アフタヌーン･ティと藍の花
〔ご注意〕***30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい***
今朝もまた、同じ匂いで始まる。
届いた野菜についた、土の匂い。パンの焼ける匂い。
厨房では二人の若いシェフが働いている。そのすぐ傍らで、初老のいかにも腕の良さそうなシェフが、彼らの作業を見守っている。
サンジがこの屋敷に来てから1ヵ月を過ぎ、ようやくここの仕事にも慣れてきた。間もなく勇退するヘッドシェフは、重要な仕事は全てセカンドに引き継ぎ、セカンドの仕事は次期セカンドのサンジがほぼ習得した。
ちょっと短気な次期ヘッドシェフと、それ以上に短気なサンジが、これからずっと一緒に働くのだ。
しかし憂鬱になどなっている暇は無い。ここの仕事は集中して、多くのことをこなさなければならない。気を抜いている余裕はないのだ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
最近本格的に忙しくなってきた。季節が良くなり、来客が増えたのもある。お茶会がある日は、特別な菓子を作るよう指示が出るから、それの準備にも追われる。
客の目当ては、この屋敷自慢のバラ園。既に早咲きの品種がたくさん咲き始めた頃から、来客は増えだした。そしてこれからが、本当のピーク。まだ蕾が多いうちから多くの人が観に来ている。
その来客を正面玄関まで誘導したり、バラ園へ案内したりするのは、庭師であるゾロの仕事だった。数ヶ月前、まだ雪が残る季節にこの屋敷へやってきた。それまでは、造園屋で修業をしていたのだが、そこの師匠の口利きで今の仕事に就いた。
本邸からは少し離れた場所に建つ、仕事場兼住居である小屋で、花の種の選別作業をしていたゾロは、ふと修業時代のことを思い出した。
「師匠、元気にしてるかな」
ゾロは懐中時計を取り出すと、蓋を開いた。ここに来る時、師匠から贈られた物だ。
「一人で、どうしてるんだろうか...」
ゾロは最後の弟子だった。他の兄弟子達は、先に巣立っていった。たった一人姉弟子がいた。庭園よりも、花そのものが好きだった。花の種の見分ける目は誰にも負けなかった。彼女が選んで蒔いた種からは、確実に芽が出た。
その頃のことを色々と思い出しながら、ゾロはまどろみかけた。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
半分開けた窓をコンコンと叩く音。ゾロは目を擦りながら伸びをする。
「ゾロ、休憩しねぇ？」
サンジが焼き菓子を入れた籠を手に現れた。
「また来たのか」
そっけなく返しながらも、心のどこかでは和んでいる自分に気付いている。サンジとは最近知り合った。普段は接点のない筈の二人が、こうしてお茶の時間を一緒に過ごしたり、庭園でサンジ手製の弁当を広げたりするまでになった。
お互い仕事は決して暇ではなく、時間を作るのも楽ではなかった。でも何とかして会いにくるサンジに応えるため、ゾロも仕事の段取りを工夫したりしている。
何でここまでして、この男と会うのか。
ふとゾロは考える。常に一人で黙々と仕事をしている自分にとって、サンジは唯一心を開いて楽になれる相手だった。屋敷内で接する人間は数多くいるが、あくまでそれは職務上必要なことであり、そこには何の感情も存在しない。来客案内にしても、会話がある訳ではない。
サンジがこの屋敷にやって来て、自分を見出してくれたことで、ゾロは救われたのかも知れなかった。
「それ、自信作なんだぜ？」
サンジが屈託の無い笑顔で言う。この男と会うようになって、ゾロは笑うことが増えた。
「そんなに甘くしてねぇから、食ってみろよ」
ゾロが菓子類を好んで食べないことをサンジは知っていて、ここにわざわざ持ち込んだのだから、自信があるという言葉を信じてもいいのではないか。ゾロは籠に手を伸ばし、菓子を一つ摘まんで口に入れた。
「...うん、美味ぇ」
「良かった...」
サンジは、自分が作ったものをゾロが美味しいと言う度に、同じ台詞を吐き同じ反応をする。彼のために料理をするということが、日々の楽しみにさえなっている。
「バラ園、大盛況だな」
「あぁ、お陰さんでな」
「これからもっと、忙しくなるんだろ？」
「早咲きの分が今盛りだからな。次に咲く分の蕾も、ほころんでるから、当分こんな感じだろう」
「今よりもっと沢山咲くのか？」
「少し多いかもな。今研究中の、藍色のバラも咲く」
「藍色？青...とは違うんだな」
「青は出せねぇ...こればっかりはな」
「自然にも限界があるもんな」
「人間が自然に介入できること...していいことにも限界がある」
サンジが淹れてくれた紅茶を一口飲むと、ゾロはふーっと息を吐いた。
「今日はゆっくりできるのか？」
「え？まぁ、とりあえず夕方の作業は先に済ませてきたから...1時間ちょっとは」
「それ飲んだら....こっちに座れ」
ゾロが自分の座っている長椅子のすぐ傍の、空いている場所を指し示した。サンジは、先ほどまで香りを楽しんでいた紅茶をぐいっと半分まで飲むと、カップを置き、さっさとゾロの隣へ移動した。
「ゆっくり飲んでる時間も勿体ねぇ」
「ふん、てめェには優雅さのカケラもねぇな」
「こんな時は優先順位があるからな」
「そんなに...俺がいいのかよ」
「そっちこそ....」
ゾロがサンジの顎を掴むと、サンジはゾロの手首を軽く持った。目は開けたまま、ゾロへと顔を近づける。至近距離に耐え切れず、ゾロが目を閉じる。
サンジはそれを見て、満足そうに微笑みながら唇を合わせる。数秒間、ゆっくりと柔かい感触を堪能する。
「んん...」
サンジの鼻から抜ける息。ゾロが口付けを深くしてきた。彼の舌がサンジの中を蹂躙する。執拗で濃厚な動きに、サンジは翻弄される。
「ぷはぁっ...」
サンジはようやく解放され、息を確保した。もう既に目が充血しかけ潤んでいる。目の前の男もまた同じだった。眉間の皺も解れ、深い緑の瞳には妖しい光を蓄えている。
「おめぇが仕掛けてきたんだぜ...責任取れよな」
サンジはゾロの手を取り、自分の下腹部へ導いた。ゾロの大きな厚い手が、その部分をしっかりと覆った。
「本当におめぇは...優雅さのカケラもねぇな...」
「じゃぁ、おめぇはどうなんだ」
今度はサンジがゾロの股間を目掛けて手を伸ばしてきた。それをゾロが阻止した。
「触るんじゃねぇ」
「...なんで？」
「おめぇのが先だ」
「ちょっと確かめるだけだろ」
「......おめぇに触られたら.....」
「ん？」
「....我慢きかなくなるぞ」
あの、バラ園での時とは違う。サンジの行為を全身で受け止め、歓喜の声を上げていたあの時とはまるで違っている。サンジは思わず息を呑んだ。
「...すげぇソソられるぜ...。そういうおめぇも、見てみたい...」
「それは後にしろ...今は"責任"取るのが先だ」
ゾロの熱っぽい視線に、サンジはまた息を呑んだ。まだ何もされていないのに、身体の中心が熱くなる。そしてその部分に置かれているゾロの手が、ゆっくりと動き出した。
「くっ...」
布の上からなのに、直接触れられているような感触。
「もうこんなに硬い....」
ゾロはニヤリと笑いながら言った。何度か擦った後に、ぎゅっと握りこんだ。ほんのりとサンジの熱が手に伝わってくる。ゾロはその熱のありかを探るように、サンジのズボンの前を緩め、手を差し入れる。彼自身が下着の内側から布を持ち上げ、その存在を示している。
「触って欲しいか？」
「....てめ....余裕だな...」
「嫌だと言っても、触ってやるけどな」
ゾロがサンジ自身に手を載せると、彼は小さくぴくりと身体を震わせた。何もかも感覚が敏感になっている。ゾロの手が下着の中へ滑り込むと、サンジは下唇を噛み快感に耐えた。
「熱い...」
「...ぁ....」
「もう...濡れてきてる」
彼自身の先端からは、滑らかな先走りがじわじわと溢れてきて、ゾロの手の動きを助けた。サンジの身体に走る快感は、途切れることなく続いている。
「あぁぁ....」
「そうだ...楽にしていろ」
「んふ...ん...ぅ.....」
「いい顔だ...もっとよく見せろ」
ゾロはサンジの顔を自分に寄せると、再び唇を重ねた。濃厚な舌の動きに、サンジの目は虚ろになる。そしてゾロの手の内の彼自身は、さらに熱く硬くなってきた。
「ぁ...あっ....ゾロっ...そろそろ、おめぇのも」
「まだいい」
「触らせろよ...」
サンジもずっと我慢していた。早くゾロの熱い部分に手を触れたい。あの時のように....。
強引に手を伸ばし、ゾロに触れた。こんなに大きかったかと思うほど、硬く張り詰めていた。サンジはそのままその部分を握り込んだ。
「おい...まだおめぇのが終わってねぇ...後にしろ...ぉ...」
「いいだろ、ちょっと触るくらい」
「集中できねぇ...」
「じゃ、俺の方が後でいいよ」
「いや、駄目だ」
ゾロはサンジから手を退き、次はそこへ顔を近づけた。ゾロの予想外な行動に、サンジの手の動きが止まる。
「え、嘘...ゾロ...そんなこと....」
「んんっ....俺だって...これくらいするさ」
先端から根元に向かって舌を這わせながら、ゾロは言った。熱く柔かい感触に、サンジは思わず背中を反らす。手で触られただけでも充分なくらい気持ちがよかったのに、さらにそれを上回る快感に、軽い眩暈を覚える。
一通り舐めると、ゾロが大きく口を開け、サンジの熱を丸ごと咥え込んだ。ゆっくりと呑み込まれながら、サンジは目を閉じ小刻みに呼吸をする。手でゾロの頭を押さえる。
「この....ままっ...俺だけイカせるつもりか...」
「あぁ...。でもまた後で好きなだけイケばいい」
「そう何度もできるかっ...」
「俺がちゃんと手伝ってやるからよ」
「おめぇな...くぁぁっ....ちょ.....待て....」
サンジの身体は、もう自分ではどうにもならないくらい、ゾロから与えられる快感に支配されていた。声をいくら押し殺そうと思っても、自然と鼻から抜け、唇の隙間から漏れていく。
「サンジ...ここで1回...楽になれ」
「ふぁっ....んんっ...ぁ.....」
「ゆっくり...上ってこい」
「あっ...はぁぁ....っ」
サンジの手が、ゾロの肩を強く掴んだ。ゾロはその痛みに少し顔をしかめた。
「痛っ....もうだいぶキテるな....」
「くぁっ....ぅ...」
「まだギリギリ踏みとどまってるのか？」
「おいっ....そこで止めんな....」
「今、最高にイイ気持ちだろ？」
「おっめぇ...な...後で覚えてろ......」
「ここらへんに息吹きかけただけで、終わるんじゃねぇか？」
「クソ....最後は一気にヤッテくれ...」
「ゆっくり楽しめばいいのに？」
「うっ...そんなところで喋るな....息がかかって....くっ...」
「わかったよ....ほらよ....」
ゾロは、やっとサンジの熱を解放すべく、深く呑み込み、唇をすぼめて先端まで扱き上げた。そして3度目の往復で、サンジが声を上げ、果てた。
激しい痙攣に合わせ、喉から搾り出すような息と眉間に寄せられる皺。
ゾロはサンジの身体を優しく抱き締めた。
「ゾロ....てめェ....ここまでやりやがって....」
「何だ、不満か？」
「...まだ後があるんだぜ...もう少し軽くやれよ」
「そんだけ楽しんでくれたんなら、俺は満足だ」
「おめぇ、まだイッテねぇじゃねぇか」
「まぁ...後でおめぇが回復したら」
「もう、すぐに回復するぜ」
「あ？」
さすがに身体の方はまだ疲れていたが、荒い息が少し鎮まりかけている。サンジの手が、ゾロのズボンのボタンを外し始めた。下着越しにサンジの手が触れる。
「こんなにまでキツくなってて...よく我慢できるな」
「我慢してるんじゃねぇ...おめぇのに集中してただけだ」
「じゃ、今度は俺がする番だ......」
サンジの手が一撫でしただけで、ゾロの唇から微かな甘い息が漏れた。
(もうギリギリなくせに...この野郎が)
焦らしてやりたい気もするが、思い直してサンジは手をゾロの下着の内側へ差し入れた。一気に下ろしてゾロ自身を解放した。その姿が目に入り、サンジは思わず唾をごくりと飲み込んだ。
サンジはその手でゾロを包み込む。あまり力は入れずに、ゆっくりと上下に擦り始めた。ゾロの眉間に皺が入る。
「ぁ....んんっ...」
「いいぜ....声出せ....俺しか聞いてない.....俺に聞かせろ」
「ふ....ぁ....っっ」
既にその先端の細い亀裂から滲み出る透明の液が、サンジの手の平を濡らす。自然と手の動きが早まっていく。ゾロの手がサンジの腕にかかった。その力が徐々に強くなる。
「こんな速さで....いいのか？お前のいいようにしてやるから」
「あっ....そ...そこ....っ」
「ん？このへん？...こうか？」
「ふぁっ....んんっ.....」
サンジは空いた方の手で、ゾロのシャツを捲り上げ、胸の上に唇を這わせた。舌先で突起をこねるようにすると、ゾロの身体が少し震えた。目を閉じたゾロの顔が、サンジの背中をぞくりとさせた。あまりにも色っぽく、扇情的だった。サンジは思わず、その半開きになっている唇に吸い付いた。
「んぁ....くっ....」
「この後は....こっちでしてやるよ」
「はぁ........ぁ..っ」
サンジがゾロの下腹部へ口を近づけると、ゾロはサンジの頭に手をかけ、落ち着きのない動きをした。本当にギリギリのところまで来ているらしい。
「どう....した？.....ゾロ」
「ぅ...ぁ...」
「...あと少しだけ...待ってろよ」
サンジの口内へ滑り込んだゾロ自身。熱く軟らかいその中で、直前までとは比べものにならないくらいの快感に包まれた。舌も使いながら、すぼめた唇が何度も往復する。
「はぁっ....ぅ...」
いっそう、それは硬さを増す。ゾロの手がサンジの肩を思い切り掴んだ。ゾロのその手の動き、食いしばりながら出す声、そして小刻みな動きが連動して、絶頂を迎えたことを知らせた。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
なかなか荒い息が収まらないゾロを見て、サンジは言う。
「そんなに激しかったのか...ここに...落ち着くまでここにいろ」
胸の中にゾロの頭を抱えた。サンジの指が、ゆっくりとゾロの髪を梳いている。熱が少しずつ退いてくると、ゾロに緩やかな睡魔が襲ってきた。
「ゾロ...まだ寝るには早ぇぞ」
「ん.....」
「ん？何か落ちてる...」
「ん？どこ....？」
長椅子の足元に、それはあった。サンジが来る前にゾロが手にしていた物。あの日のバラ園でも見たことがある、懐中時計。
サンジの視線の方へ目をやり、ゾロが手を伸ばして拾い上げた。
「本当にそれ、いい時計だな」
「あぁ...」
「それ...お前の師匠だったか？...くれたのは」
「そうだ。独立の祝いにな」
「どんな師匠だったんだ？」
「優しくて厳しい人だった.......誰にでも分け隔てなく」
「弟子が大勢いたのか？」
「俺が弟子入りする前は、結構いたらしい。みんな独立して、俺が師匠についた頃は、5人くらいだったな。そいつらも独立して、俺ともう一人....」
「.......」
「姉弟子と二人になった」
「女？」
「師匠の一人娘で、花の種を見分ける目は誰にも負けてなかった。あいつの育てた花は評判が良くて、聞きつけて遠くから買いにくる金持ちもいた。それで小さな花屋を開いて、一人で切り盛りしていた」
ゾロの口から零れてくる、初めて聞く話に、サンジはじっと耳を傾けた。
「すまねぇ....面白くもねぇ話、聞かせちまったな」
「....いや、いい話じゃねぇか....」
「そろそろお前、仕事に戻る時間じゃねぇのか？」
ゾロは懐中時計の蓋に手をかけて、その手を止めた。サンジがゾロの髪を、再び梳きながら言う。
「もし差し支えなかったら.....その師匠の娘さんのこと....」
「あいつは....ここに居るさ」
ゾロの手の中の時計の蓋が開いた。そこには少女の顔写真がはめ込まれてあった。黒髪で、芯の強そうな表情だ。それを見つめるゾロの横顔は、何かを懐かしむような、誰かを慈しむような、そんな表情だった。
「ゾロ....俺...」
「気にするな....何か悪いこと聞いちまった、とでも思ってるのか？」
「....ただの姉弟子、って訳じゃなさそうだな」
「何が言いてぇ？」
写真を大事に持っているくらいなのだから、勿論そうなのだろう。でもそれを隠すわけでもなく、ゾロは普通に話をしてくれた。
もう過去の人、だからなのか。実はサンジが想像するような感情は、ゾロの中には存在しないのか。
「俺が最後の弟子だったから....」
「.........」
「普通は独立するような年になっても、俺は師匠のことが気がかりで、なかなかそこを出られなかった」
「.........」
「俺がいなくなれば、師匠は一人残ることになるからな....。でもこの時計を餞別として受け取った時、出る決心がついた」
「...そうか」
師匠のことが心配だと言うのは、きっと嘘ではなかっただろう。でも本当は、その場所に染み付いた彼女との思い出が、ゾロを引き止めていたのではなかったか。
「ゾロ....いい師匠に恵まれたな」
「.....あぁ」
「それは...師匠としてというより、親みたいな感じだな」
「....そうかもな」
早く忘れて自分の道を歩め、ではなく。
いつまでも忘れずに、いてやってくれ...と。
「俺、もう戻るわ」
「おう」
「また、来てもいいか？」
「.......何で訊くんだ？変なヤツだな」
「明日でも、いいのか？」
「いつ何が起こるか分かんねぇからな....」
「何だよ、それ」
「会える時は、いつでも」
「....ゾロ....今夜、時間作れるか？」
「あ？」
「明日なんて言ってらんねぇ...」
「...........大丈夫なのか？」
「夜は自由だからな」
「注意されるぞ」
「あの口やかましそうなハウスキーパーのことか？」
「他にも色々いる」
「俺達コックは、あいつらの管理下じゃねぇから」
「確かに、厨房は独立してるからな...その点で言うと俺は、一人で気楽そうに見えても、実は下っ端扱いだからな」
「意外と苦労してんだな」
「休みが無いに等しいから、身体は結構キツイけど...気苦労はない」
「じゃ、夜に俺が行くのは止めた方がいいか？」
言葉だけ聞くと、ゾロの身体を気遣っているようにも取れるが、サンジの顔を見る限り、そうでもないらしい。
「来るなっつっても来る気なんだろ？」
「当たり」
「構わねぇ.....待ってる」
「本当か？いいんだな？」
「ここに来るの、誰かに見られるんじゃねぇぞ」
「分かってるって」
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
その夜。ゾロの居る小屋にサンジは再びやって来た。
「こんなに早くに、よく抜けてこられたな」
「ヘッドと俺は気が合わねぇから、あんまり一緒にいねぇし、詮索もされねぇから」
「実は見られてる、なんてことねぇのか？」
「例えそうでも、別にいいさ」
「何か飲むか？」
「いや...今はいらねぇ」
昼間は窓を少し開けておいても平気だったが、夜ともなると肌寒い。窓は閉じられ、カーテンが引かれていた。広い庭も見えないし、風も入らない空間は、昼間と正反対で閉塞感があった。
初めてゾロを抱いた、真昼のバラ園。あれは夢だったのではないか...。そんな気さえしてきた。
「サンジ、まぁ座れ」
「あ、あぁ....」
サンジが膝を曲げかけた途端、ゾロが身体に手を伸ばしてきた。胸にサンジを引き寄せ、肩に顎を載せてくる。
「ゾロ...？」
「何か...変な気分だ」
「変って....？」
「お前を抱きたい....ような、その逆...のような」
「へっ？言ってることがよく分かんねぇけど....」
「今日の...あの顔を思い出したら...もう一度見たくなってな」
「...そ、そうかよ...」
「今夜は俺に抱かれてみるか？」
「そういう質問...真顔でするな、バカ」
「まぁ...嫌だったら仕方ねぇが」
「嫌ってこたぁねぇが....心の準備が...それに体も....」
「無茶はしねぇよ」
「でもな...今夜は俺がおめぇを抱く気で来たからな」
「そうか」
「次の機会に...ってことでどうだ？」
「.....あぁ...それでいい」
さっきからずっと顔のすぐ傍で話していたため、サンジの耳の奥にゾロの艶のある声が残っている。そして耳元に彼の息がかかる。彼の唇がサンジの頬を撫でた。サンジがすっと息を吸い込んで言う。
「草の匂いがするな...」
「そうか？自分では分かんねぇが」
「俺はどんな匂いがする？」
「もうちょっと調べねぇと....」
サンジの顔の隅々を、ゾロの唇が這い回る。顔の両方からゾロの手が挟み込み、唇を合わせてきた。すぐに彼の舌が入ってきた。サンジの口の中を動き回ると、痺れるような快感が、彼の腰や背中に生まれてくる。
「ゾ....ロ...」
「イイ顔だ....もっと見せろ」
「何だよてめェ...。この間の時は、されるがままだったクセに。手の内隠してんじゃねぇよ。全く、騙されたぜ」
「おめぇがどう出るか、見てただけだ...それより、喋ってねぇで、イイ声出せ」
「今夜は俺がする番だろうが....。何で俺が....ぁぁっ...ん」
サンジの耳を舐めた。首筋から順に唇を落としていく。
「サンジ、ゆっくり攻めたいところだが...時間がねぇから...」
ゾロの手がサンジの下半身へと伸びる。そしてサンジもまた、手をゾロの方へと伸ばしていた。
「時間がねぇんなら、こうするのが早ぇだろ」
「その前に...脱ぐか」
身体を覆う邪魔な物を取り払い、二人はベッドへと移動した。横たわる時の一瞬の隙を狙って、サンジが主導権を握った。ゾロの髪を撫でながら、サンジが見下ろす。
「おめぇの好きにはさせねぇ」
「それはこっちの台詞だ」
サンジの顔が近付いてくると、ゾロは自ら引き寄せてサンジの唇を貪った。つい先ほどの快感が、サンジの背中に蘇ってくる。ゾロの舌の動きを追いかけるサンジ。仕掛けるつもりがあっさりと仕留められてしまった。
口を離した後、少しぼぉっとしていると、ゾロがサンジの長い前髪をかき上げた。
「俺を抱く気で来たんなら、気合入れろ」
「おめぇが邪魔するから...」
「考える前に行動しろ」
「あっ....」
ゾロの手がサンジの下腹部へ触れてくる。サンジの膝が崩れかかるが、何とか耐えた。そして負けじと彼も同じように、ゾロへ手を伸ばした。
何も邪魔する物はなく、互いの手が素肌に直接触れている。崩れ落ちそうになるのを肘で支えながら、サンジはゾロの胸に唇を落とす。少し膨らみかけた突起を舌で転がすと、ゾロの身体が小さくぴくりと跳ねた。
次第に二人の息が上がってくる。サンジはゾロの上でこのまま崩れて、ゾロの手から与えられる快感に酔いたいという欲求と戦っていた。
「おい...無理すんなよ....」
「るせぇ...」
サンジは息をさらに荒くしながらも、何とか抑えてゾロの胸から腹へと唇を這わせた。そのままさらに下へと移動する。
すでに濡れ始めている、その部分の先端を、サンジの舌が滑っていく。
「んっ....」
「いっぱいしてやるから...声、出せよ」
「ぁ...」
舌が動く度、ゾロの声が小さく漏れてくる。その声では物足りなくて、サンジはゾロの分身を、一気に奥まで咥え込んだ。舌と唇で丁寧に扱いていく。その動きに合わせ、ゾロの太腿がぴくりと動いたり、腰が浮き上がったり。
サンジがゾロの両膝を持ち上げ、広げさせた。ゾロにとって、いくら感じている最中とは言え、こんな格好をさせられるのは本音としては屈辱的だ。彼は虚ろな目でサンジのすることを眺めている。
「ごめん、ゾロ...少しだけ我慢してて」
「....俺に考える余裕を与えるな」
「えっ？」
「この俺にだってな....」
(恥じらいってモンが、一応あるんだ)
口にはできない思いを押し込め、ゾロはまた目を閉じる。サンジは指でゾロから溢れる先走りを掬い取ると、その後ろに潜む、小さく閉じた口へ塗りつけた。指先で優しく撫でて少しずつ奥へと侵入させる。
ゾロはじっと目を閉じている。
サンジの指の動きと連動して、もう一方の手がゾロ自身を愛撫する。指に代えて次は舌先を当てる。ゾロの中心の高まりが、さらに硬く張り詰めた。そしてそれを扱きあげると、後ろの狭い入り口から少し力が抜けてくる。
再び舌に代わって指がその場所の担当になる。小さく円を描くように撫でながら、ゆっくりと中へ入っていく。さきほどより滑らかに指が入った。その狭い場所の内側から、イイ部分を探っていく。
「ゾロ....早く入りてぇ...」
「うぁ....んん.....ぁっ....」
侵入した指の数が3本まで増えたところで、ゆっくりと掻き回す。サンジにもいよいよ余裕が無くなってくる頃だ。
「3本でも...キツくなくなってきたぞ」
「うぁっ....はぁっ.....」
「挿れてもいい？」
「はぁ....るせーぞっ...てめェ....訊くな....」
「可愛くねぇ...ま、何言っても、今は許すぜ」
サンジがゾロの片足の膝を立てさせ、もう一方の足を自分の肩に載せると、すっかり硬く屹立した彼自身をゾロの中心にねじ込んだ。最初の一瞬だけ、押し返される感触があったが、構わず押し入った。ゾロの表情を見ながら、ゆっくりと進入する。
すぐ目の前のゾロ自身も、サンジの手を待っている。サンジは自分の体中に駆け巡る快感をやり過ごす為、ゆっくりと口から息を吐いた。
「今動いたら...俺...自信ねぇよ....」
「ふぅ.....情けねぇな」
「おめぇな...どんだけこの中が気持ちイイか...知らねぇからだ」
「だから俺に抱かれろって言ったのに」
「...こんなに気持ちイイこと、おめぇにも譲れねぇな」
「約束は約束だ。次は俺がおめぇを....」
「そろそろ黙りやがれ」
「てめェから喋ってきたクセに」
サンジは最奥まで自身を突くと、一気に逆向きに退いた。
「くぁっ...」
「んんっ....」
「ぁ...」
「駄目...っだ.....クソ」
「.....もう終わりか？」
「いちいちうるせェ」
「俺を置いていくんじゃねぇぞ」
「.......ついて来やがれ、クソ野郎」
「ふん、本当に優雅さのカケラもねぇ。てめェこそ、クソ野郎だ」
甘い雰囲気など微塵も無い、二人のやり取り。それでも気持ちは一向に萎えることも無く、一方向へ向けて燃え上がっていった。
サンジが何度も抜き差しを繰り返すと、ゾロがサンジの腰のあたりに手を伸ばし、思い切り掴んだ。そこにはゾロの指の跡がくっきりと残された。
「うぉ....っ...ぁぁ...はっ....」
「くっ....」
「ゾロっ...俺の頼むっ」
眩暈がしてくるのを懸命に耐えながら、サンジは自身を抜き出すと、ゾロの腹の上でその存在を誇示しているゾロ自身を握り込んだ。ゾロも状況を察し、サンジのモノに手を伸ばすと、すぐに扱き始めた。
「うぁ...っ」
「ぁぁ...っ...サン...ジ...」
ほぼ同時に上り詰め、欲望を吐き出した。ゾロの腹の上で互いの精が混じり合う。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
「あーあ....もう部屋まで帰る体力残ってねぇ」
「つべこべ言わずにさっさと帰れ」
「おめぇな....恋人に何て冷てぇ言い草だ」
「誰が恋人だ」
「違ぇのか...？じゃ、何だ？」
「..........さぁな」
「俺のこと...好きで、こんなことしてるんじゃなかったのかよ？」
「......それは....」
「少なくとも、俺はお前が好きだから」
「.....そういうこと、軽々しく言うな」
「ちゃんと、本気で好きだから、言ってるんだ」
「...........」
「お前が本気になれないって言うんなら」
「.......」
「本気にさせる」
「.........バカ野郎」
「ん？何だって？」
「どうでもいい相手なら、貴重な自由時間を使ったりしねぇよ。言ったろ、俺には休みがないって」
「そうだったな...それで？」
「......これ以上言わせんな」
ゾロの横顔。本当に綺麗な顔してんな...。サンジはしばらくの間見惚れていた。見られていることに気付いても、サンジの方へ見向きもしないゾロ。
「熱...あるんじゃねぇの？顔ちょっと赤いぞ」
「るせぇ」
「キスしていい？」
「.......だから、訊くなっつってんだろ....」
ゾロが一向に自分の方を向かないので、サンジはわざとゾロの頬に唇を付けた。
(こっちを向いたら、ちゃんとしてやるのに)
そのまましばらく動かないサンジ。根負けしたゾロが、ゆっくりとサンジの方へ首を回した。
「んん....」
「んっ...ん」
まるで今初めて交わしたかのような、少し控えめな口付けが長く続いた。
(ほら、やっぱり俺達、"恋人"じゃねぇかよ)
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「部屋に着くまで、油断すんじゃねぇぞ」
「分かってる」
「髪、そこ乱れてるから直しとけ」
「はいはい」
「またいつでも来い」
「またこれは積極的な」
「ただしいつでも会えるとは限らねぇぞ」
「そんなこと言って、俺に毎日会いたいんだろ？」
「毎日来いって言えば来るのか？」
「絶対行くさ」
「.....時々来い」
「一日おき？二日おき？」
「会いたくなったら」
「じゃ、やっぱり毎日だな」
「ふん、体がもたねぇぞ」
「ティータイム過ごすだけなら平気だろ？ゾロ、まさか会う度に俺とヤルつもりでいた？」
「....もう来るな」
「嫌だね。絶対行く。そして絶対ヤル」
「勝手にしろ」
ドアを半分閉めた時、サンジがゾロの肩に手をかけ、一際熱いキスを贈った。もしずっと会えなければ、このキスを一生の思い出にすればいい。
明日会えれば、また新しいキスをすればいい。
サンジの立ち去った後の空間は、急にひっそりと静まり返った。風は緩やかで、森の木々が優しい音を立てて揺れている。
ドアを閉め鍵を掛けると、ゾロは長椅子に腰を下ろした。椅子の隅に置かれた懐中時計を取り上げる。蓋をまた開けてみた。
「たまには帰ってみるか」
何とか休みを取ってみよう。今までそんなことをしたことがなかった。ただ、仕事をしていれば、辛いことを考えずに済んだから。でも今は違ってきている。
師匠と久しぶりに話もしたい。
「あいつの墓参りも...してぇしな」
花壇に大事に咲かせている、藍色の花を供えてやろう。
ゾロはとても穏やかな気持ちになった。
そして夜は更けていった。
fin.
■久々の庭師とコック編、如何だったでしょうか。今回は屋内です。ゾロ、攻めるのは次回までお預けとなりました。サンジの通い婚(?)が続くのでしょうか...
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