青い薔薇　前編

*****30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい*****



日付が変わり日曜になった。あと少しすれば店内も混んでくるだろう。今のうちに、と皆が数人ずつ交代で休憩を取る。時間を見計らってサンジは休憩室へ向かった。

何て勘が冴えてるんだろう、すでにそこでゾロが、何か飲みながら座っていた。サンジが話しかける。

「今日とうとう、あいつに捕まったんだな。どうだった？」
「いや...どうということもない」
「べらべら喋ってうるさくなかったか？」
「そんなことはなかったが...」
「へぇ、意外だな....」
「.....お前の事、話してたぞ」
「俺のこと?...何て？」
「何でホスト辞めたんだろう、勿体ないね...だと」
「そうか」
「一緒に居て楽しくて、つい時間を忘れるような人だとさ」
「そりゃどうも」
「だからサンジから極意を教えてもらえって」
「それは余計なことだな」

サンジはもう、その話題を続ける気がしなかった。

「そうだゾロ、俺ラストまでいないから...多分俺の方が早いだろうから先に帰ってるな」

ゾロとは、まだ何も約束はしていなかったが、サンジは当たり前のような顔をして言ってみた。言いながら、ポケットに手を入れ何かを掴んだ。

(もし...普通に相槌を打ってくれたらこれを渡そう)

ゾロは特に表情も変えずに返した。

「おぉ。終わったら電話する。その時足りない物があったら言ってくれ。買っていくから」

（やった！あぁ...どうしよう無茶苦茶嬉しい...）

サンジは込み上げる笑いをかみ殺して、さっきから手の中に握っていた物をゾロに手渡した。ちょっと汗ばんでるのを、こっそりズボンで拭きながら。

「これ...お前も持っておいてくれ」
「.....」
「無くすなよ」
「わかってる」

いつ渡そうかとずっとポケットに入れておいた、サンジの部屋の合鍵だった。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

片づけを終え、遅番のスタッフに挨拶してサンジは店を出た。今まではゾロの様子を気にしていた自分だったが、もうその心配もなくなった。

本当に、ここ最近ゾロはホストらしくなった。まだまだ気が利かないところもあるし表情も柔らかいとは言えないが、個性的という点では誰にも負けていない。優男系が多い中で、あの険しい目元が魅力的だという客の声もちらほら聞こえてきているのは事実だ。
売上にはなかなかつながらないが、それはゾロがあんまり欲がないからで、本気になればベスト5くらい余裕でいくのではないだろうか。ここの店はそれほど大きくないから上位へ行くのもさほど難しくないはずだ。

サンジは持てるだけ食材を買い込み部屋へ戻った。酒は昨日までに配達してもらってたから大丈夫だろう。

(他に足りない物は...フルーツぐらいか)

いそいそと仕込みをしていると電話が鳴った。ゾロからだ。すぐにわかるように着信音と点滅光の色を設定してある。

「あぁゾロ？」
「おぉ。もう店出たけど...何か買っていくものは？」
「とりあえず...好きなフルーツ。起きたては甘い物がいいからな。それから牛乳にチーズに...」
「あまり色々言われても覚えられないぞ」
「いいよ。食べたいもの買ってきてくれ。..できたら食パンあれば頼む。サンドイッチ用のな」
「わかった。じゃ」

サンジはゾロが悩みながら買い物をする様を想像しておかしくなった。さしずめ家事に慣れない新妻といったところか。

(えっ...？新妻....だと？)

思考がおかしな方向へいきそうになり、サンジはぶんぶんと頭を振った。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

無事に買い物を済ませたゾロが部屋にやってきたのは、それから小一時間も経った頃だった。意外と早かったのは、あまり買い物に迷わないタチなのだろう。こういう時はその方がいい。少しでも早く来てもらいたい時は。

もうすっかり食べる物も飲む物も準備が整っていた。サンジはゾロのジャケットをハンガーにかけてやると、給湯器の電源をオンにした。

「シャワー浴びようぜ」

思い切って誘ってみた。今までは「先に使えよ」と言ってきたのだが...もう一歩前進ということで。今回は特に「理由」がないが、もうどうでもよかった。

「あぁ？」
「だから、シャワー。疲れた時はまずこれだろ」
「あぁ.......」

半分理解できてないような表情でゾロは返事をし、バスルームへ向かった。当然サンジも一緒に歩く。そこでようやくゾロも今の状況を察したらしい。

「一緒に...ってことか」
「そうそう」
「そうそう...ってお前..」
「うん」
「まぁ....いいけど」

拒否されることも想定していたところを意外とあっさり受け入れられたので拍子抜けしてしまった。もうこれで後戻りできない。サンジは躊躇する気持ちと逸る気持ちが入り混じった頭で「落ち着け！」と言葉を発して全身へ命令した。

二人でバスルームへ入ったものの、どうしていいかわからない。とりあえず交代でそれぞれ体を流した。そして特に言葉も交わすことなく、ボディシャンプーで体を洗う。

「一緒に入れば時間の節約になるな」

サンジはそんな訳のわからない、どうでもいいことを言うのが精一杯だった。髪を洗う時にはさすがに黙っているのも辛くなり、サンジは言葉をかけた。

「ゾロ、またこないだみたいに洗ってやる」
「お、おぉ....」

サンジの"適当ツボマッサージ"は意外と好評だったのだ。


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