～青い薔薇　番外編 4～

飛翔～AnotherStory～


　〔ご注意〕***30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい***



彼女には、この1年間の密かな熱い思いがあった。そのために、贅沢もせず真面目に働いて、この日を迎えたのだ。それは自分へのご褒美、というわけだ。

教えてもらった通り歩いていくと、店が見えてきた。

"BlueRoses"

雑誌に載っていたのと同じロゴ。ここに間違いない。

まだ開店迄10分程ある。今は準備中だろうか。でも、ドアには"OPEN"の文字がある。

「よし、入っちゃえ」

思い切ってドアを押した。

(うわぁっ...どうしよう...入っちゃったよ)

「いらっしゃいませ..お一人様ですか？」
「は...はい」
「今日、初めてでいらっしゃいますね」
「はい...」
「では、初回のお得なセットがございますが、それでよろしいですか？」
「はい...それでお願いします」

料金体系などは、もう何度も、雑誌の紹介欄を読み返していたので、知っていた。

「こちらへどうぞ...上着、お預かりします」

席へ案内される。

「誰か、気に入ったスタッフがいれば、言って下さい。ただし、このあたりは...まだかなり後にならないと、店に出てきませんが」

ボーイがスタッフリストの顔写真を指しながら、説明した。売れっ子ともなると、遅い時間にならないと店に出てこないというのも、事前調査済みだった。

「あの...」
「はい？何でしょうか？」
「私...この人に会いたくて、今日ここまで来ました」

さきほどの、切抜きを見せた。ボーイが一瞥すると、申し訳無さそうな表情になった。

「あ...彼ですか」
「もしかしたら...もうお店辞めたんですか？」
「いえ...辞めてないですよ」
「そう...ですか。良かった」
「こちらの....これをご覧下さい」

ボーイが先ほど見せたのとは、別のリストがあった。料理のコースメニューと、シェフの紹介写真がある。

「ワゴンサービスというのがありまして、指名して頂ければ、お客様のお傍で、お料理とワインのサービスを致します」
「...ホストは辞めたんですか？」
「ええ。残念なことに」
「...指名は、何時頃からできますか？」
「今からご予約を入れて頂ければ、1時間以内にできると思いますよ。今日はまだ...他に予定が無かった筈ですから」

ボーイが同じ場所に長く居るので、一体何事かと、他のスタッフがチラチラとこちらを見ている。

「ではお客様...ご用があればまた呼んで下さい」

ボーイが立ち去った。

そして暫くすると、今度は赤い髪の男が近付いてきた。元NO.1ホストのシャンクスである。年齢は、若いとは言えないが、何とも言葉にし難い吸引力がある。彼が歩く傍から風が舞い上がるような。

(うわっ...カッコいい～...)

「いらっしゃいませ...」
「は、はい、どうも...お邪魔してます」
「面白いお客様だ...さっきスタッフから、ちょっと聞いたんですが...ずっと前から、ウチを知って下さってたみたいですね？」
「あ、はい...雑誌で見て...ずっと来たいなって思ってて...」
「その時の記事...多分1年くらい前の物じゃないですか？」
「は、はい...」
「1年間もよく、ウチを忘れずにいてくれて、光栄です」
「そ、そんな...。私、もうすぐ誕生日なんで、それまでには来ようと思ってて...その間欲しいものも買わずに我慢してました」
「そう？じゃ、一生忘れられないようなバースデーになるよう、ウチとしても、出来るだけのことをさせてもらいますよ」
「い、いえ！そんなことは別にいいんです...私はその...」
「彼なら...今仕込みをしてますよ。その雑誌の頃は、確かにNO.2ホストでした。どうしても辞めて欲しくなくて、私が引き留めたんですよ」
「...そうだったんですか...」

シャンクスが席を立った後、彼女はしばらくボーっとしていた。彼の物凄いオーラに圧倒されていた。話をするだけで、背中から腰にかけて、緩い電流が走ったような感覚だった。

通常は、ヘルプのホストが席に着く。シャンクスが来るなんてことは、自分の担当した昔の客が来た時以外には、そうそうあることではなかった。すでに現役を退いているのだから、ホールに出てくることすら、滅多にない。

しかし、彼女はまだ、そんな自分の幸運には、気付いていなかった。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

店の奥のキッチンでは、元NO.2ホストで今はシェフの一人である、サンジが調理をしている。もう、だいたい出来上がっていた。

(この時間帯に一人で来て、いきなりワゴンって...変わった客だな)

そんなことを考えていると、シャンクスがやってきた。

「チーフ...？何かあったんですか？」
「サンジ、ちょっと、もう耳に入ってるだろうけど」
「はい...？」
「今、お前を指名している客だが...」

シャンクスは、その客が1年前の、この店を紹介した雑誌の記事を持っていることや、サンジに会うために、遠方から、ここに来たということを説明した。

「俺、もうホストじゃないのに、いいんですかね？」
「お前に会えるんだから、いいんじゃないのか？」
「何か...せっかく来てくれたのに..申し訳ないって言うか」
「サンジ、お前...彼女が食べ終わったら、しばらく席に着いてやれ」
「ええっ？」
「1年前の予約客ってことに、しといてやるから」
「チーフ...」
「これも何かの縁だ...大切にしろ」
「....分かりました、チーフ」


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