青い薔薇 前編
*****30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい*****
また1週間が始まり、サンジは忙しく働いていた。ゾロがホストとして店に出て2週目。ゾロを指名する客が微妙に増えてるようだ。もうキャッチに出る暇もなくなるだろう。
仕事中、話す機会はほとんどないが、それでも話そうと思えば何とかできる。でもあえてそれをしなかったらどんどん会話する時間が減ってくる。
そして金曜日は、当然話す時間もないほど忙しかった。サンジは、とにかくゾロと何か話す時間を作ろうと必死になってしまった。何でここまで焦ってるのか自分でもわからなかった。
土曜日。ナミが、キッチンへやって来ている。サンジは上の空で溜息を一つついた。
「...くん」
「......」
「...サンジ君ってば！」
「え？」
「サンジ君ったら、どうしたの？ぼんやりして」
「あ、いやいやごめんごめん、何でもないよ」
「...何か心配事？...まさか....好きな人できた？」
「ぐぉっ..こほん」
「ええ〜..冗談で言ったのに。本当にそうなの？」
「い、いや、好きな人はキミだけだよ」
「うふふ、前にそう言ってくれた時は嬉しかったけど」
「今は？」
「そうね、微妙だわ。嘘だってはっきりしてるから」
気がつけば彼女はつまらなさそうに去っていった。
(あ〜あ、俺って....)
サンジはまた溜息をついた。
あ....、と思わず声に出して言ってしまった。明日の約束をしていない。だいたい、ゾロの連絡先も知らないのだ。ラストの仕事が明けて、ゾロを捕まえ損なったら、休日中は会えないのだ。何とかしなければ、と思っても次々とオーダーが入って、サンジは身動きが取れなかった。頭がよく働かない。
やっと仕事が落ち着いてきて余裕が戻ってきたサンジは、手を拭きながらふと人影を感じて目線を移した。
「腹減ったな」
ゾロが、その言葉がまるで決まり文句か挨拶でもあるかのように、口にしながら近づいてきた。
「まぁ、簡単なものでよかったら、後で俺んち来いよ」
サンジも当たり前のような顔で答えた。
「今週は特に疲れた。ツボ頼む」
ツボ...？一瞬サンジは何のことかと思ったが、すぐに理解した。先週泊まりに来た時、疲れが取れる頭のツボがあるから、と押してやったのだった。ツボのことなど詳しくないし押し方も適当だったが、ゾロには効いたらしい。それをまたしてくれと言ってきているのだ。サンジは、指先に仕事中に作った傷があったことも忘れて、快く引き受けた。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
サンジの部屋のシャワールーム。サンジはシャンプーのついたゾロの頭のあちこちを押していた。ツボ押しに集中していないと、動揺がゾロに伝わってしまいそうだった。初めてゾロの背中を思い浮かべた時の気持ちが蘇ってくる。胸の辺りが痛いような苦しいような、そんな感覚だ。
「痛...」
ふと、サンジは指先に痛みを感じて声をもらした。
「ん？どうかしたか？」
ゾロが訊く。その視線だけで、サンジは本当のことを言わないといけないような気がしてきた。ただ、あまり自慢できる話ではないから、できればしたくなかったが。
「あぁ...大したことじゃない。こないだ仕事中にちょっとナイフで切ってしまってな。いや浅い傷だから大丈夫さ」
「浅くても、そんなことしてたら治らないだろ」
「まぁ...そうだけど」
「もうこれくらいでいい。しばらく指先使うな。ちょっと待ってろ」
ゾロは自分の頭にシャワーで湯をかけて手早くすすぐと、そのまま続けてサンジの頭に湯を浴びせた。何をするのかと思っているとゾロの手がサンジの頭上にやってきた。
「洗ってやる」
本当にゾロはいい男だ。素直で心優しい。
サンジは邪念を払うように目をつぶり、ゾロに背中を預け意識を頭に集中していった。
(...手先は不器用だが、頭を洗うのは上手いんだな)
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
「悪いなゾロ、今日は手の込んだ物作れなくて」
「これだけあれば上等だ。休みに無理することないだろ」
「何だか色々手伝わせちまったなぁ」
「大したことしてない」
サンジの指を気遣ってか、ゾロは傷に障るような作業は全て引き受けてくれた。だからサンジもできるだけ手間のかからない料理を選んだのだが、それでも普段料理なんかしないゾロにとっては、大変だっただろう。もっとも、そういうことを顔に出す男ではなかったけれど。
テーブルにはビールとなぜかシャンパン。実はこのシャンパンは仕事明けに店から出るとき、シャンクスが「まぁ頑張れよ」と言って渡してくれた物だった。店で出す物と違ってかなり辛口のタイプだ。サンジは深く考えずに礼を言って、有難く受け取ったのだった。
あっという間に料理も酒も消えていく...。
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