青い薔薇　後編

*****30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい*****



心地よい目覚め。そして充足感。今、サンジはこの上ない幸せな気持ちに満ち溢れていた。
近々キングサイズのベッドを買おうと思案中だったが、すぐ横で寝ているゾロを見ていると、狭いところで身を寄せ合って寝るのも悪くないと思うのだった。

(まぁ、二人ともこれ以上成長することもないだろうし..)

そんなことを取りとめもなく考えながら、ゾロの寝顔を眺めている。本当にコイツ、よく寝るよな..と思った。サンジはそのすべすべとした頬にキスをし、ベッドから下りた。本当は、もう少し寝顔を眺めていたかったが、昼食の準備をそろそろしておきたかった。手早く顔を洗い、キッチンへ向かう。
そのうち「腹減った...」とゾロが起きてくるに違いないのだから。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

「あ、そうだ...」

サンジは大切なことを忘れていた。

「来週からキャンペーンやるんだっけ」
「何だ、いったい何をするって？」
「うちの店は、時々売り上げupのキャンペーンやるんだけど、今回もまた派手にやるらしいぞ。ちょうどゾロが入ってきた時にキッチンもホールも増員したんだ」
「ふぅん」
「それがなぁ..普通より1人多い増員なんだよな...キッチンには、そんなに要らないって、チーフに言ってみたら...」
「うん」
「キャンペーン中だけでいいから、店に出てくれ..って..」
「お前が？それで返事したのか？」
「う...ん、思案中。てか、ホスト嫌になってキッチンへ移ったのにさ...すぐ断ろうと思ったのに『断ろうとしてるだろ。それだけは許さん』って...。それじゃ選択肢は１つしかないぜ」
「臨時なんだろ。断れないんじゃ仕方ないってことか..」
「ええっ？ゾロ、お前は賛成なの？」
「賛成とかそういうんじゃなくて..仕事だと割り切ればいいじゃないか」
「お前、平気なのか？...あの...俺が...」
「何が？」
「自分で言うのもなんだけど、俺、売れっ子だったんだぜ？客の中には俺の返り咲きを密かに狙ってるのもいるんだから..」
「そうなのか？お前、自分の客とまだ付き合いあるのか？」
「誤解するなよ！時々店に顔出して来て話聞く程度だからな！」

ちょっと慌てるサンジを、ゾロは口の端で笑いながら眺めて続ける。

「別にそういうのは気にしない。まぁ気分転換にやってみたらどうだ？」

こういう時のゾロは実にクールだ。サンジは自分が少し感情的に考えすぎていたのでは、と思った。ホスト復帰の事は、ゾロが多少は反対するものと勝手に予想していたから調子が狂ってしまったが、何だか気持ちが楽になった気がした。

(そうだな、気分転換に...どうせ２週間程度だ)

「久々に、スーツとネクタイで決めてみるか」

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

「よぉっ、サンジ。やっぱり違うねぇ」

出勤してきたサンジを真っ先に見つけて飛んできたのは、チーフであるシャンクスだった。

「久々にこういうカッコすると、変な感じっすよ」
「いやいや、全然前と変わらないな。やっぱり辞めたの間違いだったんじゃないか？」
「いいえ！それはありません。俺は毎日充実してますから」
「お、そうそうサンジ...ちょっとこっちへ」

シャンクスは奥の事務所へサンジを連れていった。

「何でしょう？」
「うん。まぁちょっと座れ」
「はぁ...」
「....」
「......」
「まず一つ目」
「はい...」
「ゾロのことだが...お前の研修の成果がじわじわと出てきててな。今までウチにいなかったタイプということもあって、人気が出てきている。」
「そうですか...役に立てれたんなら嬉しいです..」
「それと...二つ目...」
「....」
「他のスタッフやホスト達には、知られないようにくれぐれも気をつけてくれ」
「...え？」
「詳しく聞いたり、詮索したりする気はないし、その必要もないが、この空気の流れを今は変えたくない。それだけだ」
「あの...チーフ...？」
「ん？」
「なぜ.....それを.....と言うか、その....」
「その程度わからなくて、スカウトが務まるものか。見くびってもらっちゃ困るね」
「...チーフ...」
「あ、念のために言っとくが、咎めるつもりはない。そんな権利もないがな...まぁこんな話をしたからといって、特にどうしろという話ではないんだ。ただ、気をつけてくれさえすればいい。その...俺は個人的には応援するよ」
「......チーフ....すいません、心配かけて」
「心配なんてしてないさ。むしろ前より生き生きとしているお前が、ここで毎日楽しそうに働いている姿が見れて、いいことだと思っているんだからな」
「...ありがとうございます..」
「じゃ、これからもよろしく」
「はい...頑張ります...」

(シャンクスが...チーフがここまで言ってくれてるんだ。やってやるさ。それにしても、やっぱりこの人は恐ろしい)


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