青い薔薇　前編

*****30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい*****



「う...」

また聞き取れないほどの小さな声が、サンジの耳をかすめた。そっとゾロの表情を窺うと、眉間に皺を寄せ、手はサンジの肩にかかっていた。その手は安定させることができず、まるでゾロの戸惑いや困惑を表しているようだった。

「ゾロ....」

さっきとは逆に、サンジはゾロの胸板から鎖骨、首筋へ向けて肌の上に唇を滑らせていった。その途中々々に温かい息がかかる度に、サンジの肩に置かれたゾロの手が微かに動く。
サンジはその手を自分の手と絡め、ゾロの耳朶を軽く噛んだ。今度は、ゾロの口から漏れた吐息交じりの小さな声も、しっかりと聞き取ることができた。サンジはその声を遮るように唇を塞ぐ。

サンジの舌がゾロの唇を割り、中へそろそろと侵入した。一瞬抵抗があったものの、それは間もなく解けた。もう何の躊躇いもなくなったサンジの気持ちとシンクロして、舌はゾロの口内を不規則に動き回る。そしてゾロの舌を捕らえると、その表と裏を交互に攻め立てた。

サンジの手と絡んだままになっている、ゾロの手に力が入っていく。サンジの舌の動きが激しくなると、ゾロは少し苦しそうな表情になりながらも自分の舌で応戦した。それを受けて、サンジはゾロの舌をしっかり捕まえて強く吸った。

「ふ....ん」

ゾロの鼻にかかった甘い声が漏れた。それが新たな起爆剤となったことなど気づきもせず、ゾロは無意識にサンジの手をまさぐっていた。さきほどから少しずつ体をよじらせているのか、ゾロはソファから落ちそうになっている。

「その体勢だと辛いだろ。あっちに...」

サンジは寝室へ視線をやりながら、体を起こした。サンジも肘や膝が不安定で辛くなってきていた。

ゾロは少しぼんやりとしつつも、またいつもの面倒臭そうな様子で、どうしようかという顔をした。まさか、もうこれでやめるなんて言わないよな？と一瞬サンジは心配になった。

「あっちへ行って....どうするんだ？」

予想外な質問をゾロは投げかけた。ふざけているのではないことは、ゾロの顔を見ればわかるが、何と答えればいいのかサンジは困ってしまった。

（お前を.....いや...お前と......何て言えばわかってもらえるんだろう？）

相手が女性なら、黙って抱き上げて連れていけばいい。でもまさかゾロをお姫様抱っこするわけにもいかない。多分無理だ。サンジは少し考えたが、気の利いた言葉は浮かんでこなかった。
だから、思ったままの言葉をぶつけた。

「まだまだ足りない。だからこっちへ来い」

サンジはゾロの体を引き上げると、そのまま寝室へ引きずるように移動した。ゾロは体勢を立て直すこともままならず、でもそのままついていった。

「おい、わかったから...。普通に歩かせろ。危ないだろ」

あぁ、と体を離したサンジはゾロの手だけはしっかり握ったまま、ドアを閉めた。その中は綺麗に片付いていて、余計な装飾もなくさっぱりした雰囲気だ。サンジはゾロをベッドの端に座らせて、自分もその隣に座った。淡いスタンドの光に照らされた、ゾロの横顔を堪能する。

「続き」

それだけ短く言うと、サンジはゾロの頬に軽く口付けて、すぐに唇を重ねて舌を使い始めた。油断していたゾロはあっと言う間に口内を蹂躙されていく。

サンジがゾロの背中に手を回したかと思うと、ゆっくりとベッドに倒れこんだ。さらに激しくゾロの口内をサンジの舌が動き回る。そしてゾロの息が再び乱れてきたのに合わせ、サンジはその唇を解放してやった。唇と唇の間を透明の糸がつながっていた。

ゾロの視線が危うくなってきていた。眉間の力も抜けているようだ。こんな表情もするのかと思うくらい、普段見ることのないその様子に、サンジは新たな感動を覚える。

(やっぱりお前は綺麗だな...)

しっかりとゾロの肩を抱え込んで、サンジはその存在を確かめた。
どんなに力を込めても決して壊れることのなさそうな、その肩から腕に、ほどよくついた筋肉。服の上からは目立たないから余計に目を引く。滑らかなその肌に手を這わせながら、サンジはつぶやいた。

「ずっと鍛えてたんだろ」
「.....?」
「ジム、もう行ってないって言ってたな?」
「あぁ」
「筋肉、ちょっと落ちてきたよな」
「わかるのか?」
「...初めてうちに来た時は、もっと『こんな感じの』腕だったろ?」

サンジは自分の腕に手を当てて、筋肉の盛り上がる様子を表現した。あの時は本当に『ガテン系』だったのだ。

「でもあんまり筋骨隆々なのは暑苦しいから、今くらいが丁度いいよ。それに...」
「...それに?」
「...こうやって抱き締めやすい」
「なっ.....」

サンジは再び腕に力を込め、ぎゅっとその腕の中の男を抱き寄せて、真面目な顔つきで言った。何か文句を言いかけたゾロの、その目をじっと見つめた。そして一呼吸おいて、何かを耳元で囁く。ほんのりとサンジの耳たぶが赤らんだ。

「..................」

ゾロは何も言わず、サンジを柔らかい視線で見つめ返した。


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