〜小悪魔の館〜
オレンジの風に吹かれて
〔ご注意〕***30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい***
ゾロには到底分かるまいと高を括っていたのだった。サンジは意外そうにゾロの顔を見つめた。
「何だ？」
「い、いやぁ....悪かったよ」
「何が？」
「いや何でもねぇ」
もしかしたら、これまでも周囲が気付いてないと思っていた事にも、ゾロは気付いていたかも知れない。サンジは漠然とそんな気がした。具体的にどの事が、とは思い出せないが。
ゾロには全て見抜かれているような気がしてきた。
ただ、ゾロは何も言わないだけで。
「ところで、お前、寝なくていいのか？」
「あぁ...そうだな....でもじき朝だろ？今寝たら起きる自信ねぇよ」
「俺が起こそうか？」
「は？」
コイツは真面目に言ってるのか？サンジはじっとゾロの顔を見る。
「寝腐れ野郎が何言ってんの」
「だから起きたままでいりゃいいだろ」
「でも、もしてめェが寝ちまったら、誰が起こすんだ？」
「......」
自分が絶対寝ない自信があったのか、後の事を考えてなかったのか。全くコイツは、非常時の状況判断力は飛び抜けてるが、日常の事になると焦点がずれてるというか、ネジが抜けてるというか。
戦い以外には、まるで適性がない。一人で生きていくのは、さぞ大変だろう。いや、本人はそれほどには感じていないのかも知れないが。
(あれ？何で俺、こんなに心配してやってんだ？)
「あ、と、とにかく....俺は寝ない。一日くらい大丈夫だ」
「じゃ、昼寝しろ」
「昼寝？そんなのするか。次のメシの準備におやつに夕食の仕込み...俺は一日中忙しいんだよ！」
「....いつもご苦労だな」
ゾロはグラスを傾け、紅茶をぐいっと飲んだ。空いたグラスをサンジが下げた。
「ごっそさん」
「おぅ」
(あ？今....俺を労ってくれたのか？)
ゾロからそんな優しい言葉をかけられた事が今まであっただろうか。
空が薄っすらと白み始めた。空気がピンと張り詰めてくる。ゾロはベンチに腰掛けて目を閉じている。
「やっぱり寝てんじゃねぇか」
サンジは退屈している事もあり、舌打ちしながら小麦粉の入ったボウルを調理台に置いた。
キッチンタイマーを目覚まし代わりにセットし、少し仮眠を取ったものの、全然寝た気がしなかった。余計疲れたかも知れない。ゾロは部屋に戻らずにずっとキッチンに居た。"おめぇが寝過ごしたら俺が起こしてやる"と、自信たっぷりに言っていたのが可笑しかった。
パン生地ができると、こねてまたボウルに戻す。寝かせる間、少し休もうとベンチに近付いた。ゾロの座る場所から少し間を空けた位置に腰を下ろした。
「結局寝てねぇのか？」
「あ？起きてたのか」
「俺は熟睡しねぇタチなんだ」
「そんなんで疲れ取れるのか？」
「だから時間が許す限り、短い時間でも休んでいる」
「あんなにキツイ鍛錬して....」
「もう身体が慣れてるからな」
喧嘩腰にならず、こんなに穏やかに会話が進んでいる事が不思議だった。2人の間にあった何か薄くて硬い壁の様な物が、いつの間にか消えているようだ。しかし、その理由あるいは切欠と思われる事が何であるかを探るうち、必然的に昨晩の事に辿り着く。
互いの行為の意味は何だったのだろうか。どう理由付けすればいいのだろうか。
本当はもっと気まずくなるような事じゃないのだろうか。
なぜ、自分はこれほど穏やかな気分で居られて、目の前のゾロもこんな柔かい空気を発しているのか。
(あれは夢だったって言うのか？)
タイマーの音で我に返り、サンジはまたカウンターの中へ戻った。すっかり膨らんだ生地を台の上に置き、丁寧にガスを抜いていく。
(アレは...ただの抜き合いだったって事か？いや、それ以外何があるってんだ？)
また思考をトリップさせながら、それでも手は正確に生地をこね、ちぎり、丸めていく。ただし、傍にゾロが近付いてきたのには気付かなかった。
「また、背中がガラ空きだ」
「うわぁっ....驚かすなよ！」
「大丈夫だ、何もしねぇ」
「何かしやがったら....ソッコー蹴りだからな！」
「ふふっ」
妖しげな笑みを浮かべ、そこに立ったままサンジの仕事を見ている。何か手伝わせてやろうかとも思ったが、ゾロがまともにやってくれそうな仕事は無さそうだった。
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お互い落ちそうで落ちない.....
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