〜小悪魔の館〜

オレンジの風に吹かれて


　〔ご注意〕***30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい***




「っ！」
「どうした？」
「なっ何でもねぇ....あ、おめぇのも流してやる」
「おぅ、そうか？」

ゾロはサンジにタオルを渡し、背を向けた。サンジはそのゾロの背中をまじまじと見る。

広い。

綺麗だ。

(........)

「っ！」
「ん？どうしたコック」
「い、いや.....」

サンジは止まっていた手を動かし始めた。

「何か....変な感じだな」

沈黙に耐え切れず、サンジが話し出す。

「何で...こんなに落ち着いてんだろ」
「.....風呂に入ってるからだろ」
「ははっ...違いねぇ」
「それと....俺と居るからだろ」
「.....またそれかよ」
「でも、事実だろうが」
「.....まぁ、そう言う事にしといてやるよ」

穏やかに会話が進んでいく。いつもこんな感じで話をしていれば、喧嘩など起こる筈もなかった。そしてこんな、ゆったりとした時の流れが、実は心地よかった事にサンジは気付く。



ゾロが何をしてくると言う訳でもなかったのに。

多分、ふっかけていたのはサンジだった。安い挑発に乗るのも、やはりサンジだった。ゾロの反応が薄い時はつまらなかったし、真正面からかかってきた時は嬉しかった。

同年代の男と、こんなに関わる事など、無かったから。

だから、その分、過剰な動きをしてしまったのかも知れない。


「おわっ」

サンジは我に返った。ゾロがシャワーの湯をかけてきたのだ。

「おい、もう終わり。湯、浸かろうぜ」
「....お、おぅ」

ゆっくりと身体を沈めると、気持ちまで軽くなってくる。二人同時に浴槽に入ったので、水位がかなり上がっている。

(あ....いい湯加減だ....)

湯を掬い上げる音、指の隙間から湯の零れる音だけが響く。




サンジはゾロの顔をそっと見た。ゾロは目を閉じていた。

優しく、穏やかな、

その顔に.....

思わず、手を伸ばす。



サンジの指先がゾロの顎の辺りに触れた瞬間、ゾロに手首を掴まれた。サンジの動きが固まる。ゾロは視線だけを寄越した。

「どうした？」
「.....あ、いや別に」
「別に？」

サンジの手は軽く掴まれているようにも見えるが、サンジが逃れようとしても、びくともしなかった。サンジの指先は、ゾロの唇のすぐ傍にあり、時々彼の吐息がかかった。

(前にもこんな事が)

ドレッシングの味見をしようとしている時、指を舐められてしまった事。サンジはその時のゾロの舌の感触を突然思い出した。熱くて柔かい、指全体を包み込むような感触。

「......何、考えてやがる？」
「....」
「こうして欲しかったのか？」

サンジの目の前で、その指は少しずつゾロの唇へと近付き、そして唇が少し開いたかと思うと、指を第一関節まで取り込まれた。身動きできないでいるサンジをちらりと見たゾロは、指を咥えたまま表情も変えない。

体温を直に感じさせる舌が、指先の上下左右を蠢くと、サンジは背中に何かが下りてくるような感じがした。

ぼおっとしていると、いつの間にか指はゾロの口から離れていた。

「何て顔してんだ.....」

ゾロの少し掠れた声。その声に我に返ったサンジは慌てて自分の指を引っ込めた。妙にドキドキしてしまい、サンジは文句を言う事すら忘れていた。

何も言ってこないサンジに、ゾロも何も言わない。




そう、ゾロは昨日から、ずっとサンジを見てきた。

驚き、戸惑い、落胆し、絶望し、落ち込んだり開き直ったり。そんな時でさえ、自分を保っていられるサンジの芯の強さ、そしてあの後もなお、ナミを庇い思いやる優しさは変わらなかった。

でも、どこかできっと負のエネルギーが燻っているに違いない。そうでなければ、一体どこでバランスを取っているというのか。今、紙一重の危うい所で辛うじて歩いているのではないか。


倒れそうなら、必死で歩こうとするな。

俺が受け止めてやる。



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お話、進みません....





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