〜小悪魔の館〜

オレンジの風に吹かれて


　〔ご注意〕***30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい***




「じゃーな、サンジ。俺も行くな」
「あぁ、ありがとうな、チョッパー先生」
「せ、先生だなんて言われても....」

ナミのすぐ後、チョッパーは身体をくねらせながら、照れた様子で扉をくぐった。閉める直前、振り返って扉の隙間から愛らしい目を覗かせた。

「ゾロ、サンジが手を使わないでいいように見ててやってくれよ」
「あぁ」
「....サンジ、あのな」
「何だ？チョッパー先生」
「....えと、ゾロが....心の中に」
「チョッパー....俺は大丈夫だって言っただろ」
「でも、ゾロ、何だか傷ついてる....俺、心配なんだ」
「分かったよ、チョッパー先生。心配要らねぇ、俺はしばらくココに居るから....」
「チョッパー、しっかり診ろ。俺の傷よりソイツの...」
「マリモ？」
「ちゃんと診てるぞ、ゾロ」
「ん？」
「サンジも心にいっぱいケガしてたみてぇだったけど....おやつの時間には、かなり回復してた。もう大丈夫だと思う」
「......すげぇな、何もかもお見通しって事かよ....さすがだな、チョッパーは"名医"だ」
「めっ、名医〜〜っっ！！」

名医の的確な見立てに、サンジは堪らず話を逸らした。

(俺、シッカリしねぇと....)

「ありがとな先生」
「お、おう！ちゃんと寝るんだぞ、サンジ」
「あぁ、おやすみ」




扉の方を見たまま動かないゾロに、サンジが話しかけた。

「名医の前では誤魔化せねぇな」
「.....別に。俺はどこも悪くねぇ」
「俺が言うのも何だが......マリモ、てめェが一番堪えてんじゃねぇの」
「そんな事....」
「俺に同情してんのかとも思ったが、そういうのとは違うみてぇだし」
「.....」
「あー、とにかくさ。俺はこう見えて意外とシブトイからさ...いや繊細に見えるかも知れねぇけど...もう平気だから。無理もしてねぇ。ま、前みてぇに笑えっつっても...昨日の今日で、アレだけど」

サンジはあえて淡々と話した。作り笑いをしてもゾロにまた指摘されるだけだ。

「俺の事......気にかけて....いや、自分が傷つくくれぇ親身になってくれて...」
「おい...俺は」
「今さら、知らねぇとか言うなよな？」
「.....」
「何度も....不思議なくれぇ絶妙なタイミングで...」
「....」
「俺を救ってくれただろ」

サンジはゾロの背中から視線を落とし、足元を見た。ゾロの足は微動だにしない。

「....俺の傷全部、背負い込みやがってよ」
「っ.....」
「後で文句言われんのもケッタクソ悪ぃから....」
「....救ったつもりはねぇ」
「ん？」
「....俺が.....」
「........」
「ただ、そうしたかっただけだ」
「.....」
「てめェがいつまでもあんな風だと、他のヤツらも心配するだろ。メシの出来にも影響しねぇとも限らねぇしな」
「.......素直じゃねぇな」
「あ？」
「一番気にかけてくれたのは....マリモ、おめぇだろ」
「誰がっ....」
「チョッパーにも、あぁ言われて....まだ分かんねぇのか！」
「.....」
「いい加減、言えよ！」
「....何を」

そこまで言って、サンジはハッと言葉を呑み込んだ。


いい加減、言ったらどうなんだ。
この俺が心配で堪らない.....って。


(そしたら俺も、気持ちだけは有り難く受け取ってやるのによ....)


いや、そうだろうか....。


サンジは頭の隅で、微かな違和感を覚えた。
しかし、それが何なのかが分からない。


「コック」
「ん？」
「何、百面相してんだ」
「っ、あっ...なっ....何でもねぇよ...人の顔ジロジロ見んじゃねぇっ」
「....俺は、何を言やぁいいんだ？」
「へっ？」
「さっき、『いい加減言え』って言ってただろ？」
「.....それは.....」

最初に頭に浮かんだ言葉は、どうもしっくりこない。サンジは返事に困った。一体どんな言葉をゾロに言わせたかったのだろうか。

「......」
「コック？」
「....もう、忘れた」
「気になる事、あんだろ」
「ねぇよ」
「じゃ、何でそんなにスッキリしねぇ顔なんだ」
「いつもこんな顔だろ」
「いや、いつもは.....」
「？」

迷いの無い、前だけを見ている。そんなサンジを見てきた。しかし目の前に居るこの男は、何かをやろうとして踏みとどまっているように見える。



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まだ気付けないのか、踏み出せないのか....





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