〜ある古城にて〜
虎目鷹の目、蛇の道は蛇
〔ご注意〕***30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい***
ゾロの体力も、手先の動きも回復し、本格的な修業が始まった。それまでとは比べ物にならない位のミホークの攻撃。ゾロは稽古をつけてもらっているという事を、完全に忘れなければならなかった。
それは、ミホークがゾロの実力を認めているという事でもあり、また"まだまだ弱い"という事をゾロに思い知らしめる事でもあった。
「防御がいくら上手くなっても、相手を倒せんぞ」
「くっ......」
(そんな事、分かってる.....)
長身のミホークが手にしているのは、同じく長い刀。小柄なゾロには扱えない代物だ。
「一時たりとも気を抜くで無いぞ。次、この刃がお前に触れる時は、身体が繋がってるとは限らない」
「......修業だろうが、実践と同じって訳か」
「緊張感のない修業など、やらぬ方がマシだ」
「.......最強の師だ」
ゾロにとって、またあの日の様に身体に傷を刻まれる事への恐れより、ミホークが背中の長剣を手にしてくれたという喜びの方が大きかった。
(無傷では済まない....今さらだが)
ゾロの身体が温まり、これからと言う時になると、決まってミホークは"今日はこれまで"と剣を収めてしまう。初めのうちの数日間は、ゾロも黙って従っていたが、こうも続くと流石に不満を口にした。
「何で終わるんだ？俺はもう回復してる。まだまだできる」
「身体を鍛えたいなら、勝手に一人でやればいい。技を磨きたいなら、これくらいで充分だ。力を使い切るまでやる必要は無い」
「まだ半分も力を使っちゃいねぇ！こんなんじゃ何年やっても何も変わらねぇ！」
「時間をかければいいと言うものではない。続ける事が大事なのだ」
「.....まさか、鷹の目...お前がもうへばっちまってるなんて事、ねぇよな？全然そんな風には見えねぇけど....」
「お前の半分ほども力を使ってない。疲れる訳が無かろう」
「......だったら.....」
また明日もその後も、この修業を続けたいのなら言う通りにしろ、とミホークは言い残し、その場を去った。
＊＊＊＊
夜。
ゾロは一人ベッドに寝転がり、それまでのミホークとの修業、そして交わした会話を思い出していた。多くは語らないが、その言葉は時々鋭くゾロの心に突き刺さる。
「ただの仲間思いでここまでできるものか」
「俺達がやっているのはガキの海賊ごっこじゃない、命はとっくに預けてる」
「幸せな船長だな」
恐らくマリンフォードで見た光景を思い出していたのだろう。ゾロは、自分がその場に居られなかった事を改めて悔しく思い、唇を噛み締めた。
その表情を見たミホークもまた、ゾロの心中を察していた。
(ルフィ....何の力にもなれなかった)
どれほど辛かった事だろう。"辛い"などという簡単な言葉では表現できないのだろうが、ゾロには他に言葉が思い浮かばなかった。
大切な人を失うという事。状況は全く違うけれど、ゾロにも少しは分かるつもりだった。
(でも、今はもう新たな道を歩き出している)
きっと一周りも二周りも大きくなって、自分の前に現れるだろう。
(っ！)
「アイツも....簡単に死ぬタマじゃねぇよな」
思わず口に出た言葉。ゾロの頭の中に映されていたのは犬猿の仲である金髪のコックだった。顔を見れば喧嘩になるあの男の顔が自然と浮かんでくる。
そして無性にその男に会いたくなっている自分に気付く。
ここでの生活が単調だから。憎まれ口を叩き合う相手が居ないから。
「何でだ.....」
昼寝中の自分を起こしにくる時に、決まって蹴りを入れてくる。蹴りの入る場所と角度に依っては、すぐに起き上がれない事もあった。
「おいクソマリモ、起きやがれ！」
再びあの声を聞く日が来るのだろうか。
死を覚悟し、長い眠りについていた時も、どこからかその声を聞いた気がする。あの声が自分をこの世へ呼び戻してくれたのかも知れない。
今のこの状況も、長い夢なのかも知れない。
あの怒声で、強力な蹴りで、起こしてくれればいいのに。
とりとめもなく考えながら、いつしかゾロは眠りに落ちていた。
＊＊＊＊
ペローナはそわそわしていた。ミホークがどこからか手に入れてきたらしい、ココアを淹れながら、ゾロに言い放った。
「こら、馬鹿剣士！ゴロゴロ寝てねぇでてめぇも手伝え！」
「......あ？」
「あ？じゃねぇよ！だいたい何でこの私がこんな事しなくちゃいけねぇんだ！プリンセスの世話をするのが召使の役目だろ！」
「召使になった覚えはねぇ」
適当にあしらい続けると、いつまでも話が終わらないので、ゾロは仕方無く起き上がった。ペローナからポットを受け取ると、温かい液体をカップに注ぎ、"これでいいんだろ？"と言わんばかりの顔をした。
「ちゃんと私のところまで運ぶんだ」
「目の前に居るんだろうが！勝手にてめぇで取って飲め！」
「それくらいしたっていいだろ！ケチケチするな、馬鹿剣士！」
「......てめ.....」
そろそろこの辺で、騒々しさにうんざりしたミホークが"いい加減にしろ"と文句を言いに来るはずだ。しかし、慣れてしまったのか、最近は完全に無視している。
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