感じるままに
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あの日は色んなことがあった。
そう、ここ何年か同じことの繰り返しで、大勢の女のコからプレゼントをもらって、両手いっぱいにそれを持って帰る。あの日も、そうして一日が終わるはずだった。
なのに、今年は違った。とんでもねぇ野郎が俺の前に立ち塞がった。認めたくはねぇが、そいつが女子生徒から集めている人気は、俺のそれを悠に凌駕するもので。そしてそいつが、俺がよく知っているヤツで。
それと....俺は今も少し混乱している。
落ち着いて考えるのが、少し怖い気もしている。
その"色んなこと"のせいで....
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
もうすぐ学年末試験。いつも勉強は、そこそこ適当にやってきたから、成績は中くらいといったところだった。特にどこか難関を目指してるということもなく、まぁ楽しくやればいいと思っていたから。
でも、今はちょっと違う。できるだけ頑張って勉強しようという気が湧いてきている。先輩は後輩の手本にならなければ、偉そうなことが言えない。そんな柄にもねぇことを本気で考えている。
だから、家族が怪しむくらい早寝して、こうして早朝に一人静かに勉強しているのだ。朝早いと誰も話しかけてこないし、電話もかからない。集中できる。
『学年末が終わるまで、しばらく絶交だ』
俺は、ゾロにそう言った。ゾロは目を何度かパチパチしながら返した。
『絶交....？うわぁ、サンジ、本気出してる』
『たりめぇだろ。俺は真面目な高校生だからな』
『何か悪いモン食ったんじゃねぇの？』
『バーカ、つまんねぇこと言ってねぇで、おめぇも勉強しろ。そっちだって、最後にもう1回、テストあんだろうが』
『もう、高等部に進級確定してっから、そんな必死にやんなくても』
『言っとっけど、俺はバカは嫌いだからな』
『何、先輩ぶってんだよ』
『るせー！先輩だろ！忘れたのかっ』
『忘れた』
そんなこんなで、俺は真面目にこの10日間、こうして最後のテストに向けて勉強しているのだ。何か、必死に取り組んでいねぇと、余計なこと考えちまう、そんな気がして。
俺が"今も少し混乱している"その理由は明らかだ。1コ後輩のゾロに告白されたということ。そして気が付いたら俺は、ヤツを受け入れていた。だから、つまり...俺たちは、一応恋人同士なわけで。あんまり実感はないけど。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
あいつの声、しばらく聞いてねぇな...。
あ、絶交中だった。危ねぇ危ねぇ、うっかり電話するとこだった。いや、まだこの時間だと起きてねぇだろ。どっちにしたって、ウザイ先輩になるのはゴメンだぜ。
自分から『絶交』を言っておいて、カッコ悪ぃ事この上ねぇが、正直あと数日持つかどうか怪しくなってきた。
.....まぁ、メールくらいならいいだろ。
しばらく考えて、俺は携帯を掴んで、メール作成画面を出した。文字を打とうとしたら、頭ん中に次々と言葉が湧き出てきて、とても、まともな文章にならなかった。こんなダラダラしたメールを送ったら、やっぱりウザイ先輩になっちまう。
ヤメだヤメだ...
メールの画面を閉じた。汗ばんだ手のせいで、携帯のボタンが湿っている。
♪♪♪♪♪♪♪♪〜
突然着信音が鳴り、俺は携帯を落っことしそうになる。
ゾロ...？
何でこんな朝っぱらから電話してくるんだ。
「...はい」
『...俺』
「わかってる...何？ずいぶん早ぇなぁ...」
『ちゃんと起きてたんだな』
「毎朝4時前には起きてるんだぞ。だいたい試験勉強中なんだから、邪魔すんな」
『...いや、元気にしてるんならいいんだ』
「何だよ、俺の心配なんか10年早ぇんだよ」
『俺に会えなくて、落ち込んでるんじゃねぇかって思ってたけど、元気じゃん。よかったよかった...じゃ、勉強頑張れよ、サンジ』
「おい....ちょっ...」
『........何？』
「..いや...いい」
『....』
「...おい、切れよ」
『...何で電話に出たの？サンジ....絶交中なのに』
「反射的に出ただけだ」
『俺に電話しようとしてただろ』
「してねーよ」
『俺の声、聞けて良かった？』
「...切るぞ」
『つまんねぇの...ノリ悪いよぉ、サンジ』
「試験終わるまで、かけてくんなよ」
『じゃ、サンジがかけてくるわけ？』
「かけねーよ」
『....そう、じゃ仕方ねぇ』
「じゃーな」
『俺、またうっかり電話するかも知んねぇけど、そん時は出ろよ』
「命令すんじゃねぇよ、バカ」
何で、そんなに何度も俺の名前呼ぶんだよ。俺はずっと我慢してたのに。お前の声が、耳について離れねぇじゃねぇか。
ゾロは、全てわかっている。俺がどんな気持ちでいるのかを。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
2日後。学年末試験が始まった。昨晩のゾロからのメールには、最終の実力テストの報告があった。そこそこデキたと思う...と。だから俺にも頑張れってことだろう。そして、そのメールには他のことは書かれていなかった。
これも計算なのか。それとも実は俺を気遣って、余計なことを書かないのか。そんな些細なことを、あれこれ考え始めると堂々巡りになり、俺は自分が情けなくなる。
後輩の立派な手本になる、と決めたんだった。ケジメはつけねぇと。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
やっと試験が全教科終わった。何とか力は出せたと思う。何だ、俺もやればできるじゃねぇか。あ〜、これで心置きなく....。
ゾロ...
多分、もう下校しているだろう。今は授業はほとんどなくて、卒業式の準備や練習とかが多いはずだ。俺は教室を出ると、校門へ向かいながら、携帯を取り出した。
呼び出し始めてすぐ、ゾロが出た。
『はい』
「...俺」
『試験、終わったの？』
「あぁ...これから...」
『俺、家帰ってまたすぐ出掛けるから...』
「何だよ、それ」
『夜にこっちから電話するよ』
「...そうかよ」
『怒るなよ、サンジ』
「べ、別に怒ってねぇよ！まぁ用事あんなら仕方ねぇ」
『...』
「じゃーな」
俺は、携帯を見つめた。表示された通話時間は1分にも満たない。
何だよ、この切ない気分は。
これじゃ、俺がまるで片思いしてるみてぇだ。
冗談じゃねぇ。
別にゾロが悪いわけじゃねぇ。俺が勝手に上がり下がりしてるだけだ。ただ、辛いとか苦しいとかじゃなく、何て言うか、心地よい苦味。初めての感覚だった。もうこの時点で、俺は負けていたのかも知れねぇな。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
携帯をしまって、また歩き出す。校門を出たところでは、何人かの生徒が立ち話をしている。試験も終わったし、どこか寄り道する相談だろうか。俺は、そのまま彼らを素通りした。
その道の先には中等部の通用門。そこからも生徒が何人か出て来ている。さっきの電話では、ゾロは急いでたみたいだから、もう家に帰ってしまっただろうか。
と、その時。緑の頭が見えた。
俺は、足を速めて追い着こうとした。いや、小走りじゃないと追い着けないかも知れない。
ゾロのすぐ後ろに、一人の女子生徒が走り込んでいった。
「ゾロ、一緒に行ってもいいでしょ？」
「あぁ？何で」
「だからぁ、私も買いたい物、あるんだって」
「んなの、一緒に行っても仕方ねーだろ」
「目的が一緒なんだから、いいじゃないの」
「ちっ...俺は、自分のペースでゆっくり考えたいんだけど」
相変わらず、女子に冷てぇな。そのコ、おめぇの顔覗き込みながら話してるぞ。おめぇに気があるんじゃねぇの？
で、結局一緒に行くことになったのかよ？まぁ、そのうち女とデートすることも無くなるだろうから、せいぜい楽しんで来い。
ゾロがつれない素振りでさっさと歩いて行くのに対し、そのコは早足で追い着こうとしながらゾロのすぐ後を歩いている。何か、後ろから見た限りでは、かなりお似合いなカップルだ。
俺は複雑な思いで、その二人を見ながら歩いていた。そのうちその先にある信号が赤になり、信号待ちをする生徒が溜まっていった。俺は二人に自然に追い着いてしまった。
ゾロの視界に入らないよう、立ち止まった。すると、ゾロと一緒にいるその女子生徒が横を向いた際、俺に気付いて振り返った。
『サンジ...先輩...』
「え？」
俺のこと、知ってる...？
誰だ...
「え？どうした？」
ゾロも振り返った。
「あれっ....サンジ......せん、ぱい....？何してんすか」
「これから帰るとこだよ」
「あ...そりゃそうか..」
お前が用事あるっつうから、俺は一人で帰ることになったんだろうが。
『ゾロ、サンジ先輩と知り合いなの？』
「まぁな...結構前から」
『ええ〜、それもっと早く言ってよ』
「何で言う必要あんだよ、わけわかんねぇの」
『サンジ先輩のファンクラブメンバーなんだよ、私』
「ファンクラブぅ？」
『初代クラブリーダーは私のお姉ちゃんなの。私は次、三代目リーダーになることに決まってるし』
「どんな姉妹だよ」
『あ、サンジ先輩...あの、私、邪魔ですか？何かゾロとお話あったんじゃ？』
「いや...別にいいけど」
『この間のバレンタインの時は、中等部からは、まとめて現リーダーに預けてしまって、失礼しました』
「まとめて...あぁ、あれね。ウチのクラスの女子が"中等部から"って言ってたやつ。あれ、キミのも入ってたのか。ありがとな」
『いえ、そんな...。来年は直接お渡ししますから』
「楽しみにしてるよ...そうか今の...二代目だっけ？うちのクラスのコだったとはね」
『サンジ先輩、今年も凄い沢山もらったんでしょう？』
信号が青に変わり、周りが一斉に歩き出した。俺はそのコの肩をポンと軽く叩いて足早に追い越した。
「ごめん、俺急ぐから...買い物楽しんで来て」
『はーい、サンジ先輩も気をつけて』
さっきの質問には、答えるのが何となく癪だったから、いいタイミングだった。ファンクラブ？そんなものがあったのか。
せいぜい彼女らの夢を壊さねぇようにしねぇとな。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
1時間ほど前。ゾロのクラスでは、卒業式に向けての活動を行っていた。それが片付いて、皆が帰り支度をしていると、一人の女子生徒がゾロに話しかけた。
「ゾロ？ちょっといい？」
「ん？」
「私ね...買いたい物があるの」
「あぁ？」
「男の人って、どんなものが喜ぶか分かんないから、教えて欲しいのよ」
「何で俺に？」
「その人、凄いモテる人だから。他の男子の話じゃ参考にならないでしょ？あ、他の人にはこの話ナイショだよ」
「あのさぁ...俺だって同じだよ。別に参考になるとは思わねぇけど」
「そう言わずに！」
「でもなぁ..」
「高等部の人なんだけど、私、ずっと憧れてて。小学校の時から。もうすぐ誕生日だから、そろそろプレゼント探したいと思って。今までは、お姉ちゃんと一緒に買ってたんだけど、今回からは別々にすることにしたの」
「姉妹揃ってそいつのこと好きなのか？」
「そうよ。まぁ、"追っかけ"みたいな感じかな。サッカー部でずっとレギュラーだし、あの金髪がまたカッコいいのよね...誰にでも優しいし」
「......」
「そうだ、ゾロも実は凄いモテるんだよね？意外だけど」
「別にいいよ、俺のことは」
「こんなに目つき悪くて無愛想なのに、不思議だよね〜」
「...そうだ、俺も買いたいモンあったの思い出した」
「そうなんだ？何買うの？」
「ダチの...誕生日祝い」
「じゃ、私選んであげよっか？」
「いいよ...」
そんなやり取りがあったのだった。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
夜8時。
♪♪♪♪♪♪♪♪〜
携帯が鳴った。意外と早くかかってきた。
「はい」
『サンジ...』
「何だよ」
『昼間は...ゴメンな』
「何...別に怒ってないっつったろ」
『あのさ...明日、時間あいてる？』
「あぁ...暇だけど」
『俺んち、来い』
「何でまた命令口調なんだ」
『じゃなかった...来て』
「わかった。どこで待ってたらいい？」
『公園...でいい？』
「いいよ、それで」
『俺の方が多分早く終わると思うから...そっちが終わったらメールして』
「わかった」
『ところでさぁ...』
「ん？」
『ファンクラブ、すげぇな』
「...あぁ、俺もびっくりした」
『ずっと知らなかったのか？』
「知らねぇよ。初耳だ」
『本人に秘密で活動してる訳でもなさそうなのに』
「...俺って鈍いのかな」
『それは、言えてるかもな』
「どういう意味だよ」
『深い意味はねぇよ....じゃ、おやすみ、サンジ』
「何だよ、いつも自分勝手に終わりやがって」
『何？名残惜しい？』
「おめぇなっ...」
『また明日会えるだろ』
「くっ...」
どうしてこういう流れになるんだろう。俺には何も、弱みなんか無い筈なのに。何でいつもアイツは上から目線なんだよ！
『じゃ...もう切るぞ』
「あぁ..また明日な」
『拗ねるなよ』
「おい、いい加減にしろよ。さっさと切れ」
『はいはい...じゃ』
あっさりと切りやがった。急に静かになる。さっきまでの会話が頭の中でリピートする。ゾロの声が、耳に残っている。
「はぁ....」
思わず大きな溜息をついた。何なんだよ、この燻るような、中途半端な気持ち。俺は何がしたいんだ。
--また明日会えるだろ--
勝手に人の心、読むなってんだ。そうだよ、おめぇに会いたくて堪んねぇよ。悪ぃか。でも"会いたい"なんて、絶対口が裂けても言わねぇ。
「言ってたまるかってんだ」
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
翌日。試験も終わったから何となく開放感がある。周囲の皆も穏やかな表情だ。３コマの授業も終わり、俺は教室を出た。すぐに携帯からメールを送った。
『終わった』
ちょっとそっけ無かったか？まぁ、簡潔でいいだろ。
1分もしないうちに、返事が来た。
『ウチに直接来て』
予定変更か。了解。
携帯を握ったまま、俺はつかつかと歩いていった。校門から出て、ゾロの家の方へ向かう。道路の向こう側へ渡る信号が丁度青になったから、先に渡ることにした。渡り切った途端、背後から甲高い声がした。
「サンジせんぱーい」
中等部の門の前で誰かが手を振っている。あの、昨日の女子生徒か？
「何？」
「今、帰るところですかぁ？」
「そうだけど？」
「少し時間ありますかぁ？」
「いや..ちょっと」
「明日はどうですかぁ？」
「まだわかんねぇけど」
「明日の今頃、10分くらいでいいので時間下さーい」
「....いいよ」
「もし入れ違いになったら、ゾロに伝言しておきます〜」
「了解〜」
「じゃぁ、さようならー」
「バイバイ」
気がつくと、女子の人数が増えていて、彼女と一緒になって手を振っている。俺はその全てのコに向かって、視線と笑顔を向けた。途端、黄色い歓声が上がった。何とも言えない、こそばゆい瞬間だった。
悪ぃな、お嬢さん方...俺はもう...
いや、それ以上はやめておこう。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
ゾロの家に着いた。玄関のベルに手を伸ばしかけると、ゾロの声がした。
「サンジ！」
「あぁ？」
ドアが開いた。
「入って」
「おぉ..」
また、前みたいにゾロの部屋へ通された。やはり綺麗に片付いている。
「サンジ、今日もブラックでいい？」
「いいよ」
「昼飯、どうする？」
「...後で何か買いに行けばいいよ」
「うん」
ゾロが部屋を出て行くと、俺はベッドの端に腰を下ろし、脚を伸ばした。ついでに背中も伸ばした。ベッドカバーも、皺を伸ばして綺麗に掛けられていて、本当にヤツが几帳面なのだと分かる。
間もなくして、ゾロがコーヒーを二つ持って戻ってきた。俺は一つ受け取り、用心深く、ふうふうと冷まして飲み始めた。
この10日余りの間の、俺の思いを知ってか知らずか、ゾロは涼しい顔をしてコーヒーをすすっている。その顔を見ていると、ヤツと目が合った。
「サンジ...？」
「ん？」
「.....試験、大丈夫だった？」
「試験？何だそんなこと今頃。別に何ともないけど？」
「俺...勉強の邪魔してしまったからな」
「何...っ、あれは冗談だろ、いちいち気にすんな」
「俺さ...ウザかったんじゃね？」
「そんなことねぇよ」
お前さ、電話ではあんなに高飛車だったクセに。どうしたんだよ。
「いくら絶交中でも、サンジは電話に出てくれるって思ってた」
「ゾロ....」
「それ、分かってて...」
「あぁ、俺も...分かってた」
「え？」
「俺が、お前を無視できねぇこと、ちゃんと分かってやがるって...な」
「...へへ」
「...って何、おめぇ、『してやったり』みてぇな顔してんだよ！」
俺はテーブルにカップを置くと、ゾロの頭に手を置いた。くしゃりと緑髪を掴む。ゾロも同時にカップを置いた。
「本っ当に、生意気だよな、おめぇは」
「サンジ...え？......んんっ.....」
こんな生意気なヤツには、こうしてやるのがてっとり早ぇ。
「....どうだ」
「...またそうやって、自分だけいいとこ持ってくんだから」
「悔しかったら、俺の先を読んで、行動しろ」
「何かまた、先輩ぶってねぇ？」
「...正真正銘の先輩だろうが！」
「もう、対等だって言っただろ？サンジ」
ゾロは、まだ少し悔しそうな色を、その緑の瞳に宿しながら言った。そして頬には薄っすらと赤みが差している。
そうだ、この上なく生意気で。憎たらしくて。
思ったことをハッキリと口にする。
気持ちを直にぶつけてくる。
「サンジ」
少しハスキーな声で、俺の名を呼ぶ。この声をずっと聞きたかった。ずっと会いたかった。
その声の主の方へ目をやると、まるで告白の前に精神集中しているかのような、そんな顔つきのゾロがいた。
「俺も...したい」
そう言うが早いが、ゾロが俺に接近してきた。ガラスのテーブルに脚がぶつかり、カップの中身が揺れた。
ゾロが俺の手首を掴む。
「...別に逃げたりしねぇ。その手ちょっと緩めろ...痛ぇよ」
「...ごめん...」
「......」
「サンジ...」
俺と比べれば、まだまだ稚拙なその行為は、逆に新鮮で。
ただ真正面から唇を合わせてきただけなのに、そこからゾロの思いも熱も、流れ込んでくるような気がした。
どこまでも対等でいようとしている。何年経っても、1コ違いの差は縮まらないのに。
ゾロが俺の肩に腕を回してきた。また俺はすっぽりと抱かれてしまうのか？いや、それは今回は何とか回避したい。
「ゾロ...」
「...ん？」
「....好きだ」
一瞬ゾロの手の動きが止まった隙に、俺は、ヤツの体を抱いた。ちらりと盗み見したその顔は、さっきよりさらに赤みが増している。
「....知ってるよ」
「えれぇ自信だな」
「でも...」
「ん？」
「俺の方がもっと好きだから」
対等というより、ただの負けず嫌いじゃねぇか。
本っ当ガキだな、てめェは。
そんな俺も、さっきより顔が熱い。今の顔を見られないよう、俺はゾロの顔の各パーツを順にキスしていった。瞼に唇を付けると、舌先で睫毛に触れた。
すげぇ綺麗な肌してんだな。
一通り巡回して、耳の方まで唇を這わすと、ゾロはぴくりと反応した。
「...嫌だったか？」
「...くすぐってぇよ」
「それはな...気持ちいいってことだ」
「よく...分かんねぇ...」
「すぐ分かるようになるさ」
耳たぶにまで到達すると、またゾロの唇に戻ってきた。角度を変えながら、徐々に深く互いの唇を合わせていく。
「ん..ん」
ゾロが不安げに半分だけ目を開け、俺の行為を受け入れる。
大丈夫か？ここまで付いて来れてるか？
これ以上やったら、俺、どうなるかわかんねぇぞ。
「んん...」
ゾロの方から、俺の舌にそっと触れてきた。初めてだと分かる、その動き。まだ早いだろうと思って、舌は入れなかったのに、気ぃ遣って損したぜ。
その舌が触れ合う度に、ビリビリと電気が走ったように、背中にまで何かが伝わる。くすぐったいような、痺れるような...。
そのうち慣れてくると、もっと激しく吸い合い、ゾロは俺の頭に手を添えてきた。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
「苦しい...」
俺は息が苦しくなり、口を離した。途端、口元が寂しくなり、思わず自分の指を口にやる。
ゾロの顔は、まだほんのり赤い。そして...
「おめぇ...目、ヤバイ」
直視するのも躊躇うくらい、色っぽい目をしていた。
「サンジ...」
「ん？」
「今、思い出したんだけど...」
「何を？」
「渡すモンがある」
そう言うと、ゾロはごそごそと、ベッドの下から何かを引っ張り出した。何でこんな時に思い出すのか。
「これ...」
綺麗な紙袋に何かが入っている。覗き込んでみると、リボンがかかった包み。どう見てもプレゼントだ。
「ゾロ...おめぇ」
「サンジに」
「...知ってたのか」
「当日は、渡せねぇと思って...ちょっと早ぇけど」
「サンキュ」
包みを開ける俺の様子を見るゾロの顔には、何とも言えない可愛さがあった。
中にあったのは、汗止め用のリストバンドだった。一つや二つ増えても困らないし、今日からでも使える。
「...ありがとう....お前、センスいいな」
「....」
ゾロは何か言おうとして、また少し顔を赤らめた。
「ん？」
「....サンジ....あと2日だけど、それまではタメだからな」
「その後は...俺がまた1コ上だ」
「そんなに違わねぇのに...」
「...ゾロ、お前は何月？」
「11月」
「じゃぁ、違わなくねぇだろ。ちゃんとおとなしく後輩やっとけって」
「後輩だけど...でも、対等」
「はいはい...もういいよ、何でも」
俺はゾロの頭を撫でた。手触りのいい、柔らかい髪。そして、まだ少し熱っぽさを残した目が、俺を見る。俺は余裕を含ませて言ってみた。
「続きやる？」
「...う...うん」
「来い」
腕の中にゾロを迎え入れる。髪を手で梳く。こめかみにキスをしたら、簡単に目を閉じた。次は瞼に。頬に。
何となく、ほんの僅かだけど、唇を尖らせているように見えるのは、気のせいか？
コイツ、わかってやってんのか？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
続き、ってどこまでやって大丈夫なのか。どこで止めればいいのか。
いくら俺より体がデカくなったと言っても、その表情はまだ少し幼くて、目を閉じてる顔は、どこか不安げですらある。だから、この俺でも自然とセーブがかかる。
考えていると、ゾロが目を開けた。
「....サンジ」
声が少し震えてる？
俺はゾロを抱く手に力を込めた。壊れる心配のない、頑丈そうな体だ。加減する必要はねぇ。
「何だよ？ゾロ」
「この方が楽だと思うけど...」
ゾロはベッドに仰向けに倒れ、その体を抱いている俺も、一緒に倒れ込んだ。まるで俺が押し倒したみてぇだ。
「いいのか？」
「うん...多分」
「どうなっても知らねぇぞ」
「サンジ...俺のこと好きだろ？」
「なっ...わざわざ何で.....まぁ、好きだけどよ」
「じゃ、大丈夫。好きなヤツには変なことしねぇよな？」
「お前にとっての変なことが、俺には普通のことかも知れねぇぞ？」
「......」
「...大丈夫だ、嫌がることは、しねぇから」
とは言ってみたものの、自信があるわけじゃなかった。
でも...まぁ、大丈夫だろ。ゾロなんだし。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
唇にまたキスをする。もう今日は何回こうしただろう。慣れてくれるまで、何度でもやってやる。ゾロもだんだん反応が良くなってきた。俺が口の動きを止めると、その続きを促すように、舌で突いてくる。その小生意気な舌を吸い出してやると、眉間に小さく皺が入る。
感じているのか....
投げ出された手を軽く握ってやると、ゾロは安心したように握り返してくる。
さんざん貪った唇を最後に一回舐めただけで、またお前は色っぽい目をこっちへ向ける。
誘うなよ....。まぁ、多分そんなつもり、ないんだろうけど。
これでもかなり頑張ってんだからよ。
顎から首元へ、俺は息を緩く吐きながら、唇を滑らせていく。ゾロの手の握りが急に強くなる。そうだ、もっと感じろ。
ゾロの着ているシャツの襟を緩めた。ボタンを一つずつ外していく。逆向きだと結構やりにくい。
「ゾロ...自分で外せ」
「...うん...」
「嫌だったら、外さなくていい」
「...サンジのバカ。こんなとこで止められねぇくせに」
「...また生意気言いやがって。もう絶対、何があっても止めねぇからな」
こんなに強がりを言ってくるところ、やっぱり緊張してんだろ。
大丈夫だ。
俺も....ちょっとだけ緊張してるから。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
凄いな....。
本当に綺麗なライン。男の体に見惚れる日が来ようとは、思ってもみなかった。二の腕も、胸も、腹も...完璧だ。何か、ちょっと負けた気がした。
そしてこの俺も、その体温を直に感じたくて、シャツを脱ぎ捨てた。邪魔な物が無くなった、ゾロの首元から肩、鎖骨....と手のひらで触れ、唇を這わせていく。ゾロは俺の頭に手を置いて、時々鼻から抜ける甘い声を出す。
緊張...まだしてるのか？
声だって、どこか遠慮がちだ。もっと出るだろ。俺しか聞いてねぇんだから、気にすんな。何か、気になることでもあるのか、時々視線が泳ぐ。
「ゾロ、どうした？」
「...別に」
「何か、逃げようとしてねぇ？」
「してねぇよ...」
「体が...逃げてるぞ」
「....」
俺は脚を使って、ゾロの逃げる脚を押さえた。覆い被さるように体を重ねる。
「やめ...」
ゾロが焦った顔をする。深い緑の瞳が羞恥を訴える表情を見せた。
そうか。お前もそんな泣きそうな顔するんだな。
「離れろ..サンジ」
大丈夫だよ。
「ゾロ、落ち着け」
俺を信じろ。
お前が好きだって言ったの、忘れたのかよ？
やっとおとなしくなった。お前の体に重なった、俺の体の『変化』に気付いたらしい。お前とおんなじだよ。だから、安心しろ。
さて...次はどうしてやろうか。もう後戻りはできねぇ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
「これも...脱げ」
俺はゾロのズボンのベルトに手をかけた。ゾロは自分でそれを緩め始めた。そしてそのまま、俺のベルトにも手を伸ばしてきた。
「わかってるよ...俺も脱ぐから」
ゾロはベッドカバーとブランケットを捲り上げ、中に入った。俺の場所も作ってくれている。
「サンジ...ここ」
「あぁ」
制服のズボンが二本、バサバサと重なってベッドの足下に落とされた。もう腹を括ったのか、ゾロは全身をくっつけるように、俺を抱き締める。
温かい....
ゾロが俺の髪をかき上げながら、キスをしてきた。その後どうするのか、しばらく様子をみていた。舌も使い始めた。さっきよりずっと上手くなっている。
飲み込みは、かなり早いらしい。先が楽しみだ。
.....そろそろ、俺にやらせろ。
ゾロの左の耳たぶを指先で撫でた。2つのピアスが並んでいる。耳の後ろから首筋にかけて撫で下ろすと、また甘い声が鼻から抜ける。聞き逃しそうなほど小さな声で。
「ゾロ...俺...」
何か、ヤバイくらいに...
好きになってる。
首元から胸へと撫で下ろし、そして同じところを今度は唇で辿っていく。筋肉が形良く盛り上がった、胸の頂の小さな粒を指先で弄ぶ。
「ぁ....サンジ...何か変...」
「本っ当に...可愛いなぁ....ゾロ...」
もう一方も同じように、指先を上下左右に、そして円を描くように滑らせる。空いた方は、唇で挟み、舌先で撫でる。
どうだ？
ゾロの切なそうな声が、半開きの唇から漏れてくる。
「んん...っ....」
「ゾロ.....」
俺の手が、ゾロの硬い腹を撫で、さらにその下へ移動する。ゾロは体を硬直させた。
「あっ...サンジ....ちょっ....待って...」
「駄目だ。これからが肝心なんだから。楽にしてやる」
「やめ....っ...ぁ....」
まだ下着が1枚あるものの、その形はハッキリと俺の手に伝わってくる。もう苦しいはずだ。俺がちゃんと気持ちよくしてやるから。
俺も..苦しい..
これから何するんだよ？そう訊いてるような顔で、俺を見る。
もう、あの小生意気さも、余裕も何もあったもんじゃねぇ。
「いいか？この苦しいのは、どうすれば楽になるかは分かってんだろ？」
「..........」
「どうなんだよ」
「...うん.....」
「自分で何とかするか？」
そんなのできねぇよ...って、今にも言い出しそうな顔してやがる。
そんなこと...させるかよ。
「俺が...してやるから」
「え..」
「自分でするより、何倍も気持ちいいぞ」
ゾロの表情を一瞬たりとも見逃すまいと、しっかり見つめながら、ヤツの下腹部に置いた手を、ゆっくりと動かした。ゾロは慌てたような、困ったような、泣きそうな、色んな表情を見せてくれる。
「声、我慢しなくていいからな」
「んっ...ぁ...サンジ....何か、俺....」
「どうした？気持ちよく...ねぇか....？」
「んん....あっ....」
「そうだ...自然に任せろ....声...出せ....」
ゾロの体から、余分な力が抜けてきたのが分かった。俺はゾロの下着を下げ、直接ヤツ自身を握りこんだ。根元から先端へ向け、ゆっくり丁寧に扱き上げた。
「ふぁっ....」
「ゾロ...ほら....俺の手....ちゃんと覚えとけ。しっかり感じろ」
「駄目...んん...」
ゆっくり、ゆっくりと、その動きが何度か往復するうち、ゾロを握った俺の手は、その先端から滲み出てくるモノで濡れていく。
そろそろ限界が近そうだ。枕元からティッシュペーパーを何枚か取り出して重ね、左手で持つ。右手の中では、今にも弾けそうなゾロの熱。さらに扱き上げると、ゾロが俺の肩を強く掴んで、歯を食いしばった。
「んんっ...ぁあっ....」
腰を浮かせ、俺の手を突き上げるようにして、ゾロは果てた。吐き出された物を左手で受け止めて、シーツに零さないよう、きれいに始末してやった。
自分でも意外に思うほど、優しくしてやっている。
「はぁ....はぁ....」
「ゾロ...可愛いよ、おめぇ....」
「サンジ....」
「ん？何...」
「今の何....あんなの....」
「好きなヤツにされたらな、すげぇ気持ちいいんだ」
「....」
「そして、好きなヤツには、気持ちよくさせたいって思うもんなんだよ」
「...それは、分かる...」
「そうか」
「....サンジも...気持ちよくしたい」
「あぁ...頼む」
しばらくして荒い息が収まると、ゾロは恐る恐る、俺の下腹部へ手を伸ばしてきた。下着の上からそっと、撫でてくる。
ただ、手を載せているだけなのに、自分のとは違う感触が、ぞくぞくとした快感を生み出していく。そう、これは上手い下手の問題じゃない。
「サンジ...気持ち...いい？」
「うん...」
「これで...いい？」
「お前も男なんだから...どうしたらいいか分かるだろう？」
「...」
「何、照れてんだよバカ。こっちが恥ずかしくなんだろうが」
「...」
「お前が気持ちいいと思うように、触っていいんだ」
「やってみる...」
「それと...直に...やってくれ...」
布越しだったゾロの手が、今度は俺に直接触れてきた。あぁ、そうか...手の大きさと厚さと、そして体温が違うんだな。
「ん...」
そして、右手じゃなく左手というのも、大きな違いだ。そっか、そうだったな、お前は左利きで。
こんな風にしてるのか...
思いっきり想像しちまったけど、許せ。
「んぁ....」
声が自然に出ちまう。ゾロの稚拙な手の動きでさえも、充分俺の熱を引き出してくれる。腰にも、膝にも、力がだんだん入らなくなってきている。
ゾロ...すげぇ気持ちいい。
俺が目を閉じると、すぐにゾロは唇を塞いできた。口の中を舐め回してくる。舌から与えられる刺激との相乗効果で、俺の下半身の快感も一気に波に乗る。
俺は教えてねぇぞ、そんな技。
応用力ってやつか。結構頭いいんだな。
また、俺はお前に負けるのかよ。
「サンジ...気持ち...よくなってる？」
「お前...上手いじゃねぇか...俺、思ったほど、もたねぇかも..」
「本当..に？」
ゾロは嬉しそうな表情を見せた。その顔を見た途端、俺は胸に甘い疼きを覚えた。
気持ちの中で、一線を越えた...みたいだ。
大きくて柔らかい手が、俺を包み込む。何度も何度も、俺のイイ場所を通過していく。その度に体が浮き上がるような感覚。
「ゾロ...もう....っ...」
「もう...いいの？」
「んんっ...ぁっ...」
背中を快感が走り抜けた。それが腰へ集中する。俺はゾロの腰に腕を回して力を込めた。そして激しい痙攣と共に熱を放出する。
さっき俺がしてやったのと同じように、俺が出した白濁の液を、ゾロがきれいにしてくれた。
男の匂いが部屋に充ちてくる。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
疲れて、少しウトウトした。でも空腹で目が覚めた。昼飯を食べるのを忘れていたことに気が付いたが、もう昼時からはかなり時間が経っている。
「何か軽いモン買って来ようか？」
ゾロが訊いて来る。
「パシってきてくれるのか？」
「後輩だからな」
「弁当とか重いのは要らねぇ」
「コロッケパンとか？」
「あぁ、そんな感じでいい」
「じゃ、ちょっと行ってくるから、待ってて」
ゾロは俺の唇にキスをしてきた。しかも極甘。
デザートは後にしろってんだ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
夕方になった。そろそろ帰らねぇと。俺は壁の鏡を覗き、シャツの襟元を直した。髪にブラシを通す。俺は、今日もらったプレゼントの入った、袋に目をやりながら言った。
「ゾロ、今日はありがとな」
「うん」
「次は、俺んち遊びに来いよ」
「本当に？」
「うちも結構一人になること多いからな。ゆっくりできるぞ」
「来週とか」
「おぉ。大丈夫だ、あけとくよ」
その時は、朝からずっと一緒にいよう。泊まっていってもいいからな。
次は、今日みたいな訳にはいかねぇぞ。覚悟してろ。
「ゾロ、また...来週な」
「うん」
「俺が恋しくなったら、俺の手を思い出せ」
「手...っ...」
ちゃんと俺の希望通り、ゾロは赤い顔をして俺を軽く睨む。
「俺も、ゾロの手を思い出すからよ」
「いいよ別に...俺の手なんか」
「忘れてもいいのか？」
「........」
「忘れねーよ」
その、無意識に唇を尖らせるとこ、堪んねぇよ。
玄関で靴を履くと、俺はゾロの方へ振り返り、今日最後のキスをした。唇を離そうとすると、ゾロが引き留め、もう一度。軽く済まそうと思っていたのに、なかなか終わらない。
「キリがねぇぞ」
「....サンジ」
「また来週会えるだろ」
そんなに俺が恋しいか。可愛いヤツめ...そう思ってゾロの顔を見た。
それは俺を恋い慕う目なんかじゃなかった。俺を魅了するような、自信に満ちた目。キリリとした、力のある目。
「来週、また会ってやるからな、サンジ」
へへ..と笑う声が聞こえてきそうな、そんな表情で俺を見送った。
やっぱりお前はこの上無く生意気だ。
次会ったら、絶対シメてやる。
fin.
2009.03.02 サン誕記念
■何となく、流れでここまで来ました。まだ若い二人なので、このへんにしておいてあげましょう。もっと激しいのを期待されていた方、スミマセン。
さて、ゾロは可愛かったですか？もうこれが限界です(汗)。サンジ君がこの後、ゾロに甘くなっていくことは疑う余地も有りません(笑)。
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