〜ある古城にて〜
虎目鷹の目、蛇の道は蛇
〔ご注意〕***30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい***
ゾロは地面に刀を突き刺したい気持ちを抑え、鞘に収めた。
「時が一番の薬だ。それまで、お前の今までの話を聞かせて貰おう。勿論俺の話も聞いて貰うが」
過去の話などしても何の足しにもならないが、修業が始められないのではどうしようもない。暇を持て余すと余計な体力を消耗し、回復を遅らせる事になるだろう。
「順番に話してたら、結構な時間になるぜ」
「構わん。毎晩、少しずつ分けて話せ」
「........毎晩？」
「ん？どうかしたか？」
「メシ食いながら、か？」
「それでも構わんが、そんな事をするとあのゴースト娘が機嫌を損ねるのではないか？」
「あ？あぁ.....アイツか」
「また、オカシな術を使われても面倒だ」
「......？」
ゾロにとって、できれば記憶から抹消したい体験だった。常に強気で怖いもの知らず。そんなゾロの存在そのものを、根本から覆すような、あの忌まわしい記憶。ここに飛ばされてきて、ペローナの姿を再び目にした時、その記憶が蘇ってきた。そして、その後も何度か.....。
「貴様も相当やられたのであろう」
「......いや、知らねぇ」
「そうか、思い出したくないか」
「......ちっ」
全て心の中を見透かされている。ゾロは自然とミホークの前では、正直にならなければという気持ちにさせられた。決して、そうなりたい訳ではなかったが。
「本当に分かりやすい男だ.....では、しばらくは寝る前の鍛錬はやめて、俺の処へ来い」
「.......分かった」
「ん？随分素直ではないか」
「.....年長者の言う事は聞くもんだって昔言われたのを、思い出したんでな」
夜になり、日課である鍛錬を始める様子のないゾロに、ペローナが不思議そうに訊ねる。
「今日は、やらねぇのか？」
「あぁ....暫くは」
「どうした？傷の具合、悪くなったのか？」
「いや、平気だ」
「まだじっとしてろって言っても、勝手に動いて包帯も外してしまうクセに、一体どうしたんだ？」
「......」
ペローナの質問攻めに、ゾロもさすがに面倒臭くなってきた。
「少しアイツと話をするだけだ」
「......あの男と....？」
「まぁ、色々と因縁があるからな.....以前に一度会ったきりだったから、この際色々訊きたい事とか.....」
「そうか」
「どうした？」
「いや。何でもない」
何を話すという訳でもなかったが、ペローナは、ゾロの毎夜の鍛錬の様子を眺めるのが好きだった。折角自分が丁寧に巻いてやった包帯を、"動きにくい"と言って外してしまうのには閉口したが、寝る前に巻き直してやる時は、意外にも大人しくしていた。最初はぶっきらぼうな感じだったゾロも、日を追うごとに穏やかな表情を見せるようになり、ペローナの献身的とも言える行為に対し、時には感謝の言葉を口にしたりもした。
今夜も、また同じ光景を目にできると信じて疑わなかった彼女は、自分が予想外に落胆している事に気付いた。
「入れ」
「......」
ミホークの部屋の前まで行くと、ゾロが立ち止まると同時に中から声が聞こえた。扉に鍵などは無く、そのまま押し開けて中へ入る。
窓からの月明かりと、ランタンからの揺れる灯が、部屋中に色んな方向へと影を作っている。
「そこに....座るといい」
ゾロは扉を閉めると、そのすぐ脇に3本の刀を立て掛けた。古ぼけた感じのソファがあったので、そこへ腰を下ろした。
「傷の具合はどうだ」
「......別に、とりたてて....」
「.....それまでにも随分無茶をしたのだろう」
「安全な道なんて、選んでねぇからな」
「..........」
「.......」
「ここに来たのは......偶然ではないぞ」
「.......！」
「お前も、薄々は感じていたのだろうが」
「.....何か、知ってるんなら.....話せよ」
「.....仮にも今はお前の師だ。口のきき方に気をつけろ」
「........鷹の目」
「ん？」
「じゃ、何と呼べばいい」
「それは貴様が決めろ。別に恭しくしろとは言わん」
「.....」
「言葉遣いも、今さら直らんだろう。心の問題だ」
「心....」
「俺もお前くらいの頃は、似たようなものだったからな」
ミホークの脳裏には、ローグタウンで目にした、あの出来事が鮮明に映し出されていた。一つの時代が終わった瞬間だった。が、しかし、それはすぐにかき消された。
「俺くらいの頃って.....」
「もう、随分昔の話だ」
ゾロがまだ、生まれる前の話。
「.....聞かせてくれねぇか？」
「いいだろう」
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