〜青い薔薇 番外編 3〜
やわらかな光に包まれて
〔ご注意〕***30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい***
まだまだ肌寒い、週末の晴れた日。ゾロは窓の外を眺めていた。寝ている時はともかく、起きている時は、何もせずぼんやりとすることが嫌いな男だ。そんな彼が、何か考え事をしているようだ。
(何をしてやろうか...)
小さい溜息を一つつく。
(俺にできることって...)
頭をガシガシと掻きながら、立ち上がった。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
「ゾロさん、指名です...Aの3」
「誰...？」
「あの...A席に一人っきりで来てます」
「...分かった..」
ナミが珍しくゾロを呼んだのは、2日前のことだった。
「...ゾロ」
「よう..」
「相変わらずねぇ。客を客とも思ってないその態度」
「お前は、客に見えねぇ。だいたい、何でいっつもA席ばっか平気な顔して取ってんだ。学生だろうが」
「あんたに言われたかないわ。関係ないじゃない」
「...何か話あるんじゃねぇのか？ケータイの番号もメアドも教えただろ。わざわざ席に呼ぶな」
「もう..こんなヤなヤツ、何でサンジ君は好きなんだか、理解に苦しむわ...何とか奪い返せないものかしら？」
「....おい、店でそういう事、言うんじゃねぇよ」
「これくらい言わなきゃ、元取れないじゃないの...あのね、ゾロ、サンジ君の誕生日知ってる？」
「誕生日...？」
「.............その顔は、知らないって感じねぇ」
「訊いたりしねぇからな。訊けば教えてくれるだろ」
「何よぉ...あんた達二人揃って、おんなじ事言うのね」
「男なんて、そういうもんさ」
「3月2日よ」
「...って、もうすぐじゃねぇか」
「今からだったら、プレゼントの準備に間に合うでしょ？」
「...男同士でそんなこと、するか？」
「男同士だろうと何だろうと...恋人でしょ？」
「....っ、だからっ！お前な、そうハッキリ言うな」
「きっと喜ぶと思うわよ？」
「...そうかな」
「そうよ」
「別に...俺だったら...何かもらうより...一緒に居れたら、それでいいと思うけど...」
「...そうよねぇ...二人で恋人らしいことしてれば幸せよねぇ？」
ナミがニヤニヤしながら、ゾロの顔をじっと見ている。
「...ぁ...おい、今のは」
「ゾロってそういう事、言うんだ...勉強になったわ」
「今のは...聞かなかった事にしとけよ」
「....幸せなのね」
いつの間にか、傍にウェイターが立っていた。ゾロが同伴出勤してくる時、真っ先にキッチンへ報告する、あの一言多い男だった。テーブルには、既にボトルやアイスペールが並び始めていた。
「ここ、置いときますよ」
「あぁ」
「では、ごゆっくり」
ウェイターが去ると、ナミが口を開いた。
「あの人....前にホストやってた人ね」
「...あぁ？そうなのか？」
「サンジ君が来るまでは、そこそこ売ってたんだけど、すぐ抜かれて。結構客の品定めがウルサイのよね」
「ふぅん」
「ゾロが同伴で出てくると、すぐ客を確認して、サンジ君に報告しに行くしね」
「何のために...？」
「さぁね。サンジ君の反応見て楽しんでるんじゃないの？返り討ちに遭うの、分かっててやってんのよ」
(ナミは本当にこの店のこと、よく知ってやがる)
「ところで、最近ロビンとはどうなの？」
「ん？どうって？」
「お店、来てる？」
「たまに来るけど..特に変わったことねぇが」
「最近彼女、変わったのよ」
「そうか」
「何かね、固いものが取れて、すごく柔らかく綺麗になったの。今までは隙が無くて、同級生は勿論、先輩ですら、ちょっと一目置いてるって言うか、あ、教授だってそうよ。親しげに喋るなんて雰囲気じゃなかったの」
「....」
「私の勘だけど、ゾロと会ってからだと思うわ」
「そんなことねぇだろ」
「去年の秋くらいからよ、雰囲気少し変わったのは。でもね、はっきりと違うなって感じたのは、つい最近。ここ半月くらいの事よ」
ナミは、『あと一押し』みたいな顔をして、ゾロの言葉を待っている。
「どうしても、俺の影響だって言いてぇんだな」
「最近、何があったの？」
「何って...」
「同伴は今年に入って、まだ一度もない筈だし」
「何で俺のスケジュール、把握してんだよ」
「ねぇ...？」
ゾロは観念したように、ふぅ、と溜息をつき、続けた。
「ついこの間...今月初めに二人で会った。俺が、休み取ってな」
「それって、つまり仕事抜きって事？」
「そうだ」
「この間って..ロビンの誕生日とか？」
「あぁ...お前が教えてくれただろ。どうせならその日がいいだろうと思ってな」
「ロビン、びっくりしてなかった？」
「あぁ...ちょっとな」
「プレゼント、渡したのね？」
「そりゃ、な」
「何だ、そうだったの...なら合点がいくわ」
「じゃ、この話はこれで終わりだ」
「....彼女、いつもより...良かったでしょ？」
「あぁ？」
ナミは意味深な言葉と表情で、ゾロの顔を見た。
「.....でしょ？」
「お前なぁ...そういう事、普通に訊くなよ」
「ゾロは隠し事できない人ね」
(でも、それをよくサンジ君は、許してくれたわね...？)
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
「じゃぁね、ゾロ。また相手してね？」
「今日みたいな話だったら、メールで充分だ」
「何よ、ゾロは私の有難みが分かってないのねぇ？」
「いつもご来店ありがとうございます」
「もうっ！本当に憎たらしいヤツ！」
ナミは話していて楽しいが、内容は若干過激で、他のスタッフが聞いていたら困る事も多い。できるなら、店以外で話がしたい。
ただ、サンジの手前、ナミと外で会うのは、ちょっと気が引けた。それにナミは、まだサンジの事を諦めていないようだ。
(コイツには、振り回されるな...)
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
サンジの誕生日を知ってしまった。正確には、ナミが勝手に教えてくれた。
(何か...してやりてぇが...)
いつもゾロの事を一番に考えてくれて、何かと世話を焼いてくれるサンジ。でも「世話になってるから」と言って、あらたまって何かするのも、ゾロの性分に合わない気がした。
誕生日に限らず、人にプレゼントなんて、殆どした事がない。ついこの間の、ロビンへのプレゼントにしたって、何を贈ったものか、まるで見当も付かなかった。さすがにサンジには訊けなかった。それで仕方なく、シャンクスに相談したのだった。『その人がそれを使っているのを想像して選ぶといい』そうアドバイスを受け、買ったという経緯がある。
(今度は誰にも相談できねぇな...)
考えれば考えるほど、何もいい案が浮かばない。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
1週間後。店の奥のキッチンで、サンジがグラスを磨いていると、ナミがやってきた。
「サンジ君」
「よぅ」
「ごきげんよう」
「今日は早いね、ナミさん」
「サンジ君...週末...空いてる？」
「え..？」
「なーんて。冗談よ。あ、私ね、今週は、もう来れないから...来週から、大学の研究室の合宿があるの。それから戻ったら、レポートにかかりっきりになるし...。だからしばらくお別れよ」
「寂しくなるな」
「だからね、これ、ちょっと早いけど...お誕生日おめでとう」
「...サンキュ...」
「あ、家帰ってから、見てくれたらいいから」
「そうするよ」
「...これくらいなら、許されるよね？」
ナミはカウンター越しに体を乗り出し、サンジにキスをした。サンジは少し驚きながらも、そのまま受け入れた。
「いつも、危なっかしい事するなぁ」
「だって、したくなったんだもん」
「こんな事、誰にでもするんじゃねぇぞ」
「何よ、保護者みたいな事言って」
「今日は...どうすんの？指名」
「そうねぇ...本指名、未だにしてないのよねぇ。そろそろゾロに決めようかな」
「アイツ..愛想悪ぃだろ？」
「ええ、とっても。よくあれで営業できてるなって思うわ」
「他の客には、マニュアル通り、とりあえずやってるみてぇだけど、ナミさんには...」
「本当、無愛想というか、距離置かれてるって感じよ」
「ああ見えて、俺に気を遣ってるみてぇなんだ」
「へぇ...。確かに、サンジ君のこと大事に思ってるみたいだったわ」
「...何か、俺の事言ってたのか？」
「うふふ〜、言ってたわよぉ。こっちが恥ずかしくなるくらいにね」
「な、何て言ってた？」
「言った後、ゾロったらね、『聞かなかった事にしとけ』なんて言ってさぁ...。だから、私、何も聞いてないわ」
「えぇ...そんな、無茶苦茶気になるよ...ナミさん」
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
そして今週もラスト、土曜日の営業が終わろうとしている。今日は、サンジの昔の客の団体が、ワゴンサービスでサンジを指名した。お陰で大忙しだったが、久々に馴染み客に会えて楽しかった。彼女らから、プレゼントを受け取った。その他にも、平日に店に来れない客からも、幾つかもらった。
(俺、まだまだイケルよなぁ...。ゾロに負けてらんねぇからな)
「サンジ」
「あぁ..もう終わったのか？」
「外で...待ってるからな」
「おぅ」
ゾロとサンジ、二人のどちらか、早く帰り支度のできた方が、通用口の前で待つというパターンが、いつの間にか出来上がっていた。二人が同い年で仲が良く、帰る方向が同じという事で、店の誰もがそれを知っていた。しかし同居している事を、さらには二人の関係を知っているのは、チーフのシャンクスだけだった。
そして、そのシャンクスが近寄ってきた。
「サンジ...さすがは元NO.2だな。結構プレゼント、もらったじゃないか」
「チーフ。いや...実は持て余してるんですよ」
「もらえるのは、結構な事じゃないか」
「彼女らに、直接何もしてあげられない」
「そんなの、あのコ達は望んでないだろ」
「そうですかね？」
「でなければ、キッチンに移った後まで、お前を追いかけて来ないだろう」
「はぁ...」
「どうしても気になるんだったら、来週、誕生日当日に、御礼のメールでも送ればいいんじゃないか？一斉にじゃなくて、個別のメッセージだったら、喜ぶんじゃないかな」
「あぁ...もうさすがチーフ。メールは考えたんですけど...タイミングの問題か...。参考になりました」
「サンジのその優しいところが、いつまでも客の心を離さないんだろうな。他のホスト達にも見習わせたいもんだ」
「いえ...俺はただ...」
「それより、サンジ。いつまでも待たせてて大丈夫か？」
シャンクスは、通用口の方に視線をやった。
「あっ...そうだった...じゃお先に失礼します！」
「お疲れさん...いい週末と誕生日を」
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
食事も後片付けも済み、サンジとゾロは部屋でくつろいでいた。淹れたてのコーヒーを一口すすり、ゾロは話し出した。
「あのさぁ...」
「ん？」
サンジは、同じソファで少し離れて座っている、ゾロの頭の方へ手を伸ばし、指で髪を梳きながら応える。
「何？」
「いや...ちょっとな」
「ちょっと、じゃわかんねぇだろ」
「サンジ、お前....もうすぐ誕生日だろ」
「...ナミさんから聞いた？」
「あ、あぁ...」
「それで？もしかして『何が欲しい？』とか訊いてくれるの？」
「まぁ...そんなとこだ」
「そうだなぁ...俺、ゾロと一緒に居られたらそれでいいよ」
「え.....そ、それって....もしかして...」
ゾロの顔が少し赤くなってきたのに、サンジは気付いた。
「ん？どした？」
「サンジ...何か聞いたのか？」
「何かって？何を...誰から？」
「....」
「変なヤツ...それに俺、何かオカシなこと言ったか？」
「いや...」
サンジも単純に、ゾロと同じ事を考えていただけだったようだ。しかし頭の回転の速いサンジの事だ。そのまま流したりはしなかった。
ここ数日間の、どこか、何かひっかかりのある会話を次々に呼び戻す。サンジとゾロが共通で接する人物との会話を。
ゾロが急に反応した時の、直前にサンジが言った言葉。それが何か関係しているらしい。
「ゾロ...お前もそう思ってくれてるんだな？」
「...？」
「俺と一緒に居られたら、それでいいって」
「....あぁ」
「今週さ、ナミさんがお前の事話してて、俺の話をしてたって聞いたんだけどさ...内容は言えないって言われて。ものすごく気になってたんだ。『聞かなかった事にしろ』ってお前が言ってたって聞いて...」
「ナミは、わざと気になるような言い方したんだな。いっつも引っ掻き回しやがって」
「ナミさん、多分ゾロの事、気に入ってんだよ」
「はぁ？いつも、憎まれ口ばっか叩いてるぜ、アイツ」
「女心分かってねぇな...全く」
「そうか...これでも俺は...」
「うん、ゾロはよく頑張ってると思うぜ。ゾロの割には」
「何だよそれ」
ちょっと機嫌を損ねたフリをして、ゾロが話を中断した。サンジの手がもう一度、ゾロの頭を撫で、うなじを滑り下りた。一瞬、ゾロの視線が泳ぐ。
「ゾロ...もうちょっと、こっち来いよ」
「サンジ...」
そうだ、今こそ言わなくては。ゾロはサンジの方へ向き直った。
「なぁ...俺と居るだけで...以外に何かねぇのか？」
「ん？...さっきの話か。そうだなぁ...特にねぇよ」
「俺の時だって色々してくれただろ。お前のも...」
「ゾロ、気持ちだけ貰っとく。サンキュ」
「欲しい物、ねぇんなら....して欲しい事、は？」
「.....俺がゾロにしたい事なら、いっぱいあるけど？」
サンジの手は、さらに背中を下りてきている。その手の動きに、ゾロの気が散漫になっていく。それに何とか、打ち勝とうと踏ん張るゾロの表情に、サンジの気持ちが傾いた。
「わかった...明日の夜までに考えておくよ」
「あぁ」
「....さぁて...ゾロに何してもらおっかなぁ...」
サンジの怪しげな微笑を見て、ゾロは少し不安になった。しかし、その不安もすぐに消し飛んだ。
「...んんっ」
自分の方に寄ってこないゾロに、痺れを切らし、サンジがゾロに詰め寄り、体を撫でながら唇を重ねてきたのだった。巧みなその唇と舌の動きに、ゾロは、されるがままだった。鼻から抜ける甘い息に、サンジの心は乱されていく。
「ゾロ...」
ゾロに覆い被さりながら、サンジは呟いた。
サンジの手がゾロの厚い胸を、硬い腹を撫で回している。ただそれだけのことでも、ゾロの体のそこかしこに刻まれたサンジの記憶が、呼び戻される。
「ゾロにして欲しい事...一つ思いついた」
サンジは目を少し細めて言う。ゾロは、サンジの次の台詞を待つ。
「俺を...欲しがってくれよ」
「...？！」
「俺を...受け入れるだけじゃなくて、夢中になってくれ。見境無く、求めて欲しい...」
「....俺が....お前をヤルって事か？」
「いや、ヤルのは...最終的には俺」
「......じゃ、いつもと変わんねぇじゃねぇか」
「ゾロは、いつも、大人し過ぎなんだよ...こう、何て言うか...『もっと！』みたいな..」
「ソノ時になったら、細かい事考えてらんねぇよ」
「...え？お前でもそうなのか？」
「誰でもそうだろ」
「お前、余裕あるように見えるんだけど」
「..そんなモン、ねぇよ」
「俺との愛の営みに、没頭しててくれてたのか？」
「き...気色悪ぃ言い方すんなっ」
ゾロがサンジから離れようとした途端、サンジの手がゾロの脇腹を撫でた。一瞬ゾロの表情が変わる。
「どこ行くんだよ」
「座り直すだけだ」
「俺の近くに座れ」
「近過ぎだ」
「あー、まどろっこしぃ！」
サンジはゾロに抱きついた。
「うわっ...危ねぇ..」
「結局、俺がこうしねぇと、進まねぇだろうがっ」
「何だよ」
「お前がこうして、俺を求めてくれたら、嬉しいって事だ」
「う....」
「俺の『して欲しい事』理解したか？」
「...何となくな」
どっちが仕掛けようと、途中からは同じ流れになってしまうのだから、いいじゃないかとゾロは思っていた。しかし、そのゾロにとっては『どうでもいい』と思われる事こそ、サンジのこだわりだった。
(そんなの、考えてできるもんじゃねぇしな...)
ゾロにとって、面倒で大きな課題がのしかかった。
「ゾロ、お前、全然ヤル気ねぇじゃねぇか。じゃ、明日にまとめて俺に奉仕しろよ。期待してるからな...俺もう寝る」
サンジはソファから立ち上がると、さっさとベッドルームへ移った。
「俺がヤル気ねぇから、寝るってどういう事だ」
ゾロが不本意そうに呟きながら、サンジの後を追った。
「あぁ？お前も寝るのか？」
「...まだ寝るつもりなかったけど...一人起きててもしょうがねぇ」
「.....」
「ヤル気ない俺は、一緒に居る価値ないのか？」
「...そうは言ってないだろ」
「だいたい、何でお前が勝手に俺の事、ヤル気ねぇって決め付けてんだ」
「....え？」
(もう少し、二人でゆっくりしたかったのによ....)
「もういい。何か、本当にヤル気なくなった。寝る」
「おい、ゾロ...拗ねんな」
「誰が拗ねるか！明日に備えるんだよ」
「明日...？」
「お前の『して欲しい事』できるだけ、してやるっつってんだよ」
そう言うと、ゾロはさっさとベッドに潜り込み、横を向くと、ブランケットを体に巻き込んだ。こういう時は、決まってサンジはゾロの機嫌を取り始める。
「ゾロ...俺に背中向けんなよ....」
「....るせぇ....うぜー....あっちいけ...」
一緒のベッドに寝ていて、こんな台詞に何の意味もなかった。サンジはブランケットを少し引き戻して、その隙間に潜り込むと、ゾロの背中にぴたりと寄り添い、彼の肩に顎をつけた。
「悪ぃけど、離れる気はねぇからな」
「....わかってる」
「...じゃ、こっち向いてくれねぇ？」
「断る」
「なんでぇ？」
「.....明日に備えるからだ。さっきも言ったろ」
「....？」
「....明日じゃなくて、今ヤリたくなったら困るだろーが」
「ゾロ...？」
「...？」
「いーよ、今でも全然！前倒し上等だ」
「明日の楽しみに取っとけ」
「おめぇ...そんな事言って、本当は、もう眠くなってきたんだろ」
「....ふん」
「カッコつけやがって...」
サンジはゾロの頭をゆっくりと、何度も撫でた。サンジの体は相変わらず、ゾロの背中にくっついたままだ。
「あぁ...楽しみにしてるぜ」
「おい....」
「ん？」
「寝返り、打てないだろうが...」
「俺に背中向けるからだ」
「離れろ」
「やだね」
「その体勢のまま、寝るつもりか？」
「こうしてくっつきたいだけ」
「安眠妨害だ」
「本当はまだ眠らせたくねぇ...」
「だったら、背中をあっためるな。余計眠くなる」
「じゃ、離れるから...こっち向いてくれ」
サンジはその密着した体を、ゾロの背中から離した。ゾロは面倒臭そうに、体を反転させ、サンジの方へ向いた。
「ゾロ...明日なんか待ち切れねぇよ...今、ちょっとだけでも...」
「さっきは寝るっつったろーが」
「気が変わったんだよ」
「明日を楽しみにしてろ...寝る」
ここまで宣言した後のゾロには、もう手出しはできない。挑発は失敗に終わった。ここは、やはり明日を待つのが良さそうだ。
「わかったよ...おやすみ」
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
特に予定の無い休日は、目覚ましのアラームをかけずに寝たいだけ寝る。そして自然に目覚める。ゾロは、そうして1週間の疲れを癒す。大抵のことは『寝て回復』させている。
そして、目覚めて横を見れば、サンジはとっくに起きていて、食事の支度を進めている...のが常だった。そして今日もその筈だった。
ところが...、目の前の光景は違った。サンジもまだ眠っている。寝顔を見る機会が少ないから、つい珍しくて、ゾロはその顔をじっと見てしまう。
「サンジ.....」
「...........」
「そろそろ起きねーか？」
「んん....」
「おい...起きろよ...」
頬をつんつんと突いてみたが、起きそうにない。
「...これならどうだ」
ゾロはサンジの長い前髪を掬い上げると、頬、鼻、そして唇にキスをした。口を離しかけた時、サンジが薄く目を開けた。
「やっと起きたか」
「ゾロ...」
「お前が寝てるから、俺もずっと寝てた」
「ん？」
「たいがい、お前の作る料理の匂いで、目が覚めるからな」
「そっか...腹減ってるよな？悪かったな、すぐ何か作るよ」
「お前、だいぶ疲れてんじゃねぇのか？俺の適当料理で良ければ、今日は俺が作るけど...」
「何...？すげぇ優しいな...やっぱ誕生日待遇？」
「バーカ、おめぇが倒れてからじゃ遅ぇだろうが」
「お前が思ってるほど、俺はヤワじゃねぇよ」
「そっか...じゃ、いつも通り、旨いメシ頼むぜ」
ゾロはもう一度サンジにキスをすると、ベッドから這い出した。その後姿を目で追うサンジの顔は、情けないほど緩んでいる。
「そこまで期待されちゃぁ、しょうがねぇな」
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
朝食を兼ねた、早めの昼食を終えると、早くも夕食の準備を始めた。二人だけのささやかな宴。サンジは取って置きの酒を下ろすつもりでいた。自分の誕生日なのに、ついついゾロが喜ぶ事を最優先してしまっている。
そして今日は、率先してゾロがキッチンに立っている。初めて一緒に料理をした時は、どうなる事やらと思ったものだったが、手の動きは速く、思い切りがいいので、意外といい物が出来上がる。
そう、あの時はまだ、自分の気持ちすら、はっきり分からずにいた。まさかゾロと今のような関係になろうとは、考えもしなかった。
好きになったのが、ゾロで良かった。
『今日を楽しみにしてろ』ってゾロは言ったけど、何をしてくれる気でいるんだろうか？サンジはスープの味見をしながら考えた。
「よし、これで準備完了。ゾロ、ヘルプありがとな」
「後は俺がやっとくから、風呂入ってこい」
「お...そうか？」
ゾロが調理道具をガチャガチャと洗い始めた。手早く片付けると、シンクの内側をきれいに流す。サンジが家の中のどこよりも、キッチンを綺麗にしているのを、ちゃんと理解している。
「俺もすぐ後から行くから」
サンジが誘わなくても、ゾロは、こうして最近は、一緒に風呂に入ってくれるようになった。必死に誘う楽しみが無くなったが、それはそれで嬉しい事だった。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
熱めの湯を張ったバスタブから、立ち込める湯気で満たされたバスルーム。全身を洗い終わった二人は、体を密着させて、互いの存在を確認し合うかのように、唇を貪り、背中や胸や腹、さらにはその下にまで手を伸ばしていた。
「ゾロ....っ....」
「...っ.....はぁ....」
「おい...このままで....いいのかよ」
「んん？」
サンジはゾロに、バスタブの縁に座るよう言った。それだけでゾロは、これから起こる事が何かを悟る。
「そこ...腰下ろせ...」
「....」
「んん...」
「はぁっ...う...ぅ」
「こんな感じでいいのか？」
「あ...ぁ...」
「希望を言ってくれねぇと、どうしていいかわかんねぇぞ」
ゾロは少し考えながら、少し小さい声で言う。
「ふ....深く....強く...」
「了解...んんっ...」
「あっ....ぅぁっ.....ん....」
ゾロが望むように、サンジはできるだけ深くゾロ自身を呑み込み、唇を強くすぼめて扱き上げる。そして時々吸い上げる。ゾロの声がいっそう高く、大きくなる。何度もそれを繰り返すうち、ゾロは腰を浮かせ、サンジの肩を思い切り掴み、小さく呻くと、小刻みに精を吐き出した。その雫がサンジの唇から流れ落ちる。彼はそれをぺろりと舐めた。
「ゾロ...いつもより早かったんじゃねぇ？」
「.....お前が...巧過ぎるんだよ」
「じゃ、もう一回する？」
「アホが...んな事言ってねぇで、ほら、お前も座れ」
「...シテ..くれるんだな」
「あっという間に昇天させてやる」
いいよ、そこまでやんなくても、とサンジは思ったが、言葉にする前に強烈な快感が体を襲った。
「うぁっ...はっ....」
(さぁ...いくらでも感じろ...)
ゾロの舌と喉を使った技が、サンジに考える暇を与えない。何度も、何度も、そのまとわりつくような動きが往復した。あまりの気持ちよさに、抑える事さえ忘れ、声を上げた。それに気をよくしたゾロが、さらに執拗な愛撫を与え続ける。
もう何が起こっているのか、分からないくらいの気持ちよさ。
息つく間もない。かなりの早さで、すぐそこまで、終わりが見えてきている。ゆっくりと快感を楽しむどころではない。浸る暇もない。大きな波が、サンジの体を持ち上げた。
「ゾ....ロっ....ぉっ...」
ゾロの肩と頭を支えに、サンジは力を逃がしながら、片足を突っ張らせた。少し浮き上がった腰を、ゾロの顔の方へ押し付けながら、絶頂を迎えた。
「はぁっ....」
口の中がカラカラになるほど、喘ぎっぱなしだった。ゾロがそれに気付き、サンジの口を塞ぎ、舌で口内を潤した。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
テーブルいっぱいに並んだ料理。ゾロが食べないから、ケーキは用意していない。代わりに綺麗に彩られたオードブルが、大皿に盛り付けられている。
さっきの、短時間ながらも激しい運動の後で、サンジの頭がぼうっとしている。とりあえずワインを開け、一口飲んだ。その様子をゾロが見ながら話しかけてくる。
「ん？まさか、もう疲れたのか？」
「あ...いや、大丈夫だ」
「俺は、さっきので、ちょうどいい感じに腹が減った。早く食わねぇと無くなるぞ」
「あぁ...」
疲れているのではない。まだ、体の芯に余韻が燻っている。今、ゾロに触れられたら、またすぐ熱が上がるだろう。
「サンジ...ちゃんと食え」
「わかってるよ...」
「この後は、もっと体力消耗するぞ」
「....」
(あぁ、そうか)
ゾロは、昨日の話を実行する気でいるのだ。何を仕掛けてくるのかは知れないが、何か考えているのは間違いないようだ。
(肝心のこの俺が、体力無くてヘロヘロだったら、シャレになんねぇよな)
ワインの口当たりがよく、ついつい進んだ。それにつれ、食欲も出てきて、ゾロに奪われないうちに、食べたい物は全て食べた。その様子をゾロが嬉しそうに見ている。そして料理は全て二人の胃の中に納まった。
「お前はゆっくりしてろ」
ゾロは手早くテーブルの上を片付けると、食器類をキッチンへ運び、手際よく洗い始めた。サンジは、そのゾロの心遣いに感謝した。
「ゾロ、コーヒー淹れとくな」
「おぅ。濃い目に頼む」
サンジがコーヒーミルに豆を入れ、挽き始めた。ドリッパに湯を差しかけた頃には、ゾロの方も殆ど終わりかけていた。ポットに落ちるのを待つ間、サンジは、洗い終えた食器を拭く。
コーヒーの香りが漂う中の、二人の共同作業。そっとゾロの横顔を盗み見ると、ゾロがそのままの姿勢で言った。
「よそ見してると、落とすぞ」
「何だ、見えてたのかよ」
「いつも....見てる」
いつも...？
サンジは少し動揺して、拭いていた皿を落としそうになった。
「だからっ...」
「大丈夫。ここの下、マット敷いてあるし」
「そういう問題じゃねぇっ」
「何だよ」
「...ケガしたら...どうすんだ」
何だよ、やっぱり今日のゾロは優しい。こんなに優しくしてくれるんなら、誕生日がしょっちゅうあればいいのに、とサンジは思った。
作業を終えるとゾロは、コーヒーカップを準備する。
「...俺が運ぶから、座ってろ」
「じゃ、頼むよ」
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
コーヒーを飲み終えたサンジが、あ、と小さく声を発した。
「そうだ。さっき、トマト切ってた時の、切れ味が悪かったんだよな」
気になると、もう放ってはおけない。キッチンへ入ると、愛用のぺティナイフを研ぎ始めた。その様子を苦笑しながらゾロが眺めている。全く、手を抜くという事ができない男だ。
すぐ終わるのかと思っていたら、意外と時間がかかっている。ゾロは立ち上がり、空いたカップを載せたトレイを持ち、サンジの方へ近付いた。
サンジは集中していて気付いていないのか、手が離せないのか、そのまま作業を続けている。ゾロはカップをシンクの中に置くと、サンジの背後に立った。
「サンジ....」
「ん？」
「もう終わりそうか？」
「あぁ...ほぼ終わりかけ」
「....」
「何？」
サンジが水洗いしたナイフを拭き、包丁差しに入れたのを確認すると、ゾロの腕がサンジの体に回された。サンジの右肩に、ゾロの顔が接近する。
「....シたくなった」
「？！」
「....いいだろ？」
「ゾ...ロ？」
まるで体の右半分が、ゾロに支配されたかのようだ。サンジのこめかみ、頬をゾロの唇が滑り降りる。堪らずサンジの唇もゾロを待ち受ける。ゾロは、それに少しだけ応えて、顎から喉元へと移動した。ゾロの手がサンジのシャツのボタンを一つ外すと、鎖骨にまで愛撫が及ぶ。
「お前のここ...色っぽいな...」
「ぁ...」
サンジは、まさかゾロがこんな事を言うなんて思いもよらず、少し驚いた。すぐ傍にいるゾロの呼吸が、耳につく。また一つボタンが外され、シャツの内側へゾロの手が入ってくる。ただ、胸全体を撫でているだけなのに、サンジの内側は焦れったく、熱くなってきた。
「ゾロ...っ...」
「...どうした？」
「..ベッドへ...」
「まだ残ってるぞ」
「え？」
「...洗い物が」
「何？」
「俺は手が離せねぇから、それはお前が洗え」
「え...無理だよ...この状態で...」
「両手が空いてるんだから、できるだろ」
「ゾロ.....」
「割るんじゃねぇぞ..ケガしたら、大変だ」
「だったら...ぁぁぁっ」
「ん？早くしねぇと、どんどん手が下にいくぞ？」
「おめぇなっ...」
「気合入れりゃぁ、すぐ終わる」
「クソッ...これくらいっ...」
ゾロに乗せられたサンジは、歯を食いしばりながら、コーヒーカップを洗い始めた。集中していないと、手から落としてしまう。とりあえず何とか２個とも洗い、手を拭いたところで集中は切れ、またサンジの体は快感の波にさらわれる。ゾロの手は、サンジの胸の敏感な部分を指先で撫でていた。同時に耳の後ろから首筋へ、舌がなぞっていった。
「はぁっ...ん」
「いい反応だ」
「なぁ...ゾロ..」
「あぁ？」
「もう、いいだろ？これ以上は..」
「もう止めたいのか？」
「てめェ...さっさとあっちへ連れていけぇっ..」
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
ゾロはサンジの体を抱えると、ベッドルームへ移動した。いくら細身とは言え、男の体はそれなりに重い筈だ。しかしゾロは平然とした様子で、サンジを運んだ。そして彼は、腕をサンジの首に添え、優しくベッドに横たえた。
サンジは、もう脚に力が入らないほど、ゾロの愛撫に参っていた。まだ半分残っている、シャツのボタンが外されると、さきほどまでゾロの手が這っていた場所に、唇が落とされる。
「ぁぁ..あっ...ゾロ...」
「ん？気持ちいいか？」
「お前も...」
サンジはゾロの硬い胸に、手を伸ばした。ゾロの方は、どうせ後は寝るだけだからと、最初から肌蹴た状態で、シャツを着ていた。その厚い胸の上をサンジの手の平が滑り降りると、ゾロもまた正直な反応を見せた。
サンジがゾロの体を引き寄せ、胸から首、耳へと口付ける。ゾロは自分の腕だけで上半身を支えながら、サンジの愛撫を受け入れている。それがゾロの唇へ到達すると、互いの舌を舐め合い、吸い、それが隠微な音を立てた。
激しく貪りあっていると、時折下半身が触れ合う。既に硬い高まりとなっている、二人のそれぞれの分身が、柔らかい素材のボトムを持ち上げて、窮屈そうにしている。互いにぶつかり合う、その刺激にさえ反応する。
ゾロがごそごそと、手を動かしているかと思えば、サンジのボトムを脱がせた。そして、ゾロも既に脱ぎ終わっていた。サンジは変なところに感心した。
「すげぇ、早業だな..」
「ゆっくりと脱がすのは、俺の趣味じゃねぇ」
「確かにお前らしい...えぇっ、何っ？」
ゾロがサンジの体をひっくり返した。ベッドにうつ伏せ状態の、サンジの耳に、ゾロの息がかかる。耳の中を舐め、耳たぶを甘噛みし、首からうなじへと移動する。
ゾロに負けず劣らず、きめ細かい肌を持つサンジ。色が白い分、赤みを帯びた部分はすぐに分かる。サンジは、背中にかかる息が、徐々に乱れてきているのを感じた。行為自体は落ち着いた動きをしていても、湧き上がるものは隠せない。
ゾロに向き合い、その顔を見たい。サンジは強くそう思ったが、顔が見えない分、色々と想像力が働く。それはそれで面白い。
と、少し油断していると、右脇腹からゾロの手が差し込まれ、少しだけ腹を持ち上げられた。続いて左から入った手が、サンジ自身をそっと掴み、優しく包み込んだ。すぐにその手が動き始める。
「ぁ...ふぁっ....」
「サンジ...」
「ぁっ...ゾロ...」
うなじから肩へと、ゾロの息がかかる。
ゾロ...今どんな顔してる？
さっきからサンジの腿に、ゾロの高まりが当たっている。それが気になって仕方がない。
(俺だったら、この状態は絶対我慢できねぇな)
ゾロが背後から、少し掠れた声で呼びかけてくる。
「おい...」
「ん？」
「また...違うこと考えてんな」
「いや...」
「これならどうだ？」
ゾロの右手が引っ込み、そのまま尻の方へと移動した。指が双丘の間へと滑り込んだ。
「ゾロっ...おめぇ...」
「じっとしてろ」
「やめ...」
何度も撫で、緊張を解こうとする。しかし、ますます緊張は高まるばかりだった。
「おい...硬くなんな...って、こっちはヘタってきてんぞ」
ゾロの左手の中のサンジ自身は、少し力を失いかけてきている。
「ゾロ...俺...まだそこまで準備できてねぇよ...つーか無理だ」
「俺がこれで諦めると思うなよ」
「ゾロ...」
(おめぇのソレは、いくら何でも無理があるぜ...。絶対俺の中には...。こう見えても俺の体は、デリケートなんだぞ)
「こっち向け」
再びゾロの手で、サンジの体が返された。また一から、丁寧な愛撫が始まった。何事もなかったかのように。
今日は何て優しいんだ。サンジは思いながら、その全てを受け止めた。
ゾロの頭が、サンジの下腹部にまで下りてくる頃には、再び頭をもたげてきた分身が、さらに深い愛撫を切望する。
「待ちきれねぇのか？」
「充分待った」
「もう、こんなに垂らしやがって」
ゾロの高めの体温。口内の温度はさらに高い。その熱く柔らかい中に、サンジは呑み込まれていく。しっとりと、蠢くようにまとわりつく感触に、サンジの口から勝手に声が漏れる。
ゾロを抱きたい。その気持ちはいつもある。でも、今はそれを上回るくらい、ただただ気持ちよくなりたいという欲求がある。ゾロから与えられる行為全てが、サンジの感覚を麻痺させる。
サンジが腰を浮かせぎみにするまで、それは続けられた。
ベッドが軋んだ。サンジは薄目を開けて、ゾロの姿を確認した。ゾロは開いた両膝を、サンジの腰の両側に置いている。右手でサンジ自身を包み込みながら、左手ではその後方の奥の窪みを撫でている。
(ゾロ...今度こそヤル気なんだな...)
また、熱が少し退いてくる。でももう逃げられない。
ここは男らしく、と言うべきかどうかは分からないが、サンジはできるだけ力を抜いて、ゾロの来るのを待った。
ゾロの吐息が近付いてきた。サンジの顔中にキスをする。以前、サンジが同じようにしたら、すごく嫌そうな顔をされた事があったが...。
ゾロの熱い部分が、サンジの中心の未開の地に軽くぶつけられた。先端から滑らかな蜜が滴り落ちる。
(早く来い。相手がおめぇなら文句ねェ)
サンジの体に強い快感が走った。何か得体の知れない、と同時に慣れ親しんだ感触。
ゾロの眉間に皺が刻まれる。
「くっ...」
「ゾロ...？」
ゾロはサンジの上に、ゆっくりと腰を落としている。そう、サンジがゾロの中へと入っていくところだった。まだ全部は入りきっていない。
「うぁっ...」
「おい...おめぇ大丈夫なのか？慣らしもしねぇで...」
「ちっとキツイけど...何とかな...」
「あ...でももう殆ど入ってる」
「まだ、あんまり動けねぇけどな」
サンジは、ゾロがどんな時でも自分を傷つける事など、一度だって無かった事を思い出した。よく考えれば分かる話だった。サンジがそれを望まない以上、無理やりなんて有り得ないのだ。
それに比べ、自分はちょっと強気でいってしまってるかも...とサンジは少し反省してみる。ゾロは何でもどんな状況でも、サンジを受け入れてくれているように見えるが、『仕方なく』という事だってあったかも知れない。
まだ、少しゾロの眉間の皺が残っている。これを無くしてやらないといけない。体に余計な力が入っている証拠だ。
「ゾロ...俺は幸せだな」
サンジはゾロ自身を優しく愛撫し始めた。途端サンジに密着している内壁が蠢きだす。それが一気に熱を呼び戻す。このままだと、間違いなく先に果ててしまいそうだ。
「サンジ...イキそうだったら先にイってもいいぞ」
「何...一緒にイクのが当然だろ」
「中に思いっきり出せ」
「おい...？何だよ...後が面倒なんだろ？」
「今日くらい、それもいいだろ」
「...ちょっと喋り過ぎたな」
サンジの愛撫が再開する。ゾロの表情が艶かしく変化した。鼻から抜ける甘い響きに、サンジの聴覚も刺激される。
「ゾロ...おめぇの...急に濡れてきたぞ」
「ぁ...っ....」
「動けるか...？」
「う...んん...っ」
「無理だったら...おめぇ、下んなれ」
「いや...これでいい...くっ...う...」
「ゾロ...ぁあ......」
「ふ....ぁっ....」
「ゾロ.....」
二人の苦しみの混じった歓喜の喘ぎの応酬。そして呻き声、荒い呼吸........。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
うたた寝から覚めたサンジが、まだ目を閉じているゾロの顔を覗き込む。
「無理しやがって...」
まさかあんな事、してくるとは思わなかった。でも自分に与えてくれた物は、奇をてらう為ではなく、心から望んで、欲してくれた結果だと信じたい。
あんなに、俺を欲しがってくれた。
頭で考えただけで、簡単に実行できるものではないだろう。ゾロは普段はセーブしている感情を、今日は開放してくれたのだ。そう思っておこう。
いつもゾロが欲しくて堪らず、望むままに求め、そして手に入れてきた。でもきっとゾロだって、同じように感じている筈だ。
それが分かっただけで充分だ。
ゾロが寝返りを打った。
「....寝ちまったか...今何時だ？」
片目を開けながら、そう問いかけてくる。
「昼前くらいじゃねぇ？この眩しさだと」
サンジは時計を確認せず、窓から差し込む光だけで判断した。もう何年も、昼夜逆転の生活をしているので、休日でない限り、この時間帯に起きている事は珍しい。
「シャワーだけでも浴びたいが...目が覚めて眠れなくなるな」
「いいじゃん...起きてれば。休みだし...俺が居るし」
「よし、行くぞ...」
「お...おぃっ...」
ゾロはサンジの腕を取り、バスルームへ向かった。勿論、全裸のままで。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
窓から入る自然光のせいで、つい最近つけた、ゾロの体の所有印がよく確認できた。それに対して、サンジの体には何もついてはいない。あんなに何度も何度も深い愛撫を受けたのに、だ。ゾロはちゃんと、力加減してくれていた事が分かる。
本当に優しい。サンジを大切にしてくれている。
「なぁ...ゾロ」
「ん？」
「洗い終わったら...あと1回...」
「あぁ？」
「......やっぱり無理か」
「寝ないと無理だ」
「寝る前に軽く...で、起きたらまた...」
「....って、もう勃ってんじゃねぇかよ！」
サンジの欲望を顕著に表す彼自身が、ゾロの体にぶつかっている。
「おめぇな...そんなんじゃ、いつどこで襲われても文句言えねぇぞ」
「ゾロ以外の前では、ならねぇよ」
「どうだか...。年中欲情男が」
「そ、それはいくら何でも言い過ぎだろっ」
「後が面倒だから、ここで出しとくか」
え？とサンジが思考を巡らすより早く、ゾロがサンジの前に体を屈めた。そしてサンジの熱を口内に引き込んだ。
せっかくのゾロの好意なので、素直に受け取る。そして素直に感じる。
(おめぇの口の動きって....何でそんなにエロいんだよ...)
膝に力が入らなくなると、ゾロの肩にもたれ、声を上げて達した。その後は、少し冷えかけたサンジの体を、ゾロが熱めのシャワーで温めてくれた。
「本当におめぇは、底無しだな....」
(俺だから、付き合えるんだって事、分かってんのかよ？)
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
目が覚めて眠れなくなる、と要らぬ心配をしていたゾロだったが、しっかり眠っている。ここで寝ておかないと、休み明けの仕事に影響する。
先に目覚めたサンジが、ゾロの顔を眺めている。もう見飽きても不思議ではない位、こうして何度も見てきた。勿論、飽きた事なんてない。
「ありがとうな」
こんなに幸せでいいのかと思う位、満ち足りた気分だった。もう少し、このままこの余韻に浸りたい。
(だから、悪ぃが、もうしばらくの間、ここでお前の顔を眺めさせてくれよな...)
------お前が『腹減った』って起きてくるその時まで。
fin.
2009.03.02 サン誕記念
■サン誕第2弾。(upは遅れましたが)シリーズ本編の流れで書きました。何となく、ゾロがサンジ君にプレゼントを渡す、というイメージがまとまらなかったので、結局コレになりました(笑)。
ゾロがめきめきと腕を上げてる気がしませんか？基本面倒くさがりなゾロが、ここまでやってくれるなんて、サンジ君は幸せ者ですね。あぁ羨ましい(笑)。
Parallel MENU
NOVEL MENU
TOP