か意味ありげに微笑んで、女はサンジとゾロを交互に見つめた。
サンジは煙草をもみ消しながら、女を見つめ返した。
「それは楽しみだな。それじゃ、おやすみなさい。」
「おやすみなさいませ。」
サンジと颯爽と、ゾロは少し面倒くさそうに立ち上がり、２階の部屋へと向かった。
部屋は二人用で、そこそこに広かった。サンジはネクタイを緩めながらゾロに話し掛ける。
「何か、機嫌悪かねぇか？」
「．．．いや、別に。」
「俺が彼女と話してたのが気に食わないとか？」
「関係ねぇ。」
「じゃぁ何だよ。」
「何でもねぇって。」
「．．．．そうは見えねぇけどな。」
サンジはゾロの真正面に立ち、顔を見つめてきた。一瞬目が合い、ゾロは不自然に視線を逸らせた。でも、どうやら怒ってるのではなさそうだ。
「．．．自分でも．．．わかんねぇんだよ．．．」
「ゾロ．．．？」
「簡単に言えば、その．．．苦手なんだ。」
「ああ．．．前にもそう言ってたよな．．．悪かったな。」
「ん？」
「苦手なあの曹長さんに似てりゃぁ、やっぱり彼女も苦手だよな。もっと気ぃ使ってやれば良かったよ。」
「．．．」
「．．．．．．．？」
「もういい。俺が勝手にそう思ってるだけのことだ。こっちこそ、悪かったな。」
「ゾロ．．．」
何だか素直なゾロに、ちょっと面食らいながらも、サンジはゾロの表情が柔らかくなっていくのに気付いた。横顔が綺麗だ．．．と思った。
「あ〜あ、疲れた。」
ゾロはベッドにあお向けに寝転んだ。目も閉じていて、今にも睡眠態勢突入の模様だ。
「ゾロ．．．おい、まさかこのまま寝る気じゃないだろうな。」
解いたネクタイを放リ投げて、ベッドに駆け寄った。完全に弛緩しきったゾロの肢体。何と無防備なことか。まるでその気がないのか、いつでもＯＫなのか．．．。サンジは迷わず後者を選んだ。
「そんな格好で寝てる方が悪いんだ。」
そう言うが早いが、ゾロの上半身に覆い被さり、右の耳たぶを甘噛みした。ゾロの頭が微かに揺れ、反対側の耳からは軽やかな金属音が響いてくる。そしてサンジの方を薄目で睨みながら言った。
「俺がどんな寝方しようが大きなお世話だ。」
わざと憎らしい台詞を吐く。もうたまらなくなったサンジは、今度は耳たぶでなくゾロの唇を奪いにかかった。今まで何度こうしたかわからない。ゾロは今夜は気疲れしたのか、無駄な抵抗をする気力も残ってないらしい。サンジはいともあっさりと戦利品を手にした。
「あのさ．．．ゾロ。さっき風呂場で．．．俺一人だったろ？ お前は何ともなかったのか？」
「．．．あ？」
「俺一人気持ちよくしてもらっただろ．．．。だからさ．．．今度は俺がいっぱいしてやるから。」
「ふぁ．．もう眠い．．寝かせろ。」
「．．．おお、そうかよ。じゃぁ寝てろ。寝てられるもんならな。」
（テメェの寝顔見るために宿取ったんじゃねぇぞ。俺が側にいるのに寝ようなんざ、いい根性してるぜ。）
相変わらず無防備なその男の顔に近づくと、瞼やこめかみ、すべすべと綺麗な頬骨のあたりにサンジの唇が滑っていく。
ゾロはよく「うっとおしいから顔に触んな」と文句を言う。本当は、感じすぎるからそんなことを言ってるんじゃないか、とサンジは思う。無視して目を閉じたままのゾロが一瞬反応したりするからだ。
サンジは持て余した気持ちの高ぶりをぶつけるように、ゾロの唇を貪った。濡れた音が静かな部屋に響いた気がした。ゾロの瞼に力が入り始めた。
それに構わず、キス攻めを続けるサンジ。
「ふ．．．む．．．ぷはぁっ．．．」
「ゾロ？」
「ごほっごほっ．．．いい加減にしろ。テメェ、しつこ過ぎ。」
「しつこいの好き？うん俺も大好き。」
（あ．．．また怒らせたかな．．．）
「もうちょっと、あっさりとできねぇのか。」
「これでも控えめだったつもりだぜ。そんな事言うならお前もやってくれよ。やりたいようにやってみせてよ。」
サンジは挑戦的に、唇をゾロに近づけた。これでは寝ようにも寝られない状態だ。そう言えばゾロからしてくれることなんて、滅多に、いやもしかしたら一度もなかったかも。ゾロはちらっとサンジの方を見た。どうしようか、考えているのだろうか。
数秒間の沈黙の後、ゾロはゆっくりと起き上がる。サンジも合わせて座った。サンジはドキドキしてきた。ゾロの動きを一瞬たりとも見逃すまいと、目をしっかり開けた。
「そんなに見るなッ。」
「見るなったって、気になるじゃないか．．．好きなヤツが目の前にいるんだぜ？」
「えっ．．．あ．．．う．．．うるさいッ。ごちゃごちゃ言わずに目を閉じろ。」
動揺している。もう面白くて仕方ない。でも度が過ぎると殴られるから、程ほどにしねぇと。
サンジは素直に目を閉じた。そして．．．ゾロがごくんと喉を鳴らしたのを聞いた気がした。ゾロの呼吸が近づいてくる．．．。ひどくゆっくりと。サンジは沈黙に耐えられず声を発した。
「ゾロ？」
「ん？」
「．．．してくれないの？」
「いや．．．（何で目ェ開けるんだっ？？）．．．．」
「やっぱり俺がした方がいいだろ？」
ゾロの返事を待たずに、サンジはゾロの唇をふわりと奪った。とても、とても自然だった。
（これでいいんだろ？）という気持ちをこめて。
次にサンジがゾロにもう一度覆い被さった時は、ゾロは覚悟を決めたかのように、両手でサンジを受け止めてくれた。相変わらず眠そうな顔をしてはいたが。
「まだ寝るなよ」
サンジはそう呟くと、重なったままのゾロの唇を端からゆっくり舐め始めた。小さく「う．．．」という声が聞こえたが構わず舌を這わす。
「テメェ、舐めてんじゃねぇ。」
「文句多いな．．．」
そう言うとサンジは舌で器用にゾロの唇を分け入り、今度は口内を吸い、舐めまわす。濡れた音と、ゾロの喉の奥からかすかに漏れる声が重なり合った。
ゾロの中心部は徐々に熱をもち始め、サンジの体にもそれを伝えていた。
「．．．触っていいか？」
「．．もう触ってんじゃねぇかよ」
「なんかいつもよりデカイ気がするなぁ」
「んなわけあるか」
「それにすげぇ固い」
「．．るせぇな、全く」
ゾロはサンジの手を払いのけようとした。
「俺の手じゃ嫌なのか？」
「あぁ？」
「今日は自分でやってみる？」
「何．．．言ってやがる．．．」
「見たいな。ゾロが自分でやってるとこ．．」
「テメェなっ．．．」
「俺も．．．見せてやるから．．．」
「や、やめろっ！」
本当にサンジなら自分でやってしまいそうだ。こうして挑発しないと全然乗ってこない。ゾロは慌ててサンジの手を取った。
「．．．そんな事．．．人の見てないところでやれっ」
「わかった。じゃぁお前がやってくれるんだよな？」
「う．．．」
一瞬躊躇したゾロの下腹部に再びサンジは手を伸ばす。少し萎えかけていたものがみるみる固さを取り戻す。微かだが、鼻にかかった声が漏れた。ゾロはとっさに顔を背ける。
「いいか。無駄な抵抗すんな。俺に任せておけばいいんだ。」
サンジはそう言うが早いがすっと体を左側へ直角にずらし、ゾロの下半身へ顔を向けた。薄暗い中でも、はっきりとその存在がわかる。その大きく固くなっているモノを口いっぱいに含んだ。
「んん．．．」
右の方から、くぐもった声が聞こえてきた。
どうだ、気持ちいいだろう。
（もっと素直に声出して欲しいな．．．）
ゆっくりと、唇と舌と喉の奥も使い分けながら、口いっぱいの高ぶりを貪っていく。
「うう．．．ぁ．．」
ゾロの左手がサンジの背中を押さえつける。サンジはそれさえも、ぞくぞくした。
さっきの風呂場での事が思い出された。一人突っ走ってしまったこの俺を、一心に
愛してくれたんだったよな．．．。借りは今ここで返してやる。
サンジの口の中が僅かに塩辛くなってきた。熱も固さも一段と増して息が詰まりそうだ。背中に感じるゾロの力が強くなってきた。
「もう．．．やめ．．．」
「ゾロ？そろそろヤバイか？」
「は．．．ぅわ．．．」
（いつもギリギリまで我慢しやがるから、俺がちゃんと見ていてやらないといけないんだ。）
サンジは斜めにゾロに重なっていたのを、真っ直ぐに体勢を直した。ゾロの顔に自分の下腹部を近づける。
「ごめんゾロ．．．俺も何かヤバいかも．．．。一緒にやってくれないか？」
「あ．．？」
「頼むよ．．．はぁ．．．」
サンジはそう言うとまたゾロ自身を咥えると、ゾロの顔の方へ手を伸ばし唇を指でなぞった。再び始まった快感に、ゾロの吐息がサンジのモノにかかった。サンジ自身の先走りがゾロの顎に滴り落ちる。
「ふ．．．ぁぁ」
思わずサンジが声を漏らした。半分あきらめていたその時に、快感が襲ってきた。ゾロの方をちらっと見やると、自分のモノを頬張ってくれている。目を閉じて．．．。
（ゾロ．．．何でこんな時でもそんな綺麗な顔してるんだよ．．．）
（参ったぜ。）
俺は心底こいつに惚れてるんだな．．．と改めてサンジは思う。
「おい．．．よそ見．．．すんな．．．」
「ふん、そっちこそ．．．先にイクなよ。」
また二人の息があがってきた。くぐもった二人の声が重なって、一瞬甘い声に変わったかと思うと、大きく喉が鳴る音。そして荒い息遣いがしばらく続いた．．．
「はぁぁ．．．っ、はぁ．．．」
「ふぅぅ．．．．．．」
呼吸を荒くし、サンジとゾロは並んでベッドに仰向けになっていた。
窓から薄っすらと光が射し込む直前だった。
＊＊＊＊＊＊＊＊
「おはようございます。よく眠れましたか？」
曹長似の女が爽やかな表情で声をかけてきた。朝日のせいか、昨日よりも綺麗に見える。
「ええ。とてもいい部屋で、ゆっくりできましたよ。」
「そちらのお客さんも．．．。あの、ごゆっくりできましたか？」
無愛想にちらりとしか目をやらなかったゾロに向かって、にこにこと話し掛けた。
「．．．」
「ゾロ、返事くらい．．．」
「．．あぁ。いい部屋だった。．．ありがとう．．」
ゾロは、一瞬だけ女の方を見て、すぐ視線を戻した。無理して眉間の皺を消していたようだ。
もうこれ以上話し掛けるなと、表情が伝えていた。
「そうですか。それはよかったですわ。お二人とも、朝食できてますからいつでもどうぞ。」
何か察するところがあったのだろう、女は長居しようとはせずその場から去った。
「ゾロ、飯食いに行くぞ。．．．まぁ急がなくても今日は誰かに食われる心配はねぇけどな。」
「．．．そうだな。」
．．．．心ここにあらず．．．．．．か。
（俺にだって入れない領域があるんだよなぁ．．．。どうしようもない「領域」が．．．．）
「ゾロ、先に食堂行ってるから。」
ゾロの周囲の空気に触れるのに耐え切れなくなったサンジは、その場を去った。
＊＊＊＊＊＊＊＊
「ありがとうございました。また是非お越しくださいね。次は主人共々歓迎致しますわ。」
「お世話様。」
「．．．世話んなった．．．」
扉を先にくぐったのは、ゾロだった。
「いい宿だったな。」
「．．．．。」
「ゾロ．．．？」
「．．．．助かったぜ」
「何が？」
「．．．お前がいて．．．」
「．．．???．．．(何だかわかんねぇけど)．．そうか？そりゃよかった。」
「．．．ところで．．．」
「ん？」
「今どこに向かってるんだ？」
（やっぱり俺がいないと駄目なんだな．．．）
「俺にくっついとけば大丈夫だって」
「な、何しやがる！離せコラ！何で手ェつないでんだ気色わりぃ！」
「♪〜」
ゾロが目を釣り上げて文句を言う姿が、サンジは好きだ。
「やっといつものお前に戻ったな。」
そう言うとサンジはゾロの髪をくしゃっと掴んだ。
fin.
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