〜小悪魔の館〜
オレンジの風に吹かれて
〔ご注意〕***30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい***
オーブンの扉がバタンと閉まった。パンが焼きあがる迄の間は、昨晩仕込んでおいた物を最終チェック。スープの入った鍋を火にかけると、冷蔵庫からドレッシングの入ったボウルを出してきた。スプーンで少し掬い、指先に付けて取る。
「んぐっ」
「おっ....おめぇっ何っ....してんだよ」
「味見だろ」
「それは俺がするんだっ...」
ゾロはサンジの指の根元を摘み上げ、ドレッシングの付いた指先を自分の口に含んだ。ぺろりと舌先で舐めた後、ちゅっと吸い上げた。
「ん、なかなか旨ぇじゃねぇか。何も足さなくていいと思うが」
「マリモ....」
「ん？」
「いい加減離しやがれ....」
味見が終わっても、指を離さず再び口に含み、舐めては吸い上げる。サンジは身体の力が抜けそうになってくるのに気付き、激しく動揺した。
「意外とキレイなんだな....」
「へ？」
「おめぇの指....」
「なっ....てめェに誉められても嬉しくなんか....」
「そうか？ところでおめぇ....」
(何で、コイツ顔赤くしてんだ？)
サンジと居ると退屈しないという事に気付いたゾロ。彼は楽しげな表情でカウンターの外へ出た。と、同時に左側にある気配に気付く。そしてその方向にある保健室の扉が開いた。
「あら、ゾロ...随分早いのねぇ。自分で起きてきたの？」
「.....まぁな」
「ろくに眠れないくらい、気がかりな事でも？」
「別に」
特に返答を期待しない質問だったのか、彼女はゾロの手前まで歩いて立ち止まり、カウンターの中へと視線を移した。
「おはよう」
「おはよう、ナミさん」
「今日も元気そうね」
「ナミさんも」
目の下にクマができているサンジに対して、空々しい言葉を涼しい顔で言ってのける。ゾロは横目でそんなナミを苦々しい表情で見ている。
「まだ時間があるから、外に居るわ」
「後で呼びに行きますから」
「ありがとう」
ナミはにこやかにキッチンを出て行った。サンジがホッとしているのが、背中から読み取れた。
「コック」
「何だよ」
「....笑顔が引きつってたぞ」
「てめェに関係ねぇだろ」
「それがそうでもねぇ」
「......？」
「俺が落ち着かねぇ」
「.....何で？」
理由を訊きながら、サンジは答えを耳にするのが少し怖い気がした。怖い、と言う事は、理由が予想できるから.....なのだろうか。
「あ、いや...別に言わなくていい...あ、あのさ....」
「話があるんなら、こっち向いて言え」
「いや....俺は今こっち側に用があるから....」
「じゃ、俺がそっち行く」
ゾロが一旦出たカウンターの方へ再び向き直り、ずかずかとサンジの正面に歩いて行った。
「邪魔だ、そこどけよ」
「じゃ、ちゃんと俺の顔見ろ」
「何でイチイチそんな無愛想でむさ苦しい顔、見ねぇといけねぇんだ」
「....顔じゃなくても、いい。とにかくこっち向け」
「.......で？何？」
サンジが目をあまり合わそうとしないので、ゾロは深追いせずに話を続ける。少し咳払いして。
「.....辛い時は無理すんな」
「は？」
「俺と居て、少しは楽になれんなら、俺と居ろ」
「おめぇ、何言ってんの？」
「あの女がここに来てから、おめぇ顔色は悪いし表情は硬いし。俺と二人で居る時はそんなんじゃなかった」
「..........」
(ちぇっ....コイツやっぱり分かってたのか....)
確かに、ゾロと居る時は不思議と気持ちが落ち着いていた。力を抜いて自然体で居られた。そしてゾロもまた同じで。
「違ったか？俺の勘違いなら.....」
「マリモ」
「あァ？」
「お前さ、どこまで俺の事分かってんの？他にも色々気付いてる事ある？」
「他にも....って言われても、分かんねぇが」
「結構鋭いなぁって.....ちょっと感心してたんだ」
「毎日一緒に居りゃぁ、その程度は分かるもんだろうが」
「.......一緒にって.....」
確かに一味として、ほぼ毎日一緒には居た。でもそれは二人っきりでくっついて居た訳ではない。近くに居ても話す事なんて無かった。そしてゾロが積極的に話しかけてくるなんて一切無かったし、サンジもこの無愛想な男にわざわざ声を掛けるという事は、しなかった。
特に用事が無い限り。
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ゾロの天然さにサンジが翻弄される...というのを表現したかったのですが..うーん...
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