甘い香りを運ぶ風
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夏の盛りが過ぎ、重苦しい暑さも少し和らいできた。それでも日差しはまだまだ強く、肌をじりじりと焼いてくる。
汗ばんだ額を拭い草取りの手を休めたゾロは、段付きの踏み台に腰を下ろし、持参した水を口に含んだ。
広く枝を伸ばし沢山の葉を付けた木の根元での、束の間の休息。浅黒く焼けた肌に精悍な顔立ち。
夏はできれば木陰でのんびり涼みたいところだが、庭師にとっては最も忙しい時期だ。草取りだけではない。特にバラはこの屋敷の名物。バラの手入れのために庭師がいるようなものだった。ほんの少しも手を抜くことなど許されない。
朝夕の水やりは勿論のこと、害虫避けも欠かせない。そして今のこの時期には、古い枝や上に伸び過ぎた枝を落とす剪定が重要になってくる。特に秋咲きの品種では、これからの開花に備えて葉を"適量"残しながらの注意深い仕事が要求される。
ゾロは残りの作業を終えると、もう一度水を一口飲み、仕事場兼住まいである小屋へと戻った。頭の中は明日以降の仕事の段取りでいっぱいだった。
「ゾロ！」
慣れ親しんだ声....のはずだったがゾロの耳には届いていなかった。ゾロの意識は別の処に在り、全くの無意識のうちに、小屋へと続く伝い石の上を歩いていた。道具を脇に置くと、入り口の扉を開けた。
「おい、ゾロ....」
「ん？」
すぐ背後から呼びかけられ、ゾロは足を止めた。振り返ると、そこには、サンジが少し眉をひそめながら立っていた。
「何だ、お前か」
「何だ、じゃねぇだろ。何回も呼んでたのに」
「....あ、そうだったのか？悪ぃ....」
「考え事？」
「あ、いや....色々とな」
ゾロはすぐに作業机へ向かった。立ったまま紙の上にペンを走らせる。明日のバラの剪定に備えて、どの順序でやるかをメモしていた。勿論、サンジが傍から見ていても、その内容の意味は分からなかった。
書きながらも、何やら呟いているゾロ。全ては聞き取れなかったが、その中から"メアリー""マーガレット"という名前が聞こえた。
誰？サンジは訝しく思いながらも、ゾロが机から離れるのをしばらく待っていた。数分後、ゾロはペンを置くと、ふぅ、と息をつき振り返った。
「あ、悪かったな....何か用があったんじゃねぇのか？」
「用って....無くはねぇけど....」
今日は....いや今日も、約束無しに突然ここにやって来た。もしゾロが忙しいから帰れと言えば、サンジはそうするつもりでいた。
「忙しいんなら、俺戻るよ」
「いや、夕方にまたバラ園へ行くだけだから....問題ねぇ」
「それまで、ずっと暇ってこともねぇだろ？」
「.....まぁ、いつも通りだ」
ゾロは水で濡らして絞ったタオルを二つ持ってきて、一つをサンジの方へ投げつけた。そしてもう一つの方をすぐに広げて、顔や首を拭き始めた。
「夏場の仕事は大変そうだな」
「お前だっておんなじだろ？火を使ったりしたら暑いだろ」
「まぁ....そうだけど」
「楽な仕事なんてねぇ」
開け放った窓からは、いい風が入ってくる。その風と共にほんのり良い香りが漂ってくる。
「ゾロ...これ...何？」
サンジが鼻をくんくんさせながら問う。
「あぁ...それか」
ゾロは窓の方へと目をやりながら、答える。
「この間休みを取った時に、師匠がくれたんだ。このあたりじゃ珍しい品種だが、ハーブの一種だ」
「これが？」
窓の前にかかっているスクリーン状に編まれたような物が、そうなのだろうか。
「あぁ。そのハーブの根から香料が取れる。虫除け効果もあるらしい。乾燥させてこうして編んで、水で濡らして吊るしておくと結構涼しい」
「へぇ...初めて見た」
株もいくつかもらい、それは小屋の外にある鉢に植えたらしい。数年後には、草丈は3メートルくらいにもなると言う。
「寒さには弱いらしい。冬場は中へ入れてやらねぇと」
「ゾロ...」
.....お前は植物の話になると、俺すらちゃんと見えてねぇ。
「師匠に会いに行けたんだな」
「あぁ....すげぇ喜んでくれた」
「それと....」
「勿論、墓参りもしてきたさ」
「そうか」
「次は....」
「ん？」
ゾロは少し間を取りながら続けた。
「お前も....一緒に来てくれ」
「え？」
「紹介したい」
「.....」
「.....お前の話をしたらな、今度連れて来いって」
「俺の話って....」
一体、どんな風に話したのだろうか。まさか"恋人だ"なんて言ってはいないだろうが。サンジは、第一自分がそこへ行っていいものかと思った。それともゾロは、あんまり深く考えてはいないのだろうか。
サンジが思いを巡らせている間に、テーブルには飲み物が二つ運ばれてきた。
「これも貰いもんだが....ハーブティだ。薬缶ごと冷やしておいた」
サンジが長椅子に座ると、隣にゾロが腰を下ろした。
「あぁ...悪ぃゾロ。俺、今日は何も持ってきてねぇんだ」
「......構わねぇ」
その言葉を発するのとほぼ同時に、ゾロの手がサンジの頭を引き寄せた。
「....ん」
「....っ......」
「ゾロ」
「ん？」
「そういう時はさ、『お前さえ居れば』って言うもんだろ？」
声には出さず"馬鹿"と呟くと、ゾロは鼻で笑ってサンジの腰に手を回した。サンジはゾロの方へ向き直り、両腕をゾロの首に巻きつけた。キスを強請るような素振りを見せながらゾロを見上げる。
「もう1回....」
「1回でいいのか？」
「今は1回。また後で何回でも」
ゾロの腕に力が入る。優しく、何度も何度も唇を重ねてきた。その何度目かの時、サンジがゾロの舌を捉えた。もう絶対離さないと言わんばかりに、深く舌を挿し入れ口の中を舐めまわした。
ゾロの方も、されっぱなしでなかった。動き回るサンジの舌を捕まえると、強く吸い出した。尖らせた舌先でサンジの舌の表面を撫でると、サンジの腕から力が抜けていく。そのタイミングが分かっていたかのように、ゾロはサンジの身体を受け止め、長椅子にもたれさせた。
背中が浮くような、くすぐったいような、心地よい感触の中で、サンジは腕を伸ばし指先で、ゾロの口元を撫でた。
「何でか分かんねぇけど....今日の俺...」
「.....何だ？」
「お前に.....」
.......抱かれても、いいかも知れねぇ。
「........」
くっ、と小さくゾロの喉が鳴った。一瞬視線を外し、小さめの深呼吸をする。
「そんな顔しやがって」
「....何？」
「サンジ」
肘掛に頭をぶつけないよう、そっとサンジの背中に手を添えながら、ゾロはサンジと一緒に長椅子の上で身体を伸ばす。金色の髪に指を通しながら、サンジのこめかみから唇を滑らせた。ゾロのすぐ目の前にある、サンジの瞼からは、金色の睫毛がほんの少しカーブを描いて生えている。その生え際に沿って舌先で撫でると、サンジは焦れったそうに、ゾロの頭に手を添えてきた。
その手の動きに従って、ゾロはサンジの耳や首筋に唇を這わせた。時々意図せず息がかかったりすれば、その都度サンジの手に力が入った。
ゾロは、そのサンジの白い首に、強く吸い付きたいという衝動に駆られたが、何とか踏みとどまり緩く唇を付けるだけにした。
せめて、衣服に隠れる部分だけでも....。そう思ったゾロはサンジの襟元に指をかけた。このままボタンを外して白い胸を晒したかった。ゾロの喉がごくりと鳴った。しかしそのまま何もせず、サンジの身体から手を離した。
「......」
「.....ど....した？ゾロ」
「行かねぇと.....」
ゾロは身体を起こすとサンジに手を貸して、身体を引き上げた。
「あいつらが待ってる」
一番待ってるのは俺だろうが....。サンジはそう言いそうになった。
簡単に衣服を直し、入り口の扉の方へ歩いて行こうとするゾロの背に向けて、サンジは話しかける。
「手伝おうか？」
「...いや、ここで待っててくれ...時間が許すなら」
「時間はそんなにはねぇ。一旦戻らねぇと」
「.....だったら」
「ん？」
「だったら何で来るんだ」
「え？.....そりゃ、おめぇに.....会うために決まってんだろ」
「.........俺だってな.............」
サンジは次の言葉を待ったが、ゾロはそれきり何も言わずに扉を開けて出て行った。
「ゾロ！」
「....」
「夜は....時間あんのか？」
「.....無意味な質問するな」
「今夜、来ていいだろ？」
「...それも無意味だ」
「....来るからな」
「好きにしろ」
何か怒らせるような事を言ってしまったのだろうか？サンジは少し考えてみた。どちらにせよ、今夜もう一度来る事への拒絶の言葉は無かった。ならば、あまり深くは考えなくてもいいかと都合のいい風に思うことにした。
気が付くとゾロは小屋からずっと離れた所を歩いていた。ゾロを待つ美しいバラたちのところへ向かっている。
真夏にも咲くバラがあるらしい。確かゾロがそう言っていた。
「やっぱり俺も一緒に行って、夏のバラってやつを見てみたかったな」
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
用事は全て片付け、椅子に腰を下ろしたゾロは、1分と経たないうちにまた立ち上がった。夜風が窓に下がるハーブの簾を揺らしている。
「遅い....」
今夜、サンジは来ると言っていた。しかし何時ごろ来るのかまでは分からない。急用ができたのか、あるいは気が変わったのか。確かな約束などしていないのだから、遅いとか早いとか言うのもおかしな話だ。
しかし、ゾロは根拠もなく「遅い」と感じていた。
そう感じるのは、相手を待ちわびているからだと、恋しいと思っているからなのだと。気付いてはいるものの、考えたくはなかった。
ほんの隙間の時間を惜しむかのように、思わぬ時間に会いに来るサンジを、嬉しい反面憎らしく思っていた。顔だけ見て一言二言交わすだけの時も多い。ゆっくりと抱き締める時間もなく、また自分の腕の中から去っていく彼を追いかけたくなってしまう、そんな自分に対してやり場のない怒りにも似た、苛立ちを覚えるのだった。
例えその日の夜にまた会えるとしても、それまでの息の詰まるような胸の痛みがゾロを苦しめた。こんなに苦しいのなら、時間のない時に無理して会うことはないだろう、と。それなのになぜサンジは来るのか。
「あいつは何を思って、ここに来ているんだろう....」
何の悩みも無さそうな顔をして、楽しげにやってくるサンジが、自分のこんな想いなど、知る由もないのだろうとゾロは深い溜息をついた。
「ゾロ」
窓の外から声が聞こえた。ゾロは切ない気持ちが湧き上がってくるのを無意識に抑え込む。
「鍵は開いてる」
そうつっけんどんにゾロが言うと、シャリシャリと草を踏む足音が、小屋の入り口の方へ移動した。扉が開き、サンジが入ってくると、ゆっくりとゾロの方へ近付いてきた。
「ヘッドの雑談に付き合わされちまって....すぐ抜けられなかった」
「無理して来なくてもよかったのに」
心にも無いことを、思わず口にするゾロ。自分でも大人気無いとは思ったが、自然と口に出てしまう。
「........ゾロ」
「ん？」
「勝手に.....俺の、勝手で来ちまったけど....」
「........」
「.....迷惑じゃなかったか？」
「..........何言ってやがる」
ゾロはサンジの顎に手をかけ、ぐいっと掴んだ。
「俺はな、嫌なことを我慢して受け入れるほど、人間できちゃいねぇんだ！つまんねぇこと言うな！」
「....ゾロ？」
「来たけりゃ、いつでも来い....でもな....」
「..........」
「顔だけ見てすぐ戻るのだけは、もう止めてくれ」
「.....ゾロ.....」
唇が重なった。
角度を変えながら、何度も重ねられた。
サンジがゾロの頭を引き寄せると、それが合図であるかのように、互いの舌が絡まりあった。堰を切ったようにサンジを求めるゾロの動きに、ようやくサンジは事態を飲み込み始めた。
この気難しくて決して饒舌ではない男が、ここまで言ってくれたのだ。そしてそれと同時に、自分がゾロにそうさせてしまったことに、サンジは気付いた。
「ゾロ....ゴメンな」
「何の話だ？」
「....俺だって、すげぇ辛いんだぜ....実は」
「.......」
「..........ゾ、ロ.....」
サンジの両腕が、ゾロの肩に回された。ゾロの腕もサンジの背中へと伸ばされる。
「ただ...」
ゾロの肩に顎を載せたまま、サンジは続けた。
「ただ、な...俺さ....ゾロに会いたかっただけなんだ」
「..........」
「会いたいって思ったら、もう堪んなくってよ....それで」
「...もういい」
ゾロが強く抱き締めてくる。そしてサンジの衣服を脱がせながら、首筋や肩や胸元にキスを次々と落としていく。サンジはされるがまま、身を任せている。
そして、あ...と思う間もなく、サンジの体は持ち上げられ、ベッドへと運ばれた。いつの間にかゾロも上半身裸で、サンジに覆い被さってきている。サンジの手にゾロの手が重なった。息が止まるかと思うくらいの深く濃厚なキス。終わるかと思えばまた吸い付いてくる。ゾロの尖らせた舌先で、舌の表面を撫でられる度、サンジの背中に甘い痺れが走った。
「ゾロ....」
掠れた声で、サンジはそれだけ言うと、ゾロの肩へと腕を伸ばした。
「本当に....会いたかったんだ」
「....俺、も....だ」
「ゾロ」
「んっ....」
サンジは、ただゾロに会いたいその一心で、ここまで足を運んできていたのだ。そんな簡単なことも分からずに、収まりのつかない自分の思いに苛立っていたゾロ。しかしそのモヤモヤとした思いはすっかり消え去っていた。
ゾロはそっと唇を離した。サンジの目が潤んでいる。
「謝るのは俺の方だ....」
「ん？」
「辛いのは....自分だけだと思ってた....」
-----お前の気持ちを分かってなかった。
「ゾロ....」
「これからも....会いに来い」
「バーカ....命令すんな」
「....好きだ、サンジ」
「っ......」
初めてゾロの口から聞くその甘い告白に、サンジの心は崩れ落ちた。
うつ伏せにされたサンジの耳からうなじ、首筋から肩へとゾロの舌がゆっくりと這っていく。シーツを掴もうとするサンジの手の下へ、そっとゾロは自分の手を潜り込ませた。
綺麗な白い背中に見惚れながら、金色の髪から発せられる甘い香りを堪能する。ゾロは空いた方の手で、サンジの胸を撫でた。硬くなった小さな粒を指先で摘まんで小刻みに刺激する。それに反応したサンジの小さな喘ぎ声と、艶かしい横顔に、ゾロは思わず唾を飲みこんだ。
ゾロの大きく厚い手が、胸から腹を撫で下ろす。サンジの身体に緊張が走った。ゾロにこうして身体に触れられるのは初めてではない。そして、これから与えられるであろう快楽を既に知ってしまっているサンジは、その期待感と少しずつ湧き上がる興奮で、何もかもが敏感になっていた。
「怖がるな....絶対に無茶はしねぇから」
「こ....怖がってなんか...っ」
「そうか？ならいいけど....このへんが緊張してるみてぇだから」
ゾロがサンジの腰から太腿をするりと撫でた。
「うあっ....」
「どうした？」
「.....急に触んな」
「.....でも、ちょっと力が抜けたみてぇだ」
「へっ....」
「ん？」
「柄にもねぇ....」
「何がだよ」
「ほら....」
サンジがゾロに自分の手を重ねた。サンジの手が微かに震えている。
「怖いとか...思ってねぇんだけど....」
「無理...しなくていい」
「してねぇよ...何ともねぇ」
「....じゃ、お前に任せる」
ゾロはサンジの身体を抱き締めながら、訊いてきた。
「上に...来るか？」
「えっ？」
「自分で....いいようにやってみろ」
「...........いや、このままでいい」
「いい...のか？」
「うん.....」
ゾロの左手がゆっくり下りてくる。サンジの下腹部の柔らかな茂みの下から半分頭を持ち上げた、その部分に手を触れた。表面をそっと撫で下ろした後、手の平で包み込むと、先端に向けて扱き上げた。
「んあっ....」
「っ....」
サンジのその声を聞いただけで、ゾロ自身にも熱が篭る。早くその熱をどうにかしたいところだが、ひとまず今は耐えるしかない。
ゾロの左手の中のサンジは、愛撫の動きに連動してすっかり硬くなっている。そしてその手は、いつの間にか濡れてきている。手が動く度に、くちゅくちゅと音がした。
「聞こえるか？」
ゾロはさらにその水音が大きくなるよう、手の動きを早くした。サンジは口に手の甲を当て声を抑えながら、首を左右に振っている。
「声、我慢するなよ....お前の声、聞きてぇ」
「.....じゃ、もっと....感じさせろ」
「....っ...て....めェ....」
煽りやがって.....。
「サンジっ....」
最初っから、余裕なんてねぇんだ...。それなのに、おめぇは...。
ゾロはサンジから手を離し深呼吸すると、もう一度身体を抱き締めた。
「ゾロ？」
「このままだと....マズイ」
「マズイ？何が？」
「自分でも分かんねぇ....目茶苦茶にしてしまいそうだ」
「....何カッコつけてんだよ」
「あァ？」
「余計な事考えてんじゃねぇよ.....俺はいっぱいおめぇを感じたい」
「俺....だっておんなじだ」
再びゾロの左手がサンジを包み込んだ。サンジの反応を見ながら力を加減し、ややゆっくり目に動かし始める。サンジの息が荒くなってくる。何とか声を聞き取ろうと、ゾロはサンジの口元に耳を近づける。
「あっ....んっ...」
「サンジ....」
「あっ...はぁぁっ....」
「.....」
ゾロは無意識のうちに下半身をサンジの腰に押し付けている。
「ゾ..ロ....」
「ん？」
「良かった....」
「何が？」
「お前も...あんまし余裕なさそうじゃん」
「ふん....あんまし、じゃなくて"全然"ねぇんだよ」
「顔に似合わず、なんだな」
「もう口閉じろ」
ゾロがサンジの唇を塞ぐと、まるで罠にかかったようにゾロの舌が強く吸われ、絡め取られた。舌の表面が触れ合う度、鳥肌が立つような感触が背中を走り、ゾロ自身にもさらに熱が集まってくる。
「んんっ...」
名残惜しい唇を離すと、ゾロは右手も下ろしていった。柔かい嚢をゆるゆると揉むと、その後ろへと指を滑らせた。初めて触れるその場所をそっと円を描くように撫でていく。
声はしないが、サンジの息を呑む気配がした。
「止めるか？」
「....そんなこと....できるのか？」
「.....できねぇ」
「じゃ、訊くなよ」
「....力...抜いとけよ」
サンジの身体が仰向けにされると、両膝の裏にゾロの手が入り持ち上げられた。
「わ...ゾ....ゾロ、何を....」
「落ち着け....」
「こんなの.....」
「.....ちったぁ我慢しろ....俺だって.....したんだから」
「うっ.....」
サンジは、いつだったか、ゾロに謝りながらも、今の自分と同じ格好をさせたことを思い出した。このゾロがよく耐えてくれたものだと今さらながら思った。そんなことを思い返していると、下半身に慣れない快感が走った。
「ひっ.....」
さきほどまでゾロが指で撫でていたその場所に、今度は口を付けている。熱い息をかけながら、舌を挿し入れたり抜き出したりしている。
思っていたよりずっと恥ずかしいこの状況に、サンジは片手で目を覆い、もう片方の手でシーツを掴んだ。恥ずかしくて逃げ出したい気分になりながらも、だんだんと興奮してくるのが分かった。
「おい....」
「んんっ....」
「顔、隠すな....ちゃんと見せろ」
「....」
「ココ、自分で見てみろ」
「...？」
サンジはそっと手をどけ、ゾロが目で示した方向に目をやった。
「いっ.....」
サンジが見た自分自身は、信じられないくらいに硬くそびえ立っている。
「感じて...くれてんだな」
ゾロが、その先からトロトロと流れ落ちてくるモノを指に取ると、後孔へ塗りつけながらそのまま挿し入れた。それとほぼ同時に、サンジの分身を口に含み舌で愛撫した。
ゾロの指が中で動く度、その中も呼応するように蠢いてくる。口の動きを少し速めると、中も連動して反応する。
「おめぇの中....すげぇ柔かくて...トロトロだ」
「言うな....」
「もっと入れても....大丈夫だよな？」
増やした指で、さらに中を刺激した。目的の場所を探り当てようと、指先を動かす。
「うぁぁぁっ.....」
「ココか.....」
ゾロの口内に収まっているサンジのペニスがきゅんと硬くなるのが分かった。サンジの手がゾロの頭や肩に触れ、何かを訴えるように動いている。
もう、やめろ....なのか。
もっと....なのか。
どちらにせよ、これからやることに何ら違いはない。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
「ああっ....」
「もう止めねぇからなっ....」
「うう...んんっ」
ゾロは、サンジの身体を反転させると白い双丘に手をかけ、自身を捻じ込んだ。無理はせず、ゆっくり挿入したつもりだったが、サンジの口からは一瞬だけ痛みを訴える声が漏れた。
「うっ....キツ....」
「はぁ....ぁ....」
「....全部....入ったぞ」
「信じらんね....あんなのが....」
「やれば....できるもんだな」
「んっ...俺が....巧いからだろ」
「いや...俺だろ」
一旦手を離していたサンジの下腹部へと、ゾロは手を伸ばした。やはりゾロを受け入れるのに精一杯だったのだろう。ほとんど力を失っていた。できるだけ力を入れずに手で包み込み、ゆっくりと動かした。
「んっ....」
「サンジ...顔....」
肩越しにゾロの方へ顔を向けると、唇も舌も思い切り吸われ息が苦しくなった。サンジが薄く目を開けてみると、全く余裕の感じられない切羽詰った表情のゾロがいた。
そしてサンジもまた、ゾロの手によって熱を取り戻した。次々に与えられる快感を追いかけながら、時々意識が遠くなる。
「おい....大丈夫か？」
「...あ....あぁ.....」
「辛いのか？仰向けになるか？」
「....いや....いい....」
「俺....もう....」
「あっ...そこっ....」
そう言うとサンジはシーツを掴んだ。ゾロの指の間から、少しだが白濁の液が流れ落ちてきた。後ろの熱い粘膜の内側も、ゾロ自身を取り囲みながら蠢く。
「くぁっ....締めん...な」
「うぁっ....も......駄目」
「いい....そのっ..まま」
ゾロが激しく腰を打ちつけながら、左手も同じ速さで動かした。遠くにあった絶頂感が加速をつけてサンジに近付く。そんなサンジの様子を見ながら、ゾロも頃合を計っている。
「ゾ..ロっ」
「ぐっ....んんっ...ぁっ」
歓喜の声をあげた後は、息を詰め、身体を襲う痙攣の波に耐える。二人は繋がったまま、ベッドに横向けに倒れた。息が収まるまでの間、ゾロはサンジを背後から抱いていた。サンジが目の前で交差されたゾロの手を掴み、その指先にキスをした。
「ゾロ」
それだけ呟いただけで、幸せな気分になる。返事が無くても構わない。今、ゾロがすぐ傍にいる。それだけで充分だった。
ゾロの手がゆっくりと動き出すと、サンジの髪をそっとかき上げ、耳元で囁いた。
「サンジ.....」
「ん？」
「.......悪ぃ.....」
「.....ん？何が？」
「あ....その.....間に....合わなかった.....」
「......っ....」
「悪かった....」
「......おい」
「え？」
「本当に悪かったって思ってんの？」
「何が.....」
「全然反省してねぇじゃん....ココ」
「んあっ....」
思わずサンジの髪を鷲づかみにするゾロ。
「へへっ....そんなに俺ん中、気持ちよかった？」
「.....あぁ......思ってた以上だった......」
「で、ついそのまま出しちゃったってわけ？」
「.....だから....悪かったって言ってる」
「で、思い出したらまた勃ってんだ？」
「う.....」
「今....思ってるコト、言ってみろよ？」
「.....」
「お前の一番イイ声で....」
「サンジ....」
「適当に言ったって駄目だからな」
ゾロの唇が近付いてきた。
「........」
「....」
「もう1回......ヤらせろ」
「んっ.....」
-----何なんだコレ....ぁ....
体中の血が集まってくる。今のサンジにとっては、ゾロの囁き声は媚薬にしかならない。
「あっ...」
「どうした？」
いつの間にかゾロの手が、サンジの下腹部に伸びてきていた。彼自身の根元近くを握りこみ、親指と人差し指とで先端を撫でている。
「やっ....」
「何だ？早くヤリたくて堪んねぇのか？」
「ああっ...んっ」
「このまま手でイクか？」
「んんっ....ぁ」
ゾロの舌がサンジの耳の中を這う。
「....んな声出すから、また間に合わなくなんだろうが」
「....いい...中に....出せ....」
「いいのか？」
「早く....動いて....」
「くっ.....またそうやって」
「はぁっ....ヤ...ヤバ.....もう」
「お、おい....あと少しだけ待て」
「待てねぇっ....もう無理....」
ゾロが少し手に力を込め、サンジの熱をせき止めた。その間にサンジの身体を少し持ち上げると、思い切り腰を打ちつけた。何度も、何度も。
「くぁっ.....ぁ...サン....ジ」
「んんっ....」
ゾロの手が緩み、再びサンジを愛撫する。熱が一気に解放へと向かう。
「ああーっ....ゾロっ....」
「んっ.....」
ぐったりするゾロの腕の中で、サンジの意識は遠のいていく。
＊＊＊＊＊
サンジが再び目を開けた時には、僅かに気だるさが残っているだけだった。そのだるささえ、心地よいと感じていた。そしてその心地よさは、ずっとゾロの腕の中に居たからだと、気付いた。
「ゾロ..」
「んん.....」
「腕、痺れてんじゃねぇの？」
「....大丈夫だ」
「シャワー、貸してくれるか？」
「あぁ...いいが....待て」
「ん？」
「あと5分だけ....」
「あ....」
サンジを抱き締める腕に力が込められ、首筋にゾロの息がかかった。
「毎日は会えないからな....」
「ゾロ....」
「こうして....全身に覚えさせとく」
「全身...って、やっぱりソコも含まれるわけ？」
「あ....コレは....」
少し慌てた顔のゾロが、愛おしく感じた。
「いいよ、どうせ起きたばっかりだから...って言うんだろ？」
「いや....それもあるが」
「他にもあるのか？」
「この状況で、普通で居られるわけねぇだろ」
「...そうか...やっぱ、ゾロでもそうなんだな..」
「離したくねぇ....」
思わずそう口走ったゾロが、サンジはますます愛おしく感じた。
「じゃ、もうあと5分、延長してやるよ」
「.....っ」
「ん？」
「...それだけあれば.....」
「....ゾロ？まさかまたヤルんじゃ...」
「悪ぃ...コイツ収まりつかねぇ....」
「おいっ....てめっ」
サンジの胴に腕を回し、繋がったままの下半身を前後に動かす。起きたばかりでよくそんな元気があるものだと、サンジはおかしなところに感心した。
呆れて、もういい加減にしやがれ！と怒鳴りたかった。
でも肩口から聞こえるゾロの声が、ただひたすら真っ直ぐに自分を求めていることを伝えてるような気がして、サンジは思いとどまった。
「3回もこんなイイ思いさせてやったんだからな....っ」
「あっ....サン....ジ.....」
「...有り難く思いやがれっ...」
「一緒に....イってくれ...」
「無理だ...いいから俺のことは気にすんな....んっ」
サンジの言葉が途切れ、さきほどまでの勢いが無くなった。ゾロの動きが小さくなる。そしてゾロの手がサンジ自身に触れて初めて、サンジはその変化に驚いた。
「俺はいいって言ったのに....余計な事すんなっ」
「一緒に.....」
「後で足腰立たなくなんだろうがっ」
「2回も3回も変わらん」
「んぁ...やめっ.....ソコばっか狙うんじゃねぇよ」
「俺も...ココ当たると結構イイんだ...何か引っかかる感じが」
「くっ......ッカヤロー....気持ち良過ぎんだよ....畜生」
「限界だ...もうイクぞ」
「勝手にしろ...俺も....イクっ...ぅぁ...」
＊＊＊＊＊
「覚えてろ....」
「あぁ、絶対ぇ忘れねぇ」
「何でこんなヤツ....好きになったんだ」
「逆だろ....好きになったからこうなった」
「お前....仕事に障らないのかよ？」
「うーん....別にどうってことねぇよ」
「今日は客は来るのか？」
「いや...予定はねぇが」
「何か...色々メモってたからさ」
「ん？」
「人の名前とかも言ってたし...」
「名前？ああ....メグとメアリーな....」
「....」
「マーガレット・メリル...そして、メアリー・ローズだ」
「麗しいレディって感じのする名前だな」
「あぁ、彼女らは実に美しい」
「....や、やっぱり....」
「ん？」
「バラ園に案内した客なんだろ？」
「....」
「気に入った女だったら名前訊いたり....その....世間話とか...？」
「メグのあの純白の姿は一度見たら忘れねぇ...清楚で....石鹸の香りがした」
「おい....」
「メアリーの方は、何か一見華やかで....でも可憐で...甘い...ん？」
「ゾロ....もう少し詳しく聞かせろ....何か肝心なこと隠してねぇか？」
「まだ聞きたいのか？」
「レディ・マーガレットの純白ってのは、ドレスのことか？」
「いや」
「石鹸の香りって、香水か？」
「いや」
「メアリー嬢はどんな風に華やかなんだ？甘いって何が甘いんだ？」
「......分かってんなら訊くなよ」
あまりサンジが真剣に訊いてくるので、ゾロも真面目に答えた。マーガレットは寒さに強いが雨や夜露には弱いらしい。思わず見惚れるほど美しくて、満開直前が特に素晴らしいのだそうだ。そして、メアリーの方は、少し近付いただけで分かるほど、強く甘い香りがして、豪華・豪快に蕾を一杯つけ、それでいて可憐な花を咲かせるらしい。ほんの小さい苗から始めても、早く大きく育つ品種ということだった。
-----クッソー！ゾロは俺をからかってやがったんだ。だいたい、そんな紛らわしい名前付けんなってんだ。
サンジは思わず、バラ園で花に話しかけながら、葉に手を触れたり蕾に口付けるゾロの姿を想像した。
-----何か複雑だ。
静かになったサンジ。ゾロが不思議そうに話しかける。
「どうした？」
「.....やっぱ、名前付けると.....愛着っつうか愛情湧くもんか？」
「は？」
「名前だよ！メアリーとかマーガレットとか！」
「アンジェラもいるぞ」
「もういいよ！」
「プリンスとかルイ14世もいるがな」
「ずいぶん大きな話だな」
「そりゃ、そういう時代背景だったんだから....そうなるんだろ」
「.....ん？」
「？」
「お前が付けた名前じゃねぇのか？」
「え？」
「....」
「俺がそんなコトするように見えんのか？」
「見えねぇから....ちょっとビビッてたんだ」
「....ちょっとは疑えよ」
「俺は花のことは疎いから....そんなもんかなと思ったんだ」
「悪かった....」
「何が？」
「....少しは...心配してくれたんだろ？」
「だから何を」
ゾロの唇が近付いてきた。軽くサンジの唇に重ねると、ゾロが耳元に囁いてきた。
「妬かせて....悪かったな」
「誰がっ....」
サンジの耳たぶを軽く食みながら、髪を撫でてくる。少し悔しくはあるが、それで全ては帳消しになった。このまま今日は、こうしていたい....とサンジは思うのだった。
＊＊＊＊＊
「大丈夫か？結構遅いぞ」
「戻る以外仕方ねぇだろ」
「泊まっていくか？」
「バカ言え！ヘッドに何言われるか....下手すりゃクビだ」
「.....サンジ」
「ん？」
「また、来いよ」
「お....おう」
そんな優しい顔して言うなよ....。サンジは名残惜しい気持ちに支配される前に、ここから出て行こうとした。扉のすぐ前まで来た時、ゾロの手がサンジの腕を掴んだ。
「ゾロ...何も言うなよ」
「ん？」
「俺さ....意外と脆いんだよ...もう気付いてんだろうけど」
「サンジ...」
「ま、気が向いたらまた来てやっからよ....」
「そのうちまた忙しくなるぞ」
「そう...なのか？」
「秋の茶会は.....俺も経験ないから分かんねぇが....かなりの規模らしいぞ」
「ゾロ....そんな事言って」
「ん？」
「俺に毎日会いたいんだろ？」
「.....あぁ」
「...あ、いやそれ以上は言うな」
「....」
「気が向かなくても来てやる！お前が俺に会いたいって言うから！」
サンジの手は掴んだまま、ゾロはサンジを抱き寄せる。
「何も言わねぇ....これが俺の気持ちだ」
ほんの数秒間の抱擁の後、ゾロはサンジを見送った。
「じゃ、な。気をつけて帰れよ」
「ゾロ....」
振り返ったサンジと目が合わないうちに、ゾロは扉を閉めた。サンジが伝い石を踏む音が聞こえた。今すぐこの扉を開けて、サンジを追いかけたい気持ちは、一体どうすればいいのだろう。
窓から外を眺めても、色の無い庭が広がっているだけだった。また明日、日の光の下で、この草木の世話をして、疲れるほど働けばいい。それで一日だけでも、いや半日でも、燻る想いから解放される。
『俺だって辛いんだぜ』
ゾロは、サンジの言葉を思い出した。ただ、会いたかっただけだと。その気持ちだけで会いにくるのだと。
俺だって、どれほど会いたいか。
それは今日、充分伝わったはずだ。
-----だったら、いいじゃねぇか。
明日は、秋に備えての重要な仕事が待っている。さっさと身体を休めよう。ゾロは扉横のランプの火を落とすと、ベッドに入った。シーツの上に落ちている、1本の細い金色の髪を見つけ、指先で弄ぶ。
「人がせっかく寝ようとしてるのに....思い出させるんじゃねぇよ」
ふわりと生温かい風が流れ込む。すっかり乾いたハーブの帳がいっそうよく揺れている。
ゾロがその髪を指先に巻きつけながら何度目かの寝返りを打った時には、心地よい眠りに落ちていた。
fin.
■またしても間があいてしまいましたが、シリーズ3作目となりました。ゾロってなんでこんなに受け攻めで性格変わるんでしょうか....？？
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