〜小悪魔の館〜

オレンジの風に吹かれて


　〔ご注意〕***30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい***




まだ少し残った菓子とコーヒーを喉に流し込んだ。何だか味がしなかった。食器を洗おうと、シンクの方へ歩いていくと、さらにそこで洗い物をしていたゾロの姿がぼんやりと見えた。

「やめろ.....」

雑念を追い出すように、水を流す。

『早く手ぇ治せ』

ゾロの低く柔かい響きの声が耳に蘇る。

「クソ....お節介な野郎だぜ」

サンジは毒づきながら、洗い籠に皿とカップを置いた。と、その時扉が開いた。

「サンジ...」

見るとチョッパーが顔を覗かせている。

「どした？チョッパー」
「さっきのケーキ、美味しかったぞ！」
「そっか？良かった。ありがとな」
「うん、また作ってくれな！」

そう言うと扉を閉めた。わざわざ作業の手を止めて、それだけを言いに来てくれた。

(あれ？俺もしかして.....チョッパーにも気を遣わせちまったのか？)




また夜が訪れた。変わりなくいつものように騒がしい夕食が済むと、やりかけの仕事に戻る者、ラウンジで寛ぐ者....。これもいつもと変わりない。サンジはシンクで洗い物を始めようとしていた。

「サンジ、いいから座ってろよ」

そこには人型になったチョッパーが、食器を運んできている。

「ん？今日の当番は....」

背後にはいつの間にかゾロが立っていた。

「医者の言う事は聞くもんだぜ」
「そうそう！サンジ、手にケガしてるんなら何で俺に言わねぇんだ？傷が早く治る薬あるのに！」
「....あ、いやこれくれぇ別に....」
「ほら、つべこべ言わずに座ってろって」

「あらぁ、随分モテモテね、サンジくん」
「ナミさん！」

測量室へ向かったと思っていたナミも居た。

「私も手伝うわ」
「大丈夫だって....大袈裟だなぁ、皆」

いいからいいから、とナミはサンジの手を取り、テーブルへと導いた。

「私が洗うから、ゾロがすすいで、チョッパーが拭いてね」
「おー！俺、最後の仕上げ係りな！」
「.....また勝手に仕切りやがって」
「ん？何か言った？ゾロ？」
「いいや」
「サンジくん、手が治ったら....またお願いね？」
「....え？」
「夕べ約束したでしょ？"また明日してあげる"って」
「......」
「忘れたの？」

ナミは自分の首の後ろを指差しながら、サンジの顔を見た。

「あ、あぁ....勿論....じゃ、一日延期で、明日にでも」
「楽しみにしてるわ」
「何だ？何の約束だ？」
「サンジくんね、マッサージ上手なのよ」
「マッサージ？」
「肩とか背中とか....解すのよ」
「俺知ってるぞ！肩をこうして叩いたり押したり....」
「........」

ゾロは話には一切加わらず、黙々と食器についた泡を流している。それを受け取るチョッパーが、チラリとゾロの方を見た。

「ゾロ、何か顔が怖いぞ」
「やだ、チョッパー。そんなのいつもの事じゃない」
「いや、そうじゃない。何か、ゾロ、イライラしてる。どうした？心の病気か？後で診てやろうか？」
「....問題ねぇ」
「本当か？」
「あぁ....おめぇはよく気が付く、いい医者だな」
「そ、そんなの.....えへへっ」

最後の一つをゾロに手渡すと、ナミは手を拭きカウンターの外のサンジに近付いた。

「その手、見せて」
「あ、いや....これは」
「.......刃物で切った傷じゃないわね」
「.....ちょっとぶつけちまってね」
「随分硬い物で、それもかなりの速さで当たらないと、こんな風にはならないわ.....」
「いやぁ、俺、時々ぼんやりして、そのへんにぶつけたりするからさ...」
「サンジくんが、手をこんな風に使っちゃ駄目。もし、使うんだったらお料理か.....」

ナミはサンジにさらに近付いて言った。

「....私の為にして」
「.......ナミ....さん」
「なーんて」

笑いながらナミはダイニングルームを出ていった。



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思惑は色々あれど....何だかんだ言ってもサンジ、愛されてます。





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