〜学園シリーズ 完結編〜
花、つぼみ膨らむ。
〔ご注意〕***30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい***
「なぁ、サンジ。今年も絶交？」
「あ？」
バレンタインも終わったある日の夜、電話で話している時の事。ゾロは突然そう問いかけてきた。サンジは何の事か一瞬分からなかった。
「もうすぐ学年末テストだろ？」
そう言われてしばらく考えて、サンジは"あぁ"と思い出した。
昨年の今頃、ゾロと付き合い始めて間もない時だった。一緒に居たら勉強に身が入らないし、ゾロの手前、みっともない成績だけは取りたくなかった。
だから"テストが終わるまでの期間限定の絶交"を言い渡した。その時はまだ中等部だったゾロは、一足早くテストは終わっていて、高等部への進級も確定していた。それでもサンジに合わせて勉強し、最後の実力テストでかなりの成績を上げたようだ。
あれから、1年。
二人の関係は進んだような、そうでないような。
「もう、絶交する必要ねぇよ」
「そうなんだ」
「.....して欲しかったのか？」
「.....そんな訳、ねぇだろ....俺...」
「何だ？」
「あの時....すげぇ辛かったんだぜ、本当は」
「んな事、今さら言うなよ！....ってかお前さ、何でもねぇような感じだったじゃん！俺の方が..」
これ以上言うのは、サンジのプライドが許さない。
いや、もう昨年の話。あの時は意地を張って無理していたのだ。先輩としてカッコつけたかっただけかも知れない。
「俺の方が....俺だけが辛いと思ってたから」
「....サンジは俺の事、まだ分かってなかったんだな」
「....そう言われたら、そうかも知れねぇ。まだ付き合ったばっかだったし」
「俺がどんだけ、サンジの事....」
「もう....やめろゾロ」
寝る前の電話で、そういう事を言うのはやめてくれ。
サンジは深呼吸をすると、再び話し始める。
「明日から、一緒にテスト勉強しようぜ」
「....うん、いいけど」
「けど、何だ？」
「...俺、集中できっかな」
「するんだよ」
「目の前にサンジが居たら、俺、我慢できねぇかも」
「......その時は俺が断固拒否するから大丈夫だ」
「えー、サンジって、そんな理性あったんだ」
「俺は大人だからな」
「そんなに変わんねぇだろ！」
そんなに変わらないけど、1コ違いは永遠だ。
＊＊＊＊＊＊
たまに会うから、きっと思いが募ってしまうのだ。久々に目の前で顔を見るから、気持ちが昂ってしまうのだ。だからもっともっと、頻繁に会えばいい。
そんな理屈に従って、サンジはゾロと「ほぼ毎日一緒にテスト勉強会」を実行した。ゾロは自分でさっさと進めてしまうので、サンジにしてみれば、分からないところを教えてやる必要は無く、自分自身の勉強に専念できた。あまり一緒に勉強するメリットは無いが、互いが傍にいるだけで、何となく安心できた。
間に余計な休憩は取らず、まるで競うように問題集をこなし、ノートに色ペンで補足していく。その間だけは、互いの存在を頭の中から消してしまうのだ。
予定していた課題を終えると、サンジがココアを出してくれる。これがまた格別に美味しくて、ゾロはいつも嬉しそうに飲む。
「だいぶハイペースで進んだな」
「うん....もうテスト範囲全部やった」
「始めから見直して、間違ったトコとか...チェックするだけだろ？」
「うん、そんな感じ」
「じゃ、一人でもできるな？」
「.....もう、一緒に勉強しねぇの？」
「勉強は、あとは一人でやるしかねぇだろ....学年違うんだし、お前は教える事何もねぇし」
「.....」
ゾロは少し寂しそうな顔をして、サンジを見ている。そしてチラリと時計を見た。終了予定時間迄、まだ2時間近く残っている。
「んな顔したって駄目だ。勉強会は今日で終わり」
サンジはゾロの頭に手をかけて、自分の方へ引き寄せた。
「勉強会は終わりだけど...明日からも一緒に...」
ゾロが"え？"というような顔で、サンジを見る。
「今日でとりあえず課題は終わったから....」
「......」
「もう、我慢しなくていいぞ」
「....サンジ」
「俺も、しねぇからよ」
ゾロの身体にかかる手をさらに引き寄せ、サンジはゾロの耳元で話す。耳たぶにサンジの息がかかる度、ゾロは目を細める。
「ゾロ....」
サンジの顔が近付いてくると、ゾロも応える。唇同士が微かに触れただけで、胸が高鳴り呼吸が速くなってくる。
「サンジっ」
ゾロの腕がサンジを抱え、ぎゅっとそのまま力を込めた。久々だったせいか力が入り過ぎ、サンジは顔をしかめて苦笑する。
「逃げやしねぇって...」
優しくそう言われ、ゾロは少し力を緩めた。どんな小声でも、息がかかるくらいの距離に顔がある。なかなかサンジがキスをして来ないので、ゾロは焦れったそうに身体を寄せて来る。
サンジが目を閉じて待っている。少し余裕の表情で。
(来てみろ....)
ごくりと唾を飲みこみ、ゾロはサンジにもう一度近付き、唇を合わせた。初めてでもないのに、少し震えていた。その様子を肌で感じたサンジは我慢が出来なくなってきた。
「お前な....いい加減にしろよな？」
逆に余裕が無くなったのか、今度はサンジがゾロを抱え、キスを続ける。ゾロがどうやって攻めてくるか、どうやってサンジを欲しがってくるか。
じっくり観察する暇も無かった。
この半年間、二人で話し合って決めた事がある。
"勉強はきちんとやる"
成績が落ちれば、何があったのかと親や担任から詮索されるかも知れない。部活との両立が無理なのかと言われるかも知れない。何も言わせない為には、いい成績を取っておくしかない。
今のところ、問題はない。だからこうして、会っていられる。ただ互いの部活の忙しい時は、全く会えない。でも、それは仕方のない事。そう割り切っている。
そんな付き合いが、気が付けば1年続いている。
二人が座っていたラグの上に転がされたサンジは、覆い被さってきたゾロに手を握られ、空いた方の手でゾロの頭を撫でていた。握られた手は、じっとりと湿っている。まだこの期に及んでも、ゾロは緊張しているのだろうか。
(身体はデカクなっても、そういうトコは変わらねぇんだな)
今日は、ゾロの好きにさせてやろう。サンジはまたゾロの髪を撫でた。さっきから終わりそうにない、ゾロの濃厚なキスのせいで、少し息が苦しくなってきた。ゾロの肩を掴んで合図する。
「んんっ」
「....サンジ....？」
「てめっ....息できねぇだろっ...」
「.....ゴメン」
とりあえず中断したものの、まだ"足りない"といった表情で、ゾロはサンジの口元ばかり見ている。
(ん？何か今日は全然余裕ねぇんだな....)
「ったく....キスもまともにできねぇのか？」
こうやるんだぜ？と、サンジは少し笑いながら、ゾロの頭を引き寄せ、唇を重ねた。すぐにゾロの舌が入ってきて、サンジの舌の表面をざらざらと撫で、側面を舌先でくすぐるように触れた。
それほど巧い訳ではないが、その舌の感触にサンジの背中がぞわりとなってくる。気持ちよくて、ゾロの舌を離さない様に吸いながら、舌の表面同士を擦り合わせた。背中だけでなく、腰の辺りもじんわりと快感が広がってくる。
ゾロの唇が、サンジの顎から喉へと移動する。時々舌先も出しているのか、くすぐったい。
「....ったく、猫みてぇだな....」
サンジは自分に懐いてくる猫の頭を、愛おしそうに撫でた。好きにさせていたら、全身舐められそうな勢いだ。とりあえず中断させて、サンジは身体を起こした。
「ゾロ....俺をどうしたい？」
「.....抱きたい」
「い....意味分かって言ってる？」
「うん.....」
昨年夏あたりから、ゾロの身体を慣らしてきたのは、勿論いずれはサンジがゾロを、と思っての事。なかなかそこまで至らなかったのは、焦らなくてもいいと思っていたからだ。
ゾロは黙ってその行為を受け入れてきたので、きっと分かっているものと思っていたのだが。それがなぜ、「抱きたい」という事になったのだろう。
「俺の方は、まだ一度も慣らした事ねぇだろ？無理だ」
「サンジが今まで俺にやってくれたの、同じ事すればいいんだろ？」
「ま....そうだけどさ」
サンジは少し考えた。ゾロはきっと何かの勢いで、こんな事を言ってるんじゃないか、と。いくらゾロの頼みでも聞ける事と、そうでない事がある。
これまでの流れでいくと、やはりまだ早い。それに....ゾロが聞いたら怒るかも知れないが、ゾロには無理だと思う。
「まだ....早いんじゃね？」
「.....いつだったらいいんだよ」
「俺がいいって思った時」
「.....」
サンジに拒絶されたのかと、少し不安になったのだろうか。ゾロはそれ以上言わなくなった。
「ゾロ....怒ったのか？」
「....ううん、そうじゃねぇけど」
「....いずれ、その時が来るさ」
「うん.....」
「こっち来い」
サンジはゾロをベッドへ導いた。手首を掴んで連れていくと、頼りなげに歩いている。
「もし.....上手にできたら.....抱かせてやるよ」
「え？」
「その代わり....俺もヤルからな....それでいいか？」
「.......」
「覚悟がねぇんなら....諦めろ」
「諦めるもんかよ」
興奮とも緊張とも知れない、やや上気した顔で見つめてくる。その気迫にサンジは押されそうになる。あぁ、やっとこの目になった。これが、サンジのよく知っているゾロの顔だ。
「じゃ、もう考える事ねぇ....全部脱げ」
「うん」
時間もそうある訳ではない。二人は手早く衣服を脱ぎ去った。最後の一枚にかかったゾロの手に、サンジの手が伸びた。
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