〜ある古城にて〜約束の日〜
虎目鷹の目、蛇の道は蛇
〔ご注意〕***30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい***
「もうすぐ私の世話になるんだから、今のうちに私に仕えておいても損はないぞ？」
「誰が仕えるかってんだ！俺は誰の指図も受けねぇ！」
「......じゃ、一人で行くんだな？迷子剣士」
「迷子っつーな！ちょっと間違えただけだろ！」
「はいはい....自覚無いヤツに言うだけ無駄だった。悪かったな！」
「くっ.....」
いちいち腹立たしい言葉を吐いてくるペローナに、ゾロは知らず知らず乗せられていた。相手にしなければそれで済むはずが、わざわざ揉め事が大きくなるような反応をしてしまう。
それは、長い間変化の乏しい生活を送っているからなのだろうか。今ここでは師匠であるミホークはずっと大人で、当然言い合ったりするような事にはならない。勿論、ゾロはそんな事になるのを望んでもいない。
「とにかく、明日ここを出るんだから.....」
「俺はいつでも出られる。ハナから荷物もねぇし.....刀以外は」
＊＊＊＊
ペローナはハサミを手に握り、ゾロの元へ行く。ゾロもそれを見ると、何も言わずに椅子に腰掛けた。
「多分、これが最後になる」
「あぁ....」
「どれくらい切る？」
「お前に任せる」
初めてペローナがゾロの髪を切った時は、はっきり言って失敗だった。いくら身なりに無頓着なゾロでも、さすがに気に入らず、自分で切り直していた。それでも少し変な気がして、しばらくはずっと手拭を巻いていたほどだ。
しかし髪はまた伸びる。今度は気をつけるから、とペローナは諦めず、またゾロの髪を切る事になった。それからと言うもの、少し髪が伸びてくると、彼女はハサミ持参でゾロの元へとやってくる。
やっと最近上達して、ゾロの希望通りの長さに切れるようになってきたのに。
「前髪、ほんの少しだけ、長くしておいた」
「ん？」
ゾロは頭に手をやり、髪の感触を確かめる。
「あんまり変わらねぇだろ？」
「変わらねぇ...ような...違うような」
風が強い時に少し髪が揺れる、その程度の長さだ。
＊＊＊＊
「お前の首は....次に会った時の楽しみにとっておく」
「それよりお前自身の首の心配でもしていろ」
「.....」
「.....」
「今日まで.....」
「さっさと行け」
「言われなくても」
「もう会う事はないだろう....この2年で見飽きてしまったんでな」
「見飽きたのは俺も同じだ。だが、またきっとどこかで出くわす」
「.....」
「じゃ」
ゾロは一度も師の方を振り返らずに、2年間を過ごしたその地を後にした。来るときは一人だったが、出るときは二人。道案内を買って出たペローナの事を、最初から受け入れた訳ではない。
"辿り着いた頃には、出航した後で、誰も居ないかも"というペローナの話を鵜呑みにしたのではないが、僅かに不安になってきた。一緒に居てもさほど邪魔にもならないし、まぁいいかと思うようになった。
ゴースト娘と迷子剣士と言う奇妙な組み合わせの二人が、旅に出た。
＊＊＊＊
ゾロは寝ている時以外は、海を眺めていた。時々、遠慮がちに近付いてくるペローナ。彼の顔を窺い、不機嫌そうでなければ少し話しかける。もっとも、機嫌の良し悪しを見分けるのもそう簡単ではないのだが。
「どうした？」
「別に....」
「退屈なんだろ？」
「....う....ん....」
「俺も...何つーか....」
「これまでも海を旅してきたんだろ？」
「あぁ...でも仲間がいたからなぁ。とびきりウルサイ連中が」
「......確かにウルさそうだ」
「それが当たり前になっちまってたからなぁ」
「もうすぐ会えるじゃねぇか」
「あぁ....楽しみだ」
ゾロの穏やかな横顔を見ながら、ペローナは少し寂しくなる。でも、嫌な気持ちではなかった。何かを達成したような、そんな不思議な温かい気持ち。
＊＊＊＊
2年ぶりに降り立ったその場所は、やはり神秘的な雰囲気を醸し出していた。
「じゃ、私はここまで....後は一人で行けるだろ？」
「あぁ...」
「間違えるんじゃねぇぞ？」
「あぁ....」
「.....」
「色々、ありがとうな」
「......な、なんだよ....馬鹿剣士」
「......？？？」
「....そっちじゃねぇ....言ってるそばから」
すぐそこに、シャッキーの営む店が見えている。見えているのに間違うなんて、やはりこの男は筋金入り....。ペローナはゾロが店のドアを抜けるまで、心配そうに見つめていた。
「あら、ロロノアちゃん！」
「....？他のヤツは....？」
「あなたが一番乗りよ！」
「へぇ.....そっか」
約束の日まで、まだ10日以上ある。それまで何をして過ごそうか。
「じゃ、また...時間潰したら戻ってくる」
「海軍にだけは気をつけてね」
「あぁ」
このまま誰も来なかったら？そんな疑問は微塵も頭をよぎらなかった。次に来るのは誰か？くらいにしか考えていなかった。次が誰でもいい。順番はもはやどうでもいい。
"俺が1番"
これは揺るぎ無い事実なのである。無性に嬉しくなる。この後やってくる誰もが、その事を知るだろう。
しかし、どうやって過ごすのか。
(.....釣りがしてぇな)
to be continued...
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