〜小悪魔の館〜

オレンジの風に吹かれて


　〔ご注意〕***30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい***




多分、さっき一旦立ち止まったのは、チョッパーの横を素通りせずに頭を撫でてやったりしたのだろう。それで気持ちが緩み、和んでいたのかも知れない。

(まさか俺を見て、あんな顔する訳ねぇか)

サンジはゾロの分の菓子とコーヒーの方へ視線をやった。

「早く食えよ...片付かねぇだろうが」

あぁ、何かもっと他に言い方は無ぇのか？サンジは自分の言葉に何となく気分が沈んだ。ゾロはそれには特に反論も返事もせず、おやつの載ったトレイを持って、サンジの居る方へと席を移動した。

「何だよ.....？」
「遠くだと話し辛ぇだろ」
「何を話す必要あんだよ」
「せめて一日に一度は、俺と居ろ....それがいいって分かってんだろ」
「何をてめェは.....自惚れんのも大概にしろよ！」
「自分では気付かねぇうちに無理してっからよ。俺が居れば多少は何とかなるだろうが」
「......そうかよ、じゃ勝手にしろよ」
「おぅ、勝手にする」
「ちっ....」

ゾロは納得した風に、コーヒーをすすった。"これ旨ぇな"と、普段は菓子類の味を誉めたりしないクセに、そう言いながら頬張っていた。

確かに、コイツと居ると落ち着く。

サンジは認めてはいたが、まだ口にはできなかった。その理由がはっきりするまでは、声に出して言いたくなかった。

「あ....」

ゾロはふと声を漏らした。目線はサンジの右手。甲には軽い打撲の跡のような痣に、もう治りかけの一筋の切り傷。サンジはさっとその手を隠す。

さっきまでのゾロの優しい眼差しが、鋭く変化した。と、同時に悲しそうな色を浮かべている。そしてコーヒーカップを置くと、サンジが隠している手を掴んだ。

「何、しやがるっ....」
「傷残すんじゃねぇぞ」
「関係ねぇだろっ」
「俺だけで充分だ....」

掴んだ手をゾロは自分の口元へと導く。その指先が触れた先は、僅かに腫れて血の乾いた跡があった。

「何だよ、ワビでも入れろって事か？」
「ふん、違ぇよ....むしろあんな隠し玉が見れたのは俺だけだろ....でも、もう拳は使うな。その手は旨いメシの為だけにしとけ」
「おめぇに言われなくても分かってる！」
「それと.......」
「.......」
「.......いや、それだけだ」
「.......？」

明らかに何かを言おうとしていたゾロ。しかしそれがゾロの口から出る事はなかった。口をつぐみ、急に黙り込んだかと思うと、サンジから視線を外し再びコーヒーカップを手に取り、一気に飲み干した。そして少し残った菓子も一口で食べた。


サンジは自分の手を見た。この手が何だって言うのだろうか、と。まじまじと見ていると、ガチャンという音がして、椅子から立ち上がったゾロがトレイを持ってカウンターへ運んだ。

「そこ、置いといてくれ」
「俺が洗っとく」
「え？いいって...俺がするから」
「早く手ぇ治せ」
「マリモ.....」

こんな傷、何だと言うのだろう？今まで戦いの中では比べ物にならない位の傷を負ってきた。攻撃は足でしかやらないとしても、身体を支えてるのは手だ。無傷でいられた例なんて無い。

そんな事をぼんやりと考えている間に、ゾロは自分の使った分もシンクに置いてあった食器類と一緒に洗い終えた。そして静かにキッチンを出て行こうとした。

「マリモ」
「......」
「サンキュ」
「.....」

サンジの予想通り、ゾロは振り返らずに扉の方へと歩いていった。そしてそのままダイニングルームから出て行った。扉の向こう側で重い靴音が遠ざかっていく。

その音が殆ど聞こえなくなった時。サンジには一瞬見えた。

「何...だよ」

さっきまでのゾロの後姿の残像が浮かんできた。テーブルの方へ視線を戻すと、今度は椅子に座ってコーヒーをすする姿が浮かんできた。サンジはぶんぶんと頭を振り、その幻を追い払った。



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ゾロが少し間口を広げてきました。でもサンジはまだ....。気にはなるんでしょうけど。





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