〜ある古城にて〜
虎目鷹の目、蛇の道は蛇
〔ご注意〕***30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい***
「ところでよぉ.....何でお前....」
「ん？」
「俺を助けてくれたんだ？」
「え.....」
「どっちかっつーと、俺は敵だろうが」
「....そんな事、どーでもいいだろっ」
「まぁ、そりゃそうなんだがな」
「戦えない相手は、敵とは言えねぇ！私は誇り高く心優しいプリンセスなんだ！有り難く思え！」
「プリンスだかプリンセスだか知らねぇけど」
「プリンセス！」
「なかなかイイヤツだな、お前」
「......！」
ゾロはそのプリンセスの頭を撫でた。彼女は一瞬嫌そうな顔をしたが、その場を離れるでもなく、拒絶の言葉を吐くでもなく、じっとしていた。
怪我はすぐにでも治りそうな気がしてきた。事実、此処に来た当初の状態に比べれば、随分と回復している。
「お前.....あの男と....どういう関係なんだ？ただの知り合いって訳でもねぇだろ」
「.......確かに、ただの知り合いじゃねぇ」
「.....何だか、嬉しそうだな？」
「そりゃぁ、な。まさか今このタイミングで出くわすなんて、夢にも思わねぇからな......まるで.....」
まるで、仕組まれていたかのように。
「それにしても、お前が回復するのを待って、稽古つけるなんて....この扱いの差は何だよ！」
「ん？」
「私になんか、お前の手当てしろとか命令するし....客人の私にココアの一杯も出さねぇし！」
「....俺にも、酒の1本くらい.....」
「バーカ！酒なんか飲んでたら、怪我が治るかよ！」
どうでもいい事を言い合っている二人の会話を、いつの間にか近くまで来ていたミホークが黙って聞いていた。そして唐突に話し出した。
「貴様らは客人などではない。人の留守中に勝手にやって来て住み付いてるだけだろう。もう少し遠慮したらどうだ」
「うわ、聞いてたのか....」
「確かにその通りだ.....おい、ホロホロ女、失礼のないようにしろ」
「その呼び方やめろっつってんだろ！...そ、それにっ、何を勝手な事言ってんだぁ！私だって好きでこんな処....」
「そう言うな。また遊んでやっから」
「っ......てめぇっ！私をバカにしてんのか？！」
「まぁ、あと1回くれぇなら.....あのクマなんとかってやつ、してやってもいいぜ？」
「........ほ、本当かっ？」
「あぁ....」
あんなにペローナに弄ばれていたゾロも、徐々に彼女を手なずけていっているようだ。そして彼女にとってもこの男が、何となく放っておけない、そんな存在になっていたのだった。
非常識なほどの早さで治癒していくゾロの傷。体力もみるみる戻ってきた。もう一日たりとも無駄にしたくない。怪我が治り切っていなくても、修業を始めたくて堪らない。
「もう治った。始めてくれ」
「一日やそこら、早く始めたからと言って、大きな違いは無い。逸るな、ロロノア....焦りは禁物だ」
「じゃ、あと一日だ....明日の朝から始めたい」
「......痛みが残ってなければ、いいだろう」
「ありがてぇ」
ゾロの事だから、多少痛みが残っていても「痛くない」と言うに違いないのだが。恐らくミホークも、それを分かっているようだ。実のところ、彼も早く今のゾロと戦ってみたかった。前に会った時とは明らかに、ゾロの放つ気迫や殺気のようなものが鋭く、強くなっているのを感じていたから。
＊＊＊＊
翌日から始まる修業に思いを馳せるゾロ。そこへやって来たペローナが話しかける。
「これから2年.....それが終わったら、此処出て行くのか？」
「あぁ、そうなるな」
「行き先は分かってるのか？」
「あぁ.....俺達、一味にだけ分かっている」
その場所へ一日も早く戻らなければという焦りはもう無い。その必要も無くなったのだ。
「.......」
「ん？」
「てめぇは、不安に思うとか、全然ないんだな...その自信はどこからくるんだ？」
「何が？」
「行き先が分かってても、行き方が分かんねぇんじゃどうしようもないだろ？此処の中だけでも、何回歩いても迷ってるクセに！私が案内してやらなかったら、永遠に迷いっぱなしだろ！」
「うるっせーな！俺だって好きでやってんじゃねぇ！どっち向いても似たような色してんだから、しょうがねぇじゃねぇか！」
「似た色？そんな事言ってたら、どうやって海を渡っていけるんだよ！」
「.....だったら何か？お前が案内してくれるってのか？」
「........困ってんなら、やってやらねぇ事も....」
「別に困っちゃいねぇが.....」
「普通困るだろ！てめぇ、仲間と会うんだろ？そこに行き着けなかったら、どうする気だ？」
「.......いや、何とかなるだろ」
「なるかよ！てめぇ独りで海を漂って.....そのまま死ぬだけだろ！」
「いや、最初に海に出た時も.....ま、色々あったがこうして今、ちゃんと生きてる」
「ふん、運だけは強いみてぇだな」
(そうだな....)
ゾロは初めて独りで海に出て、故郷に戻れなくなった事、ルフィに出会った時の事、それから色々な事を断片的に思い出していた。確かに、自分は並外れた強運の持ち主なのかも知れない。
(一つ間違えたら死んでたかも知れねぇ....そんな事が一体何回、何十回あった？)
運も実力のうち。自分なら大丈夫。そんな根拠があるような無いような、自信に満ち溢れていた。
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