青い薔薇　後編

*****30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい*****



穏やかに目覚めたサンジは、体はだるかったが頭はスッキリしていた。天井を眺めてぼんやりとしていた。
ベッドが少し揺れて、横にもう一人眠っている存在に気づく。あぁ、そうだったな。サンジは、寝返りを打つ愛しい男を見やった。確かにここにいる。自分の横に。

「んん...」

ゾロがまた寝返りを打つ。まだ目覚めそうにない。ゾロの、その柔らかい緑髪に触れた。頬..眉毛..睫毛..瞼..全てが愛おしい。指が唇に到達した時、また新たな衝動が芽生えて、サンジはそっと自分の唇を寄せていった。

「ん...何してやがる」
「おはよ...気持ちのいい午後だ」
「まだ明るいな」
「後で一緒に買い物に行こ」

目を擦りながら起き上がろうとしたゾロは、一気に不機嫌そうな顔になった。

「痛ッッ.....」
「ゾロ？」
「.....くっ...」

辛そうに腰に手を当てながら、もう片方の手をベッドに付いて起き上がろうとする。サンジは心配そうに手を貸す。起き上がったゾロはさっきよりさらに怖い表情だ。

「ゾロ..大丈夫か？」
「何だこの痛みは」
「あの...えと...ご..ごめんっ！」

サンジはベッドに頭を擦り付け、謝った。いくら謝っても足りないだろうけど。

「何だ？」
「俺が...あんなこと...本当にごめんっ！」

大切に、大切にしていこうと思っていたはずなのに、とサンジは自分がしてしまったことを後悔した。

「お前が謝ることない。謝っても治るわけでもないしな」

痛みに顔を少し歪めながら、ゾロはベッドから下りた。

「シャワー、借りるぞ」

心配になって少し遅れてバスルームの方へ様子を見に行ったサンジ。そこからゾロの「痛ッ」という声が何回か聞こえた。洗うのも痛いんだろうな...そう思うとサンジは心底申し訳なく思うのだった。
バスルームから髪を拭きながら出てきたゾロの表情は、さっきよりまたさらに不機嫌そうになっていた。痛みも我慢しているに違いない。ちょっと歩きづらそうだ。これ以上不機嫌になるのを避けたかったので、サンジは言葉をかけずに見守っていた。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

サンドイッチとフルーツジュースで軽くお腹を満たすと、ゾロは少しだけ機嫌を直したようだ。でも何か話をするでもなく、またサンジも話しかけづらい状況だった。

「ゾロ...」
「あぁ？」
「まだ..痛む？」
「...無茶苦茶痛い」
「...ごめん..」
「もういいって言ってんだろうが」
「....」
「....」
「....？」
「こういうもんなのか」
「え？」
「こんなに痛いもんなのか...って」

突然の問いに、何と答えたものかサンジは困った。全くの初体験で、しかも自分が受身になったことはないのだから。

「わからないけど...俺が経験豊富で上手くやれば、多少は何とかなったかも知れない。でも俺も初めてで...」
「初めて同士...だったからか」

ゾロは何かを納得したのか、あるいは痛みのことは気にならなくなったのか、穏やかな表情になっていた。

(もう、あんな事やりたくないって思ってるんだろうな)

サンジはゾロの顔を見てほっとしながら、そんなことを考えていた。そしてソファから立ち上がった。

「ゾロ、俺、買い物行ってくるよ。お前は今は歩かない方がいいから部屋で待ってて」
「..そうだな...」
「あぁ...でも俺も何だか外出るの億劫になってきたなぁ...冷蔵庫の残り物集めて何か作るのもいいけど」
「やっぱり..」
「ん？」

ゾロがサンジの手首を掴んだ。目はどこか他の場所を見ている。

「怪我人を置いていくな」

そう言って、サンジを元のように座らせた。サンジの頬が微かに緩む。

「わかったよ..ゾロの傍にいる」
「...違う..別に...」
「じゃ、ピザでも取ろうか」

まだきっと痛いだろう。サンジはゾロの腰の辺りを優しくさすってやった。体勢を変える時は、その都度手を貸してやる。腰の下にクッションを入れると、少しは楽になるようだ。ゾロの柔らかい髪を撫で、肩を抱き寄せる。

「そこは別に痛くない」
「じっとして...こうしてリラックスしていれば楽になるから」
「お前が何もしない方が楽だ」
「可愛くねぇの」
「気持ち悪い事言ってんじゃねぇ」

いつもなら、ゾロがサンジの体を突き飛ばすところだったが、肝心の腰が痛くて俊敏な動きができない。それをいいことに、サンジはゾロを好きなようにしている。髪は柔らかく肌も滑らかで、触るだけで心地よかった。顔、首、耳と、サンジの手が触れてないところは一箇所たりともないくらい、撫で回している。
ゾロはもう、怒るのも拒絶するのも無駄だと悟ったのか、されるがままになっていた。

「そのうち飽きてやめると思ってたのによ..」
「飽きないから、こうして続けてるんだ」

再びサンジの手がゾロの髪へと伸びていく。ゾロの眉間に皺が入った。
そしてそれは、ピザが配達されてくる迄、延々と続いた。


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