〜青い薔薇 続編 2.1〜
呟きと回想と抱擁と
〔ご注意〕***30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい***
かなり高くなった日の光が顔にかかり、その眩しさでサンジは眠りから覚めた。厚めのカーテンをきちんと閉めたつもりが、少し引っかかっていたようだ。今日は随分天気が良さそうだな、と思いつつ、ベッドの中で体の向きを変えた。
手を伸ばさなくとも、簡単に触れることができる距離に、そこにいるのが当然のように、安らかな寝顔を見せているゾロがいた。まだ、たかだか3時間少ししか眠っていないはずだから、起きては来ないだろうが、サンジはできるだけ音をたてないよう注意を払いながら、少しずつゾロに近付いた。考えてみれば、こんなに近くでじっと顔を見ることなど滅多にない。何をジロジロ見てんだ、と文句を言われるに決まっているからだ。
「こうして見ると...」
心の中で呟いているつもりだったが、サンジは無意識に、声に出してしまっていた。
「....普通にイイ男だよな...」
こんな風に無防備にしている時でさえ、精悍で凛々しい表情を見せている。普段一緒に過ごしている時は、さらに鋭い目元で男らしさが上がる。でもそれは何か難しいことを考えている時だけで、取るに足らない会話の時などは、優しい表情も見せてくれるのだ。
「でも、アノ時はまた違うんだよな...」
ゾロが起きていたら、絶対怒るだろうから言わないが、つい思い起こして顔が緩んでしまうのは、二人きりの熱いひと時での顔。サンジは、いつでもゾロと抱き合っている時のことを脳内でプレイバックすることができる。この顔を知っているのは自分だけなのだ。
「いや、待てよ..」
サンジは急にトーンダウンした。
嫌なことまで思い出した。
「...でも、それはそれ。これはこれ...」
ゾロが現役ホストであることを思い出した。常に数人の客が付いている。毎日その内の誰かが彼を指名する。別の誰かが枝を連れてくる。最近は口コミやら色んな情報を頼りに店に来る子もいる。客の減る気配はない。
それだけなら、まだ良かった。店の中なら、どうという事もない。問題は『同伴』だ。この時は一体どんな顔を見せているのか。同伴の目的は、客と親しくなり、リピータにさせること。確実に店に来させること。業界では俗に言う『色恋』だ。早い話が『枕営業』。贔屓のホストと恋愛をしている気分を味わい、気をよくして店で金を使う。身も蓋もない言い方だが、最終的にはそれに行き着く。
ゾロの性格からして、とてもできそうになかったのだが、すでに同じ客と2度、同伴営業をこなした。昨日は、その2度目の同伴だった。そしてゾロはその客と寝た。
「何て因果な商売なんだ...」
気が進まなくても、好みのタイプじゃなくても、全く別次元の問題なのだ。その時だけは恋人だと思い込まなくては、とてもやっていられない。いや、これはサンジの持論だ。ゾロの方は、どう思っているのかまでは、まだ確かめてはいない。
しかし、これはサンジの勘なのだが、ゾロの客のロビンに限っては、かなり危険な匂いがする。体力だけは人一倍あるゾロが、あれほど疲れて帰ってきたのだ。それも顔に出るような疲れ方だ。何か「気」を吸われてるんじゃないかとさえ、思えてならない。
かなり、危険だ。
「一体、どんな顔を、あの女に見せたんだよ...」
それを知ったところで、どうなると言うのだろうか。同伴など、これからも何度もあるはずだ。気にしていたら、サンジの体がもたない。シャンクスにも、以前から言われていたことだ。
「まさか....女相手が初めてだったんじゃねぇだろうな！」
過去の恋愛についても、ゾロに確かめたことはない。女の影を感じたこともない。実際には数人、付き合った経験があるのだが、ゾロは必要な情報と判断しない限り、サンジに言う事はないだろう。勿論訊かれたら話すつもりではいるけれど。
小声ではあるが、ずっとブツブツ言いながら、サンジはゾロの顔を眺めていた。この野郎は人の気も知らないで呑気に寝やがって、と呟くと、仰向けになり大きな溜息をついた。
「それでも俺は、お前が好きなんだから、どうしようもねぇや」
彼は自嘲気味に笑った。
「終わってるっつうか...ヤキが回ったか」
ずっとゾロの顔を見ていても飽きないが、まだ眠り足りない。もう少し眠ろう。そう思い、サンジは再び目を閉じた。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
いつもより近いサンジの寝息を感じ、ゾロは徐々に眠りから覚めた。余程疲れていたのか、すぐに寝付い後も深い睡眠だった気がする。目覚める前に、夢の中でサンジがやたらと喋りかけてきたような気がするが、よくは覚えていない。
「何だよ、コイツ...こんなにこっち側に寄ってきてるぜ」
もう少しそっちへ行け、とばかりにサンジの体を押しやる。いつも小生意気な物言いのサンジも、眠っている時は年相応の男子の顔だ。
「やべっ...今、ちょっと『可愛い』って思っちまった...」
ゾロは思わず自分の思いを口にした。サンジが聞いていなくて良かったと思いつつ、緩みかけた口元を押さえた。
4時間程度だったとは言え、こんなに爆睡するほど疲れた原因は、明らかだ。普段の仕事の何倍も疲れた『同伴』。あんなものが、これからも続くのか...と思うと気が重くなる。憂鬱というより、自信がない。面倒臭い。
店に来た客達は皆、帰り際に『楽しかった』と言う。何が良かったのか分からないまま今日まで来てしまった。今のままで良いと、シャンクスも言うから、そうなんだと思ってきた。
サンジは持ち前のサービス精神と女性あしらいの巧さで、NO.2ホストにまで上り詰めた。彼に訊けば、ゾロの疑問は大体解決するだろう。でも訊けない。訊く気もない。今もただの同僚であれば、訊いてみたかも知れない。
サンジとは、仕事で繋がっているのではないのだ。ただ、これはゾロの理屈。サンジは逆に仕事のことを訊いて欲しかった。何でも教えてやりたかった。教えていて辛いと思えることもあるだろうが、それは仕方のないこと。少しでも力になりたいと考えているのだ。
2度目の同伴営業は、かなりハードだった。自分の不甲斐なさ、経験の乏しさを痛感した。でも、プライドが傷つくということはなかった。これは彼女に....ロビンに感謝だ。シャンクスが言っていた通りの女だった。わざわざホストに金を遣わなくたって、いくらでも男がいるだろうに...。
いい女だが、ゾロにとっては苦手であることに変わりはない。苦手と言いつつ、二人で居るときは、まるで魔法にかかったかのように『恋人』同士だった。普通の恋人同士がするように、数時間を共に過ごした。
車に乗り込んでから、植物園、そしてホテル。ゾロはロビンと過ごした時間を順番に思い起こしていった。もう一度同じことをやれと言われても、できそうにないことも多々あったが、あれはその場の流れでそうなっただけのこと。そう自分に言い聞かせた。
抱き合い、二人同時に到達し、ロビンがゾロの胸の上に崩れ落ちた瞬間の映像が、やけに強く脳裏に蘇ってきて、ゾロは焦った。何でよりによって、あの場面を思い出すんだ...。そう思って頭をぶんぶんと振る。二人の荒い呼吸の音までもが耳について離れない。
「ま、確かに『中』は気持ち良かったけどよ...」
サンジが起きて聞いていたら、半泣きで拗ねそうな台詞だ。
「でも..最後はよく覚えてねぇな。記憶飛んでんのか...」
ん？
『中』.....。
あの時.........
ゾロは何か違和感を感じていた。
.......
「おわっ！」
思わず声を上げた。小声の範疇を超えていたその声に、サンジが反応して寝返りを打った。ゾロはサンジの方に注意もせず、呟いた。
「アレ、着けてなかった」
最近女とそういうこともしてなかったから、避妊具は持ち歩いていなかった。それに使ったのは普通のシティホテル。部屋の中に売ってもいない。と言うより、全く考えていなかった。サンジが聞いたら呆れるだろう。
「コイツなら、いつも1ダースくらい持ち歩いてそうだな」
さぞかしナンパ成功率も高かっただろうし、ホストをやってる時は必需品だっただろう。ホストでなくとも、男たる者、一つや二つは忍ばせておくべきだった。
「でも、今までどうだったかなぁ...」
ゾロは遠い記憶を辿った。何人か付き合った相手とはどうだったか。そうだ、『私が着けてあげるよ』とか何とか言われてたような気がする。自分で着けたこともなかったかも知れない。あるいは『今日は要らないからね』というのもあったか。
「うわ...俺、何かすっげぇ情けねぇ...」
思わず頭を抱えた。彼女らが、今ゾロがホストをやっていると知ったら、驚くに違いない。『ゾロにできるのぉ？』とか言われそうだ。
一人で考え込んだり、思い出したり、表情をくるくる変えているゾロ。そして考えがまた舞い戻った。着けてなかった、という事実は変わらない。
「どうすんだよ、『デキた』とか言われたら」
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
「ゾロ....」
「えぇっ？」
「何...そんなビビッてんだ」
「ビビッてなんかない...急に話しかけるから...」
「さっきから、呼んでたんだけど」
「....さっきって、いつ？」
「いつって言われても....時計は見てなかったからなぁ」
「....」
「どした？」
「...俺、何か言ってたか？」
「うーん...言ってたような気もするけど、俺も目ぇ覚めたばっかで、ぼぉっとしてたし」
「そうか...」
「ゾロ、大丈夫か？まだ疲れてるんじゃね？」
「いや...もう何ともねぇ」
「そっか...じゃ、今日は期待できるな」
サンジは満面の笑みでゾロに近付いてきた。
「あ、いや...今じゃなくても...」
「後でまとめて、の方がイイ？」
「まとめて..ってどんなだよ」
「何回も続けてはシンドイだろうよ？だから小分けする」
「小分けって、お前なぁ...ちょっ...わぁっ...」
バタバタと、傍から見ればじゃれ合っているようにしか見えない二人。前日の分を取り返すかのように、サンジはゾロに仕掛け始めた。ゾロの肩を押さえると、耳を舐め、首筋に顔を埋めた。
「ぁ..」
ゾロの口から漏れた小さな声も、聞き逃さない。サンジはゾロの耳元で低めの声で囁いた。
「とりあえず1回、イっとこうぜ」
起きたばかりだし、いきなり体力消耗してもアレだから、すぐ終わらせてやるよ。そうサンジが言うと、もう手がゾロの下腹部に伸ばされてきた。それほど硬くはなかったその部分も、サンジの手によって、みるみる形と大きさを変え始めた。
「ぅぁ...ん...ま、待てよっ...サンジっ...」
ゾロはサンジの手を掴み、何とか動きを止めた。
「どうしたぁ？俺の愛が受けられないってか？」
「腹減ってんだよ...それに風呂にも入りたいし」
「んなの、1回イクのに関係ねぇだろうが」
「今、そんな気分じゃねぇし」
「どの口が言うんだ、こんなにしといて！」
「ふぁぁっ...んん」
サンジの器用な手の動きで一気に快感を引き出されてしまった。ゾロは頭がついていかない。本当にそんな気はなかったのに、体だけが持っていかれているようだ。
「ぁ..サンジっ....もうやめろってぇ...」
いつもより勢いがないゾロの声。眉間の皺こそあるものの、口元は緩いままで、サンジの体につかまっている。
（ちょ...何そんなに可愛いことしてんだ）
その仕草や声に、サンジ自身も一気に熱が上がっていく。ゾロだけイカせてやるつもりが、予定が狂ってしまった。
「今すぐ入れてぇ.....クソっ...何だよっ」
「あっ...もうやめろ...出る.....」
嘘だろ？そうサンジが呟き手を止めた。ゾロ自身の根元をぐっと握り、熱の動きをせき止める。
「ちょっとやり過ぎたか..。ゾロ、イキたいよな？」
「....たりめぇだろ...ここまでヤッといて...」
「今から慣らすの無理だから...先にイカせるから...次、俺のもシテくれるか？」
「何、しおらしいこと言ってんだよバカ」
「バカとは何だよ！」
「放っとくわけねぇだろーが」
もうギリギリまで来て、暴発寸前のゾロ。ちゃんと責任取るぜ、と言いながらサンジは、口を大きく開けてゾロ自身を咥え込んだ。途端ゾロの甘い喘ぎが漏れ出した。
(何で今日は、コイツ全然我慢しねぇでイイ声出してんだ？)
少し往復させただけで、さらに硬度が増した。ゾロの手が、サンジの背中や腕を掴む。痛みを覚悟していたサンジだったが、それほど強い痛みはなかった。
(いつも、それほど我慢してたのか...今日はどうしたんだ？)
今のゾロは自然体で、力を程よく抜き、快感に酔っていた。
「ああっ...ふぁ...んん...」
ゾロの腰が浮き、サンジの顔に思い切り押し付けられた。続いて小刻みの痙攣が伝わってきた。その腰をしっかりとサンジが抱きかかえる。こんなに感じてくれているゾロが、ものすごく愛おしく感じた。
ゾロの表情を窺うと、穏やかな顔で荒く息をしていた。
(こんな綺麗な顔でイッたのか...ヤバ過ぎだ)
今に始まったことではないが、『男でも惚れる』顔だ。これから一体何人のヤツが、この男に惹かれてしまうのか。男女関係なく。
(俺一人で、コイツを守って行けるのか...)
弛緩した両足の内側に、少し零れたゾロの体液を、拭きとってやりながら、またあの"痕跡"が目に入った。サンジが付けた方は、もうかなり薄くなってきている。新しい方はまだ、しっかりとその存在を誇示しているように見える。忌々しい。
(ああいう危険な感じの女ほど、乱れると意外と可愛いんだ...ゾロ...まさかお前、本気になってないだろうな...)
「おい...」
ゾロの声で、サンジは現実に引き戻される。
「次、おめぇの番」
何だ、当番みたいに言いやがる。そうは思いながらも、サンジは素直に仰向けに寝た。すぐにゾロの体が覆い被さってくる。初めてではないのに、何だか胸が高鳴る。
「良くしてやるから...覚悟しとけよ。他の事考えてるヒマなんかないくらいにな」
「え？？」
ゾロからそんな言葉を言われ、また心臓が跳ね上がる。言うのと言われるのとは大違いだ。
最初は手でされるのかと思っていたら、いきなり先端を舐められて、体がぴくりと反応した。そのままゆっくりと咥え込まれたらしい。舌の動きが濃厚で、否応無しに熱を引き出される。
「んん...はぁ...」
「サンジ..もっと声出せ」
低めの声でゾロに言われると、もうそれは魔法の呪文のようで。サンジは頭がくらくらしてきた。
(俺、こんなヤツをいつも抱いてるのか...間違ってないよな？)
それ以上の思考は許されないほど、快感が渦を巻きサンジの背中を走り出す。終わりは意外と近そうだ。
「はぁ....っ....ゾロっ...」
名前を呼べば、さらに愛しさが募る。ゾロが思い切りサンジを吸い上げた。体が浮く感覚に、サンジの意識が遠のきかける。
「ふぁっ...くぁっ....うっ....」
激しく放出される体液を、受け止めてくれている。そう思うだけで胸が熱くなる。いつもと違う感動があった。
ゾロがその様子を見て訊いてきた。
「どうした？」
「......」
「すげぇ、幸せそうな顔してんな？」
「...そりゃ、幸せだからなぁ....」
「....気持ち良かったからか？」
「...てめェは何で、そうデリカシーのねぇこと言うんだよ！」
「他に何があるよ」
「バカ、言わせんな」
ゾロはサンジの背中に腕を回して、思い切り近寄ってきた。
「俺の口で気持ち良くイって、出したモノ全部飲んでくれたから、じゃねぇのか？」
「言ってて恥ずかしくねぇのかっ」
「恥ずかしがってたら、てめェと何もできやしねぇ」
「....ふん......全くだ」
何か興に乗っているのか、一皮剥けたのか知らねぇが。
サンジは、またゾロの別の一面を見た気がした。明日になれば、また違っているかも知れない。だから、今のこの瞬間を楽しもうと思った。
「サンジ、腹減ったぞ」
「はいはい」
これは、いつものやり取り。平和の象徴。
自然とにやけてくる顔のまま、サンジはキッチンへ向かう。欠伸をしながらバスルームへ向かう男を横目で見ながら。
fin.
◆二人に本音を吐かせてみたい、という思いを形にしました。
どんなカッコいいクールな男でも、中身はこんなもんです。
二人の台詞を入れ替えても違和感がないことに、後で気付きました。
あんまり仲が良いので、書いててイラッときました。(笑)
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