〜ある古城にて〜
虎目鷹の目、蛇の道は蛇
〔ご注意〕***30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい***
ゾロが生まれる前。そして生まれた頃。それから数年の、記憶の朧げな幼い頃。そんな時からミホークは.....。ゾロは改めて、簡単には追い付けないという思いで、目の前の男の横顔を見た。
自分が過ごした年月など、取るに足らぬものなのではないか。道場で毎日稽古を続け、方向も分からないのを自覚しないまま海へ出て、挙句に戻れなくなってしまった。しかしそれは、彼にとっては失敗でも何でも無く、簡単に戻れない事で自分を追い込み、新しい場所へと突き進む為には、かえって好都合だった。
戻れなくなっていると気付いた時には、もう遅かった。そしてそれを打開する術など勿論無かった。
それに比べ、今ミホークの口から語られている話は、ゾロの興味をそそり、さらにこの男への関心を強くした。誰ともつるまず、一匹狼でやってきたという事に改めて、尊敬の念すら覚えた。
ミホークに促され、ゾロもまた記憶を辿りつつ、幼い日の事を話し始めた。剣術を学び、稽古に明け暮れた日々。親友に何度も勝負を挑んだ。そして一度も勝てなかった事.....。少し言いよどみながら、あの"約束"の話にも触れた。その途端、色々な事がどっとゾロの頭の中に流れ込んできた。
(以前、この話をしたのはいつだったか......)
一味の中でも、全員が知っている訳ではない。それを今、ゾロは静かに語っている。
ミホークは、壁に立てかけてある、ゾロの3本の刀の方へ視線をやった。
「あの.....白いやつだな」
「.......」
「かなりのモノだとは思っていたが.....」
そしてゾロは海に出たところまで話し、中断した。
「俺の話なんて、大した事ねぇ。もう終わった」
「その後があるだろう」
「後は.....ひたすら賞金首狩りまくって、あちこち旅してた。それだけだ」
「随分と稼いだのだろうな」
「あぁ、多分な」
「どうせ全部飲んでしまったのだろう」
「.....よく.....分かるな」
フッ、と一瞬だが、ミホークは笑った。
「なかなか興味深い話を聞かせてもらった」
「そうか？俺のガキの頃の話なんて.....何の足しにも...」
「また、明日もここに来るがいい」
「もうネタ切れだぜ？俺の方は」
「海賊狩りが海賊に転身した、その辺が聞いてみたい」
「.......」
「俺の事も、斬る気でいたのか？」
「......あぁ、残念ながら、その時は....」
「ん？」
「"斬れる"気でいたからな....」
「その時から、思い上がっていたのか」
また、ミホークは笑った。
ゾロはミホークの部屋を後にした。また、明日も来いと言われた事が、少し不思議な気がした。
(なぜだろう？)
そこまで話すつもりが無かったのに、本当にどうでもいいような些細な事まで、詳しく話した。別に根掘り葉掘り訊かれたと言う訳でもない。最小限の相槌を入れながら、彼は静かにゾロの話を聞いていた。
ゆったりと、聞いてくれていた。
そして、続きをまた聞きたいと言う。
ゾロも、話したいという気持ちになっていった。
＊＊＊＊
「夕べは大分長い事、アイツの処に居たんだな」
大きな欠伸をしているゾロに、ペローナは開口一番に言う。
「俺の勝手だろ」
何でそんな事まで言われなきゃならないんだ？とゾロは面倒臭そうに答える。しかし視界の片隅に入ったペローナの表情は、どんどん曇ってきている。目元も少し赤い気がする。
「ん？寝不足か？」
「バカヤロー！ちょっと目にゴミが入っただけだっ！」
ペローナはさらに機嫌が悪くなり、膨れっ面で立ち去っていった。訳が分からずゾロは、首を傾げる。
「やっぱり....プリンセスとかいうのは、何を考えているのか、よく分からん」
それ以前に、女というものが分かっていない。
ゾロは、そういった事とはずっと無縁だったのだ。だから時には無神経だとかデリカシーが無いとか、不名誉なレッテルを貼られがちだった。ただ、当の本人は、別に不名誉だとは思っていなかった。
女嫌い、と言う訳でも無い。ただ、苦手だと思う相手がたまたま女だった。それに、何かと面倒臭い。矢継ぎ早に話しかけられるのも苦痛だ。
(後で少し遊んでやるか......)
＊＊＊＊
今日の修業もまた、ゾロの体が完全回復していない事が理由ではあるものの、ゾロにとっては不満の残るものだった。師匠は相変わらず、首から下げている小さな武器で、ゾロの攻撃を受け流している。もう、ゾロの自尊心というものは、何か別の物に姿を変えて、ゾロを支えているに過ぎなかった。
(何で、攻撃がちっとも当たらない？)
(心眼....)
(？)
ゾロの心中を全て掴んでいたミホーク。この状態のままでは、ゾロは攻撃を当てる事はできないだろう。
「心眼....？」
「そうだ」
「こころ、の...め....？」
「研ぎ澄ませろ。本来の貴様にはあった筈だ」
「......」
「腹を決めろ。まだ、どこかで焦っている。心ここにあらず、だ」
「いや、もうそれはない」
「俺を早く倒そうなどとは、この期に及んで....」
「いや、それも...ない」
「そうか？」
「倒しちまったら....修業できなくなる.....俺はもっと、まだまだ知りたい事が山ほどある」
「この俺の利用価値を量るとは.....思い上がりにも程があるというものだ」
ミホークは楽しそうに、その手にした刃物をキラリと光らせた。
今日もまた、あの巨大な十字架が抜かれる事は無かった。
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