〜小悪魔の館〜

オレンジの風に吹かれて


　〔ご注意〕***30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい***




部屋に戻るとドアノブにカードがかかっていた。レストランの朝食の案内だった。今だとまだ何とか間に合いそうな時間だ。サンジはカードを外してゾロに見せた。

「メシ行く？」
「おぅ」

サンジはゾロの腕を取り、二人で鏡の前に立った。部屋の外へ出るのだから、とサンジはゾロの服装やら髪やらをチェックする。内心面倒臭いと思いながら、ゾロは大人しくサンジがしてくれるのを見ている。

「これでよし...と」

サンジは満足げにゾロの方を見る。ゾロはサンジの方を見ようとはしなかった。でも正面を見ていても、鏡に全て映っている。自分の方を見つめるサンジと、見られている自分。どこへ視線を向ければいいかと困っている自分がそこに居る。

「マリモ....？」
「.....な、なんだ」
「メシ、行くんだろ？」
「あ....あぁ」

ちらとサンジの方を見た途端、ゾロの目の前にサンジの顔が近付いてきた。唇が合わさるのと、サンジの両腕がゾロの腰に回されるのが、ほぼ同時だった。

ゾロの手は、どこか迷いながらサンジの背中に触れていた。

(何を今さら...。俺にしがみついてくりゃいいのに)
(クソコック....俺は早くメシが食いてぇんだよ)

イライラしてきたゾロは、サンジの首の後ろに腕を回した。サンジはまだキスを止めない。

(これでも食らいやがれ！)

ゾロは両腕に思い切り力を込めた。途端サンジは目を見開き、ゾロの身体を引き剥がそうとする。数秒後、ゾロは力を緩めた。

「グハッ...何しやがるんだっ」
「メシ」

一言だけ言うと、ゾロは部屋を出て行った。

「.....いい加減慣れろよ、バカが」
「.......」

見当違いの方向へ行きかけたゾロを追い、こっちだぞとサンジが案内した。


＊＊＊＊＊＊＊＊


「あー、旨かったぁ」
「ごっそさん」

朝食とは言え、色々メニューに工夫があり、サンジは参考にと何かをメモしている。仕事熱心だな、とゾロは感心してその様子を見ていた。

「今日は細かい物を色々買いに行くぞ」

サンジが事前に作ったリストと、昨日のメモを見ながら無駄なく店を順に廻っていく。一度見ただけでよく覚えてるもんだと、またしてもゾロは感心しきり。
どちらかと言えば物事をざっくりと考えてるゾロ。どう真似しようにも、サンジのやっている事はできそうにない。何でもよく気がつく。気がつく故に、色々と目に付いてしまうという事もまた、避けられないのだった。

ゾロが自分では大して気にならない事も、煩く言ってくる時があるのは、そうしたサンジの性格に関係しているのかも知れない。日常の小さな喧嘩を避けるには、そのへんを考えればいい筈だ。

(と言ってもなぁ....)

その喧嘩も慣れれば特にどうという事もない。それにこれからは、喧嘩も減るのではないか、と何となく思う。

「マリモ....何考えてんだぁ？」

まるでゾロの心を見透かすかのような表情で、サンジが話しかける。

「何でもねぇよ」
「嘘つけ....ちゃんと顔に書いてあるぞ」
「ええっ？」
「.....慌てるとこ見ると...」
「何でもねぇって」
「はいはい....まぁいいや」

それ以上は追究せず、サンジは次にやる事に頭を切り替えた。さっさと用事を済ませて、部屋でゆっくりしたい、それだけだった。


＊＊＊＊＊＊＊＊


「んん.....」
「んっ....ぁ」

部屋に戻って間もなく、二人は唇を求め合っていた。

買い物の最中も、荷物を持って歩いている時も、宿に到着した時も、そんな事は微塵も頭をよぎらなかったというのに。

この部屋の中には、たった一晩で、濃密な二人の時間が詰まってしまったのだろうか。ドアを開け、荷物を置いた直後から、二人の気持ちが昂っていった。

自分でもどうしたらいいか分からず、サンジは一瞬躊躇った。後から部屋に入ってきたゾロの方へ振り向くのが怖くて、見ないようにしていた。

背後で荷物を置く音がして、そのまま近付いてきた。そして背中から抱き締められた。

「マリモ....？」
「....コック」

サンジが振り返り、ゾロの首に手を回した。少し不安げな顔のゾロを見た途端、自分と同じ気持ちだったのだと分かった。ほぼ同時に二人は顔を近づけ、唇が重なった。



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また始まるのでしょうか。





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