〜青い薔薇 続編 2〜
痕跡
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「前に、甘い物は苦手だって言ってたでしょ？だから特別に甘さをギリギリまで抑えた物を作ってもらったのよ」
「.....」
「？」
「....色々、考えてくれてんだな」
「どこにでもある物だったら、そのへんのケーキ屋さんで充分だもの」
ドアがノックされた。オーダーの品が届いたらしい。ワゴンに乗って運ばれたきたのは、秋の味覚をふんだんに使った物ばかりだ。見た目にもとても綺麗だった。ケーキナイフやトングをロビンの近くに置くと、ボーイはお辞儀をして部屋を出て行った。
「さぁ、頂きましょう」
「あぁ...」
ロビンが切り分けて、小さな皿に載せた。どこかの有名ブランド製だと言う、細かい花模様のティーポットから、やはり同じ柄のカップへ紅茶が注がれた。ゾロは紅茶は時々しか飲まないが、香りが違うことはすぐに分かった。思わず深く息を吸い込んで、その香りを楽しんだ。
「気に入ってくれたかしら？」
「普段はコーヒーが多いから、よくわからねぇが...」
「１杯目はミルク入りで、２杯目はストレートだと、後がさっぱりするわよ」
「そうなのか？じゃ、それでいい」
「全部私に任せっきりでいいの？」
「よく知ってるやつに任せるのが安全だろ」
ゾロは一口飲むと、すぐスイーツの方へ手を伸ばした。
「これ、イケるな。全然甘くない」
「でも、ちゃんとしっかり味があるでしょ？」
「これなら大丈夫だ」
「よかったわ...」
最後の一欠片を口に入れると、ゆっくり味わった。後は残りの紅茶を飲むだけだ。
(この後は...どうする？世間話か....仕事の話か...いや、それだと店で話してるのと違わねぇな....さっきのバラが綺麗だったとか..いやそれだと話が膨らまねぇし...）
「どうしたの？」
いつの間にかロビンが、すぐ近くまで寄ってきていた。そっと手をゾロの口元へ伸ばし、指先で唇に触れた。
「付いてるわよ」
よほど近くに寄らなければ見えない程の小さな欠片が付いているのを、ロビンの細い指が....摘むのかと思ったら、指で差し示しただけだった。さらに顔を近付けてきたロビンの舌先が、それを取り去った。
手は、ゾロの膝の上に載っている。
--『じっと見つめられても目を逸らすな』--
もうわかった。それは覚えた。ゾロはロビンの艶やかな黒髪の内側へ手を差し入れ頭を支えると、親指だけで彼女の耳たぶを撫でた。一瞬の隙が生まれたその時、離れかけていたロビンの唇を捕らえた。最初は軽く付き合わせ、角度を変えながら軽く吸う。それを何度か繰り返すと舌を侵入させていった。
ロビンの口内をゾロの舌がゆっくりと蠢き始めると、それまで目を開けていた彼女は目を閉じていた。ゾロは目を開けたまま、彼女の表情を観察していた。
『この俺様が一つだけ教えといてやる。キスの時は簡単に目を閉じるな』
いつだったか、サンジが得意げに、そう教えてくれたのだった。目を閉じるというのは、相手に任せるということだから..と。
(次々に色んな事を思い出しちまうぜ...全然集中できねぇ)
ゾロは膝の上に置かれているロビンの手に自分の手を重ねた。唇をいったん離し、すぐに耳の後ろから首筋へと移動した。
(い...いいのか？....こんな感じで...)
ゾロが顔を上げると、ロビンが髪を梳く様に頭を撫でてきた。
「あなたには覚悟があるの？」
「覚悟...？」
「私は...あなたが欲しいわ」
「...」
「でもあなたは、私に委ねる気はない...自分で何とかしようと思っている..違うかしら？」
「自分で...」
「あなたが、楽でいられる方を選んでいいのよ...」
ロビンはまるで猫を愛でるように、ゾロの髪を何度も指で梳いた。眠気にも似た、心地よさがゾロの首筋から背中へと広がっていく。ロビンの柔らかい唇がゾロの瞼に落とされると、そのまま彼は目を閉じた。
(サンジ...悪ぃな....目ぇ閉じちまった....)
再び唇が重ねられた時には、ゾロがロビンの手をまさぐっていた。これでロビンのペースになっていくのだろう。それが選んでしまった道だった。
以前サンジに話したことがあった。『その時は受けて立つ』と。そしてサンジは言った。『心だけは渡すな』と。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
「シャワー、お先にどうぞ」
ロビンがすすめるまま、ゾロがバスルームへ向かった。またサンジの声が頭の中に蘇った。
『シャワーは手早く済ませろ。バスタブに湯を張ったりすんじゃねぇぞ』
(あぁ、うるせぇ...いつも傍にまとわりつきやがって...)
いつも誰かに心配されて、ここまで来たのだということは分かっているけれど、今日ほどそれを強く思い知らされたことはない。自分の未熟さに嫌気がさし始めた。
バスルームから出ると、バスタオルを巻いただけのロビンが次を待っていた。ゾロは目のやり場に困り、棚に置かれているバスタオルを鷲掴みにすると、そのまま通り過ぎようとした。ゾロが腰にタオルを巻いて出てくるものと思っていたロビンは、何も無しで現れたその姿に、一応驚いたフリをした。ゾロも後でそれに気づき、とりあえず腰にタオルを巻き、バスローブを取りに行った。
「ゾロ、冷蔵庫に色々入れてもらってるから...好きな物飲んで待ってて」
そう言うとロビンはバスルームへ消えた。早速ゾロは冷蔵庫を物色し始めた。ビールが美味しそうだったが、後が臭うのと、お腹が張るから仕事ではご法度だ。ここは、いつも言われている通りミネラルウォーターで我慢しておく。
ふと、さきほど見たロビンの姿態を思い出した。何とか頭の中から追い払おうとしている自分に気が付いた。しかし、また後で何度も見ることになるだろう。そんなことは無駄だと悟った。
こんなことなら、もう少し真剣に女と付き合っておくんだったと、今更どうしようもないことを考え始めた。何人か付き合ったことは、あるにはある。しかし何れも自分から仕掛けたのではなく"いつの間にか"始まったものだった。なぜか積極的な相手ばかりで、ゾロが何もしなくても、それなりに関係が続いていたのだ。
(あんなの、経験のうちに入んねぇよな...)
それでもモテていたことには変わりはなく、彼女らしい存在が途切れたことがなかった。当の本人に、その自覚はないようだったが。
バスルームのドアの開く音が聞こえた。マットで足を拭く音。タオルで髪を挟みながら、部屋へと歩いてくる。バスローブの裾から、すらりと伸びた足が眩しかった。ゾロは、また視線をどこへ向けようか迷った。ローブの胸の合わせ目は、ロビンの豊満な胸を収めきれずにルーズに開いている。
(ここで何か仕掛けるのか....ベッドに入ってからでいいのか...？)
ここからは、自分で考えないといけない。ゾロは目を閉じて考えた。
パタパタとスリッパの音が近付いてきた。
「ゾロ....考えたって無駄よ」
そう言うとロビンが両腕を肩に回してきた。ゾロの耳の後ろから首筋...さきほどゾロがしたように...唇を這わせた。女性には不慣れだと言っていたゾロの行為は、多分彼自身が普段、そうされていることだろうとロビンは直感したのだ。
「んんっ....」
不覚にもそんな声を出してしまったゾロは、もうこれで主導権は早々と諦める気でいた。今日はそうした方がいいような、そんな気がしていた。
すぐに濃厚なキスが始まった。ゾロは最近の経験と記憶をフル動員させて応戦した。主導権は諦めたが、でも完全に一方的にされてしまうことには、まだ多少の抵抗感があった。胃のあたりに押し付けられるロビンの胸。少し上からの目線だから殆ど見えている。ローブの胸元は、元々緩めにしか合わさっていないのだから、時間がたつにつれ、さらに緩んできている。ゾロは、それを凝視するわけにもいかず、さりげなく視線を外した。
ロビンがゾロの手を取り、自分の胸の合わせ目から素肌へと滑り込ませた。ゾロはその手をどうすれば良いか考えていると、ロビンがくすっと笑いながら言った。
「目を逸らしちゃ駄目じゃない」
ここはリビングだから、そこそこ照明も明るい。嫌でもしっかり見えてしまうのだ。このままだとずっと目を逸らしっぱなしになる。ゾロは咳払いをすると、その手をそっと抜き取った。
「あっちへ行こう」
ゾロはロビンを抱き上げると、ベッドルームへ移動した。クイーンサイズとセミダブルのベッドがあった。彼はサイズのことは詳しく知らないが、とりあえず広い方を選んで、ロビンを下ろした。そして照明をやや暗めに落とした。
(まず...どうするんだ...)
「ゾロ？」
「え？」
「何度も言わせないで。考えたって無駄よ...」
そう言うと、ロビンはゾロの手を取り、同じようにベッドに座らせた。もう今にも胸が、バスローブからこぼれそうになっている。
「さっき、ちょっとドキドキしちゃったわ」
「何が？」
「お姫様抱っこ」
ゾロは目をパチパチさせると視線を逸らした。自分でも赤面してくるのが分かった。そんな様子に、ロビンは愛おしそうにゾロを見た。そして彼の肩に抱きつき、そのまま押し倒した。
「逃げないで」
「逃げたりしない...」
「私、本気よ」
「....来いよ...」
ゾロがロビンの頭に手を添え、自分の方へ引き寄せた。どちらからともなく唇を貪りあう。ゾロは半分目を開けたまま、ロビンの様子を窺った。
「また...隙を見て何かたくらんでるわね」
「何もしねぇよ」
「あなたは楽にしてればいいのよ」
「...本当にそれでいいのか？」
「どういうこと？」
「....その...あれだ...俺が何もしなくて...」
「その時は...ちゃんと言うわよ」
熱っぽい目でロビンは笑った。ゾロの左耳のピアスに指を触れ、その周辺から順に唇を這わせた。彼女の手は、ゾロのローブの内側の厚い胸へと移動した。彼が日頃から体を鍛えていることは聞いてはいたが、初めて見る素肌に目を奪われる。思わずその筋肉の高まりにキスをした。
「ぁ...」
すっかり開発されているゾロの体は、そんな些細な触れ方でさえ、敏感に感じ取る。ロビンは、あることに気づき始めていた。試しに、その胸の頂にある蕾に舌を這わせてみた。
「ん...っ」
やはり思った通りだ。ロビンは少し冷静さを失っていた。もうこんな感覚を持って、男とベッドを共にすることなど無いと思っていたのだが、まだまだ面白いことがあるものだと興奮さえしてきたのだ。
ロビンはゾロの隣に横たわり、少し呼吸を整えた。すると今度はゾロがロビンの体を覆うように近付いてきた。片手で自分のローブの紐を解くとそのまま脱ぎ捨てた。
ゾロは両手をロビンの背中に回し、そっと撫で下ろした。女の肩も背中もこれほどまでに小さいものなのかと、改めて感じた。暗くても、その豊満な胸が目に飛び込んでくる。いつまでも無視することもできず、そっと手を伸ばしてみた。ゆっくりと撫で、その先どうすればいいか迷った挙句、顔を近づけた。その膨らみの先にある、硬くなった部分を口に含んで舌で優しく触れた。時々吸い上げ、甘噛みしてみた。
「ん...ゾ...ロ」
ロビンがゾロの手を握りながら、小さく喘いだ。もう一方の手はいつの間にかゾロの下腹部へ伸びてきていた。
「ぁっ...何...」
何の前触れもなく、その手で愛撫が始まった。まるでずっと前から知っているかのように、丁度いい速さと力加減で手が往復する。時々手を休めてぎゅっと握りこんでくると、ゾロは息を詰めて耐えるのだった。
「私に任せて」
ロビンは、また上になる。ゾロの逞しい胸から腹部へと、唇を這わせ臍まで下りてきた。知らずゾロの体が敏感に反応する。すぐ傍では、すでに屹立しているゾロの分身が待ちわびるように存在している。ロビンがゾロの膝の下へ手を入れるとその両足の間へ、自分の体を置いた。そしてその中心へ顔を近づけた。
(あら？.......)
ゾロの太腿の内側に、たった一つ、痣のようなものがある。さらによく見てみる。間違いない、うっ血の痕だ。
「随分嫉妬深いのね、あなたの彼」
「...え？」
フッと小さく笑うと、ロビンはその小さな痕跡のすぐ近くに唇を付け、強く吸った。同じくもう一方の足の方にも、左右対称の場所に同じ事をした。ちょっと痛がるゾロの手に、自分の指をからませた。
その中心部に再び視線を戻すと、先端を一度だけ舐め回し、大きく飲み込んだ。とても全部は入らない。何度も往復させながら、舌と唇で攻めていく。
「うぁっ...はっ...」
今始まったばかりと言うのに、ゾロの体では、あっという間に快感の熱が一箇所に集中してきた。膝から上の力が抜けていく。歯を食いしばり、懸命に耐える。
(う....巧すぎ...るっ....)
もうもたない...そう観念して目を閉じた。その熱い快感を生み出している源が、いっそう密着しながらゾロ自身を扱きあげ、そして吸い上げた。堪らず腰を浮かせたゾロは、ロビンの顔に下半身を押し付けるようにし、意識を飛ばしそうになりながら、こみ上げてきたものを小刻みに吐き出した。
「はぁっ..はぁっ..」
荒い呼吸の中で、ゾロはロビンの顔を見た。ロビンの唇が艶かしく光っている。
「とっても素敵だったわ」
「まだ...だろうが」
「次は...」
ロビンの導きで、再びゾロが上になる。
「同じようにして」
ゾロの手がロビンのバスローブの紐に触れた。ゆっくりと解き、前の合わせ目を開いた。そして彼女の顔から首、胸へと順番にゾロの視線が動いていく。一瞬ではあったが、ロビンは、まるで直接触れられているような錯覚に陥った。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
その熱い中心部分へ、ゾロは顔を近づけた。どうすればいいのか見当もつかなかった。そこへ息がかかる度、ロビンの表情が微かに変化しているのが分かった。考えても無駄だと思い、唇を付けた。口で息を吐きながら、丸みに沿って唇をスライドさせる。
「ぁ......」
小さい喘ぎ声が糸を引く。唇の動きを数回繰り返すと、ロビンの足を遠慮がちに少し開かせて、その間にゾロが体を置いた。再びその場所に顔を近づけ、今度は舌で色んな方向へなぞり、時々吸った。そこは次第に解されて柔らか味を帯びてきた。さらに深く舌で愛撫し、湧き出る熱を味わった。やがてロビンの手はゾロの頭を掴み、膝を立て、ついには脈打つような痙攣をゾロへ伝えた。
抑えられなかった自分自身の歓喜の声に、ロビンは戸惑いと羞恥の表情を見せた。
「やだ...私ったら...」
「そんなことない...いい声だった...」
ゾロが耳元でそう囁いた。その声音がロビンの体に残る余韻を深くする。
そんな彼女の表情は、普段の余裕のある知的美人系ではなく、内面の瑞々しさを惜しげもなく溢れさせている、一人の「女」の顔だった。
--『決して男を手玉に取るようなタイプじゃないんだよ。とても可愛いところもある』--
シャンクスの言葉の意味が分かった気がした。
「さ、楽にしてて」
再びロビンの導きで、ゾロが下になる。彼女の両膝が彼の腰の左右に置かれた。ロビンは膝立ちの状態で、ゾロの腹に張り付いたモノに手をかけて起こし、先端を自分自身の中心へ当てた。息を詰めながら、少しずつ腰を落としていく彼女の体を、ゾロが支える。折れてしまうではないかと思うほど、細い腰。その少し下あたりに両手を添え、彼は自分の腰を突き上げた。
「ああっ...」
さきほどと何ら変わらず硬く熱いモノが、彼女の体内をいっぱいにした。何もせず、楽にしていればいいのに、また仕掛けて来ようとしているゾロ。ロビンは前後に腰を揺らし、彼の動きを封じた。
「くっ...」
今度はゾロが声を出した。我慢しているのだろうが、今にも喉の奥から漏れてきそうになっている。彼の耳元にロビンが囁いた。
「だから...楽にしてていいのよ」
「うっ...ぁ....」
ゾロは全身の快感が、一極集中しているような気がした。ロビンもまた、静まりかけていた熱が呼び戻されている。やがてロビンの動きが、前後から上下に変わった。腰をギリギリまで浮かせ、一呼吸置いてから一気に落とす。何度か目には、ゾロも堪らず意識を手放してしまった。
ロビンもまた、ゾロの上に崩れ落ち、彼の耳元で荒い呼吸を続けている。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
見慣れない天井、見慣れない壁の色、そして見慣れないベッドサイドのテーブル。ゾロは自分が夢を見ているのかと思った。腕を放り投げた先で、シーツに広がった黒髪に触れ、ようやく思い出した。
ロビンが静かな寝息を立てている。髪もそうだが、綺麗な表情だった。普段見る顔より、ずっと綺麗だ。思わずその瞼や頬に、指で触れた。
「..んん...」
「悪ぃ...起こしちまったか...」
「ゾロ...」
「ん？」
「ずっと...そうやって見てたの？」
「...あんまり綺麗だったから...」
「....ふふっ」
ロビンは平静を装うつもりが、我慢できずに噴出した。ゾロが真顔で言う言葉ではなかったからだ。数秒後にゾロは、自分の吐いた言葉の内容に気が付いた。
「あ...いや、口が滑った」
「ありがとう」
「だから...」
「あなたがお世辞を言わないことくらい知ってるわ。だから嬉しいのよ」
「それって...ホストとしてどうなんだってことだよな」
ゾロは照れ隠しに話を逸らそうとした。正直で真っ直ぐで、天然で、それはこの仕事をしていくにしては困ったことでもあるのだが、上手に使えばかなり個性的な武器となる。まだそれを使いこなせないでいるゾロだった。ただ、その魅力に嵌った者だけが、こうしてゾロの傍にいることになるのだ。
「ねぇ...それより、これどうするの？」
悪戯っぽい目をしたロビンがゾロの股間をまさぐっている。
「おい...っ、何してんだよ」
「こんなに...なってるわよ？」
「起きたばっかだから、フツーだろ、放っときゃ元に戻るって」
「気になって放っとけないわ」
「いいから...手ぇ離せ...あっ...おい....ぁぁっ」
「駄目よ。ちゃんと出さなきゃ」
「もう出ねぇよ...あんなに...しただろ...うぁっ...」
「まだ2回よ。若いくせに何言ってるのよ」
「おい...離せよ...ん..もう無理だって...んん...」
ロビンの頭が掛けシーツとゾロの間に潜り込み、もぞもぞと移動した。そして先ほどまで触っていたモノから手を離し、今度は口を使い始めた。
「もういいって...ぁ...」
ゾロの言葉とは裏腹に、体は正直に反応する。体の奥の熱が加速を付けて膨張してくるのが分かった。思わず腰を浮かせてしまう。シーツを掴み、喉の奥で快楽の波をせき止めた。
ゾロの顔は見えないが、腰や太腿の動きで状況は手に取るように分かる。ロビンは深く咥え込み、ギリギリまで扱き上げ、また深く落とす。彼女の肩にゾロが手を置いた。その手は何とも落ち着かない動きをしている。
『もう、ヤバイ...』
『いいわよ』
『くっ.....ぁぁっ...』
『....』
新たに生まれた欲望を惜しげもなく吐き出した。荒い息がその激しい痙攣と同期している。少し呼吸が収まってくるとゾロは言った。
「これで...勘弁してくれ」
「何よ、情けない声出して」
「そっちは、しなくていいのか？」
ゾロはロビンの体を指差して言った。自分だけで終わるのは何となく格好がつかないと思ったのだろう。
「多分、大丈夫よ...」
「一応、確かめておくかな」
「あっ...」
今度は反対に、ゾロがロビンの体をまさぐり始めた。目標の場所へ到達するとゾロは手を止めた。指先だけで優しく触れていく。ロビンが思わず目を伏せた。少し深みに入ると、指は滑るように飲み込まれていった。ゾロの指先は、小さく円を描くような動きを始めた。ロビンの眉間に皺が入る。
「我慢するなよ」
「もう....生意気ね」
「悪かったな、でも結構上手いだろ？」
「まだまだよ」
「これならどうだ...」
ゾロが指を2本にして、さらにその先へ進入した。最奥を引っ掻いたり押し込んだりしながら、ロビンの表情を見ていた。
「あぁっ....」
「これでイケる？」
「ぁ...駄目...」
「ダメ？そりゃ残念...」
指はそのままで、ゾロは仕方ねぇなと言いながら、ロビンがしたように体勢を変えた。彼女の下腹部にゾロの熱い息がかかった。
「前置きは省略だ」
そう言うとゾロは、いきなりその熱い場所を舌と唇で吸い上げた。まんまとロビンの策略に乗せられたようで、理性は残していた。楽な道を選べばいいのに、こうしてどこか冷静な自分がいる。"心"を渡せない相手に、欲望や感情を剥き出しになんて、とてもできない。ましてや演技などゾロにできるはずもなかった。
いっそう歓喜の声は高くなり、彼女の手はゾロの頭を強く掴んだ。彼の指を包む熱い粘膜を通じて、心臓の鼓動のような動きが伝わってくる。ロビンの荒い呼吸がしばらく続く。ゾロは彼女の腰に手を回し、抱き寄せた。そして思わず太腿の内側にキスをした。思ったより強く吸ってしまい、慌てて唇を離したが、うっ血の痕を残してしまった。
「あ...悪ぃ...」
「...痕、付いた？」
「うん...」
「いいわよ。別に見えないところだし」
「あぁ...」
「おそろいね」
また悪戯っぽくロビンが笑った。
「おそろい？」
「そうよ。あなたの足にも....先客がいたから、お隣にね」
「！」
ゾロは自分の足を調べた。太腿の内側に、確かに痕跡がある。一つはサンジが付けたものだ。そしてその近くに新しい痕。そして反対側にもまた、似たような痕。
「ちっ...やってくれたぜ」
「怒られちゃうかしら？」
「今日は絶対、野郎に見せねぇようにしねぇと...」
「彼氏は嫉妬深い人なの？」
「彼氏って...」
また、うっかり口にしてしまった。
「いいのよ、隠さなくても」
「何も...」
「多分...あの人でしょ？」
「....」
ロビンがベッドから下りて、バスルームへ向かった。
ロビンに隠し事も嘘も通用しない。分かってて黙っているのではなく、こうしてはっきりと言ってくれる彼女の大人の余裕は確かに魅力的だ。ゾロは多少でも、自分のペースでどうにかしようと思ったことの愚かさに気付いた。
付き合う相手が年上だと楽だ、とサンジが言っていたのが理解できる。
(今までの俺って...本当に経験値限りなくゼロ、だったんだな)
バスルームの方からロビンの声がした。
「ゾロ？お先に使わせてもらったわ。次どうぞ」
「あぁ」
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
車を返し、タクシーに乗り換えて"BlueRoses"へ向かった。閉店までは後2時間弱。あと一仕事で今週も終わりだ。
「オーダーお願いします」
ウェイターがキッチンへ伝えに来た。声が弾んでいるのに気付き、サンジがチラリと視線を寄こす。
「サンジさん、ゾロが店に出てきたけど..また例の美人と一緒。今日はまた一段と綺麗で..本当、羨ましい..」
「ちゃんと仕事しろ」
サンジがウェイターを睨みつけた。今日は随分長いデートだなと、思っていた矢先だったので、イライラが極限にまで達していたのだ。
今から1時間ほど前。ナミがキッチンへ来ていた。
「サンジくーん」
「ナミさん」
「元気？」
「勿論」
「今日は、寂しいわね」
「いつもと同じさ」
「2回目よね？」
「俺に何を訊きたいわけ？」
「ただ、サンジ君が落ち込んでないか心配して来たのよ」
「何で落ち込むんだよ？」
「またまた無理しちゃって」
「俺は元NO.2ホストだ。アイツは現役売れっ子だ。ちゃんと分かってるからいいんだよ。仕事は仕事。公私混同は無し」
そんな予想通りな会話が展開されていた。ナミはサンジに付け入る隙が無いことが分かり、彼とゾロとの間に固い信頼関係が築かれていることを知った。
そして、またナミがやって来た。
「また来ちゃった」
「だいぶ暇になったから、構わないよ」
「さっきロビン達と少し一緒に飲んだわ」
「そう？」
「今日はあの二人、駅ビルの隣のホテル、使ったわね」
「え？...あぁ前も使ったみたいだぜ。彼女の行き付けじゃないのかい」
「私もたまに使うけど...だから分かるんだけど、あのホテルのブランドのソープの香りがしたわ。トワレも多分そうだわ」
「そんなの俺に知らせてどうすんだ」
「ちゃんと現実見なきゃダメよ。でないと、その内耐え切れなくなるわよ」
「大丈夫って言ってんだろ」
「ロビンでも今日まで落とせなかったなんて、ゾロって意外と堅いのね」
「そこらのチャラ男と一緒にするなよ」
「でも...私はやっぱりサンジ君の方が好きだわ」
「ナミさん...」
もう多分、自分には戻ってこないと分かっていても、サンジに関わっていたいと思うナミ。時には意地の悪い言葉を吐いてしまうこともあったが、サンジはちゃんと分かっていた。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
タクシーを呼び、ロビンの帰り支度を手伝うゾロ。今日一日で一気に距離が縮まったとは言え、ホストと客という関係には変わりは無い。
「ゾロ、今日は楽しかったわ、ありがとう」
「こちらこそ」
「うふふっ...疲れさせてごめんなさい」
「あっ...あれくらい何ともないから」
「もう...可愛いんだから...お店じゃなかったら今ここでキスしたいわ」
「何を...あぁ、そろそろクルマが来ますよ」
「そうね」
店を出ると、もうタクシーが待っていた。
「じゃ、気をつけて」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
ホッとため息をつくと、店へ戻った。もうホールでは片付けが始まっていた。ロッカールームへ行くと、椅子に腰を下ろした。
『あ〜、今日は参った...』
「お疲れさん」
「サンジ？」
「何驚いてんだよ」
「急に来るからだろ」
「もう帰れる？」
「あぁ...」
帰り道。
「お前、疲れてんなぁ」
「...うん...まぁな」
「今日のデートで気疲れしたのか？」
「気を使ってるつもり、ねぇんだが」
「つもりはなくても、使ってんだろうな」
「そうかもな」
「今日も...同じホテルで夜景か？」
「え？...あぁ...いや今日は..先に植物園だ」
「ショクブツエン？...何だそれ、健全デートだな」
「ライトアップがあるからって...連れて行かれた」
「あの中央の途中にあるデカイとこ？」
「うん...多分」
「何だよ、多分って...そこで、何観てきたんだ？」
「バラが確か...5000本以上...」
「バラに囲まれて、夜のライトアップ...ロマンチックだな？」
「う....」
「てめェには似合わねぇシチュエーションだぜ」
「そうだ」
「それで、周りもあちこちでカップルがイチャコラしてたんだろうな」
「よくは見てねぇけど...多分な」
「そんな中で、ただバラ観てただけじゃねぇよな？」
「サンジ...」
「.....」
スッとサンジがゾロに腕を伸ばし、手首を掴んで足を速めた。
「さ、帰るぞ」
「お...おい」
「それで？キスくらいしたのか？」
「なんでいちいちそんな事...」
「したかしてないか考えてモヤモヤするよりは、知っておいた方がマシなんだよ」
「.....したよ」
「よし、よくやった。それでこそ男だ」
「ちゃんとお前のアドバイス通り、目も開けてたぞ」
「....時には閉じることも覚えろよ」
「あ？」
「その場の状況と、相手に依りけりだ」
「そうなのか？」
「...ふん...バカなやつ」
「んだと？」
「で？その後はどうした？」
「...ホテル」
「結局行ったんじゃねぇか」
「何か、部屋が分かれてて...あんなのあるんだな」
「それって...スイートルームじゃねぇか！豪勢だな」
「そうなのか」
「そりゃ随分気合入ってんじゃねぇの？ルームサービスで極上の紅茶でも頼んだか？」
「...よく分かるな」
「そんなのパターンだろうが」
「ふーん...」
「俺のホスト時代の話だぞ！」
「ふーん...」
「で、酒はナシか？」
「そう。あと甘くないナントカケーキ」
「ますます気合入ってるな」
「どういう意味だ？」
「酒の力は無しってことだろ...ある意味"本気"だな」
「....」
「ちゃんと...やれたのか？」
「そんなこと...」
「俺にも責任があるだろ...女とヤレない体にしちまったら...この仕事終わりだからな」
(俺..何言ってんだよ..バカだろ..訊いてどうすんだ)
「やったというより...」
「ん？」
「ヤラレタ...っぽい」
「あぁ？」
「だから...」
「何だよ、それ？...お前がじっと寝てて、彼女の好きにされたってのか？」
「いや...それもあるけど...交代で...」
「.......」
「サンジ...？」
「もういいよ...多分お前が女に不慣れなの分かってて、そういう風にしたんだろ。やっぱりお前には年上が合ってる」
「....俺も...そう思う」
「てめェ！そんなに良かったのかよ....っ」
そういう意味で言ったつもりはなかったが、最後の一言は必要なかったかも知れない。ゾロは頭を掻きながら、早く話題を変えたいと思った。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
部屋に戻るとサンジがバスルームの準備をする。
「先使う？後がいい？一緒に入る？」
珍しい選択肢をサンジが提示してきた。ゾロは少し考えて言った。
「一緒に」
「へぇ...お前も世渡り上手くなったじゃねぇか」
「つっかかるなよ」
「挑発にも乗らなくなったか」
「俺、疲れて...」
最後まで言い終わらない時に、サンジに唇を塞がれた。ゾロはそのまま抱きすくめられた。
「このバカ...黙って抱かれてろ...抵抗すんじゃねぇぞ」
「しねぇよ...てめェこそ大バカだ」
「クソっ...」
息が止まるかと思うくらい、強く抱きしめられた。サンジの舌がまるで何かの生物のように、ゾロの口の中を蠢いている。
「仕事だってことぐらい分かってんだよ...」
「サンジ....」
「俺の方がずっと経験あるんだからな...」
「.....」
「ゾロ...腹減ってるか？」
「うん？まぁ、そこそこに」
「シャワー、ちょっと時間かけるぞ」
「え...？」
「それまで晩飯、ちょっと我慢しろ」
「それって...」
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
バスルーム。体を洗い合って流し終えると、サンジはゾロを座らせた。
「首も...胸も...付けられてないな」
「お前と一緒にすんな」
「多分気付いてねぇだろうけど...一つだけ付けてある」
サンジはゾロの片方の膝の下に手を入れると、少しだけ持ち上げた。ゾロは慌てた。サンジの視線は、ゾロの足の付け根を舐めるように動いた。
「おいっ...変な格好させんじゃねぇっ」
「.....」
「何してんだよっ...ジロジロ見てんじゃねぇ...」
「これは....挑戦状か」
「えっ？」
「それとも宣戦布告？」
ゾロは事の重大さに気付き、嫌な汗が出てきた。今日は『見られないようにする』つもりだったが、すっかり忘れていたのだ。やっぱり俺は未熟だな...とゾロは思った。
「いいさ、そういうことなら。ゾロが絶対、俺から離れられないようにしてやるだけだ」
「落ち着け。何もしなくていいって...今のままで」
「まさか...女に目覚めたのか？」
「あのなぁ...そういうのは目覚めるとは言わねぇだろ」
「うるせぇよ！とにかく...俺が一番だって教えてやる」
「教えてくれなくたっていい」
「何でだ？」
「もう知ってる...充分知ってる...俺の...」
「何だ？」
「...全身が知ってる」
「ゾロ...」
ゾロの足から手を離したサンジは、少しばつが悪そうな表情を見せた。
「悪かった...飯にするか」
「腹減った」
「ちゃんと用意してあるから、すぐ食える」
ゾロはホッとした。あのまま抱かれてしまうのではないかと思っていたからだ。さすがに、さっきはそういう気分にはなれなかった。
バスルームを出ると、サンジは早速食事の準備にかかった。
「ゾロ、食い終わったら、分かってんだろうな」
「何が？」
「とぼけても無駄だ....たっぷり可愛がってやるからな」
「ひぃっ...マジかよ...」
「何を今さら.....いつもの事だろ」
「明日にしねぇか？...俺さ、今日は...」
「明日は明日でやるからな！今日の分は今日に済ませるんだ」
「ノルマみたいに言うな...」
「...今日は1回だけでいいから...」
サンジの声が少し小さくなった。
「お前の体に残る記憶が...俺のコトじゃねぇなんて嫌なんだよ」
「サンジ...」
「目が覚めて、思い出すのは俺の声、俺の手の感触、俺の...」
「分かったよ...好きにしろ」
「....ゾロ....呆れたか？」
「あぁ、呆れた。ついでに自分にもな」
「何で？」
「俺も...同じ事考えてたから...」
「ゾロ？」
「今日は帰ってすぐ体洗って...お前に記憶塗り替えてもらいてぇ..って思ってた。でもお前は『これからもある事だ、深く考えるな』って笑うかも知れねぇって...。でもマジ疲れてて...とても普段みたいにはできねぇって...」
「疲れてることは、一目見て分かってたさ」
「帰り道で、そう言ってたな」
「俺もそこまでしてヤラねぇよ」
「ちょっと信じ難いけど...一応信用しとく」
「心外だな」
そうか...とサンジは小さく呟いた。ゾロは今日は並々ならぬ覚悟をして臨んだのだ。女相手に普通の「男」を演じようとしていたのだ。出掛ける前の、いつもと違うゾロの行動や言動にも納得がいった。
サンジはゾロの短い髪を、くしゃっと掴むと、自分の方へ引き寄せ唇を強引に奪った。手段は強引なのに、キスの仕方は優しかった。こういうところが、上手い。そしてゾロもそれを素直に認めている。
(俺には、まだまだ手の届かない領域だな...)
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
食事の後片付けが済むと、ベッドルームへ直行した。ベッドにばたりと倒れるゾロ。もう、いくらも余力はない。
「何だよゾロ...おやすみのキスもなしか？」
「あぁ？」
「つまりは...まだ眠らないってことだな？」
「何でそうなる...」
サンジに覆い被さられたゾロは、抵抗する気力もなかった。しかし、どうせそのうち諦めるだろう。
「サンジ...無駄だからやめとけ」
「え？」
「マジ...無理だ...」
「そんなに....抜かれたのか...あの女に」
「そういう事、言うなって！」
「こんな事なら...出かける前に、あと2回くらいヤッとけば良かった...」
「てめェ、そればっかりかよ！」
サンジを跳ね除けて、ゾロはブランケットを独り占めにして横を向いた。サンジは何とかゾロを自分の方へ向かせようとした。
「なぁゾロ...せめておやすみのキスを...」
「キスくらいなら、いくらでもやれ」
「本当か？！」
「ここらへんに」
そう言うとゾロは手をサンジに伸ばした。顔と体は相変わらず横を向いたままだった。
「ゾロ...生殺しだ...あんまりだ...」
そう言いながらもサンジはゾロの手を取り、甲に軽くキスをした。
「でも、こうして横に眠ってくれるんだから...まぁいいさ」
何事も諦めが肝心。サンジは、既に寝息を立て始めているゾロの隣に横たわり、今日も一緒に居られる幸せを噛み締めるのだった。そして間もなくして、サンジも眠りへと落ちていった。
fin.
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