〜青い薔薇　番外編 4〜

飛翔〜AnotherStory〜


　〔ご注意〕***30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい***



店を出て、が通用口近くで待っていると、サンジが現れた。コックコートでも、スーツでもない、ラフなジャケットとジーンズ姿だった。

(何っ！目茶苦茶カッコいい...)

「待たせてゴメンね」
「ううん、今来たばかりだから」

とりあえず、決まり文句を言ってみた。

「俺の家、歩いて行ける距離だけど、体調悪いんならタクシー呼ぼうか？」
「ううん...もう平気。ゆっくりなら歩いていけるから」
「そう？無理はしないで...途中でも辛かったら、遠慮しないで言って」
「ありがとう」

サンジは、の方を気遣いながら、歩き出した。

「ちゃん、あのゾロ相手に割と喋ってたね」
「え？見てたの...」
「結構見えるんだよ...奥から」
「ゾロって...ちょっと変わってるよね」
「ホストっぽくないだろ？」
「そうね...勝手に飲むし」
「あれでも...指名率NO.3なんだぜ」
「そうなんだ〜！」
「売上げは、そうでもないんだけど」
「そんなに指名されてるのに？」
「営業、あまりかけない、って感じで」
「マイペースなのね」
「ははっ...そうとも言えるな」

ゾロの話をするサンジの顔は、楽しそうで穏やかだった。一見共通点が無さそうな二人だが、はサンジの話を聞きながら、何だか知れないが、彼らの強い結びつきを感じた。

「ちゃん...」
「はい？」
「1年間も、俺のコト考えててくれたんだよね」
「...ええ」
「実際に会って...イメージ通りだった？」

は、そっとサンジの顔を窺った。店で見たのとは違う、少年のような自信無さげな表情に、どきりとする。

「.....思っていたのとは全然違ってた」
「...そう」
「写真の何倍も素敵で、想像の域を超え過ぎてて、頭がうまく回らなくて...えと、その...」
「....本当に？」
「はい」

サンジはポケットに手を入れ、少し歩く速度を上げた。は彼に合わせてついていく。

行く手に見える、時差信号のある交差点。歩行者用信号が点滅している。今から走っても間に合いそうにない。

「ココ、待ち時間結構長いんだよ...1本吸ってもいい？」
「どうぞ」

サンジはタバコを1本咥え、火を点けた。最初の煙を深く吸い込む。彼の口元を覆うように置かれた左手の甲に、は目を奪われた。

サンジはの居る方向とは逆へ顔を向け、煙を吐き出してから言った。

「ん？俺の手...どうかした？」
「ううん...」
「水仕事だからね...手入れには気を遣ってるんだ」
「ささくれとかも無くて、綺麗な指してる」
「...よく見てるね」
「え？あ...っその...ご、ごめんなさい」
「別に謝らなくても...」

サンジがふわりと微笑みながら、を見た。

「そんなに俺のこと、見ててくれたんだ？」
「...だって」
「だって...何？」

その先の台詞を考えていなかった。は焦った。ここで何か言わなくては、せっかくの会話が宙に浮いてしまう。

(だって本当にサンジ君が好きだから...じゃ事実だけど面白くないし...)

信号が青に変わった。

「さ、行こうか...ちゃん」
「あ、は、はい....」

サンジの手が、の手を軽く握っていた。

「俺の手、好きなんだろ？」
「....ぇ....」
「後で好きなだけ、見て...触っていいから」

サンジの携帯には、少し前にゾロからメールが届いていた。が道中倒れないように注意しろ、ということ。そして、『男の手を見るのが趣味らしい』と書かれてあった。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

男二人の部屋にしては、綺麗に片付いていて、洗練された雰囲気が漂っていた。細々とした物も、見える範囲には無かった。

キッチンへ向かうサンジに、が声をかけた。

「ご飯の支度...早速始める？」
「あぁ...実はもう、殆どできてるんだよ。昨日にやっておいたから」
「私、ヤル気満々だったのに..残念」

(あー良かった..サンジ君に見られてたら、包丁で手を切っちゃいそうだし...助かった)

「ちょっと温め直して、盛り付けるだけだから、ちゃんは座っててよ」
「私もそれくらいなら、お手伝いするわよ」
「じゃ...一緒にやろ」

お皿を並べたり、料理を取り分けたり...その一つ一つの作業を、サンジがの手に自分の手を添えて、進めていった。殆どサンジがやっているのと変わらなかった。
の背後に立ち、彼女の体の両側からサンジが手を伸ばして作業をする。

彼女のこめかみ付近に、サンジの息が時々かかるほどの距離だった。時々ふっと漂うタバコの匂いは、髪についているものだろうか。

「そろそろ、野郎が帰ってくる頃だ」
「...？」
「『腹減った』ってウルサイからな、アイツ」

それから5分もしないうちに、玄関のドアが開いた。

「おかえり」
「...お邪魔してます....」

ゾロはキッチンへ近付きながら、匂いを確かめている。

「あー腹減った」
「すぐ用意できる」
「こっち、やっとくよ」

ゾロは手慣れた様子で、テーブルの準備を始めた。何か意外な感じ...と、は思った。

最初は少し緊張しつつも、二人とも店で話し、一緒に飲んだ仲だ。は自分がだんだんと、リラックスしてくるのを感じた。自然な会話もはずみ、3人での食事の時間もあっという間に過ぎていった。

が自分がやる、と主張するも却下され、キッチンで洗い物をしているのは、サンジとゾロの二人だった。食器を拭いていたサンジは、ゾロの洗い物が終わると、一足先にキッチンを離れた。

「ごめん、ちゃん...一人にして」
「ううん...大丈夫」
「....もう、始める？」
「へっ？」
「....絵、描くんだろ？」
「.....そ、そうね...」

二人の所作に見惚れる余り、肝心な今日の目的を忘れるところだった。はバッグから、スケッチブックと鉛筆を取り出した。キッチンでは、興味深そうな顔でゾロもこちらを見ていた。

「で、では...しばらくの間お願いします」
「何だよ、ちゃん...俺の方が緊張するじゃない」

サンジはまるで、の心が読めるかのように、ポーズを決めてくれる。膝の方へ腕を載せ、手は握らずに楽に指を伸ばしている。シャツの袖は、二度ラフに折り返した。

「あ...ここも、もう一つ外した方がいいね？」

彼は、シャツの前のボタンを、もう一つ外した。手を元の位置に戻す前に、長い前髪をさくっとかき上げた。

「他に...リクエストある？」
「いえ...充分...」

(...頑張れ私...)

手が震えかけているのを、何とか振り切り、スケッチブックの上に、線を走らせていく。

(あ、何か遠近法が変...頭が歪んでる...わっ指の関節の位置がオカシイ...)

それでも、描いていればだんだん形になってくる。長年やっているだけのことはある。

いつの間にかゾロも近くで見ていた。

「上手いもんだなぁ...」
「ひぃっ...び、びっくりしたぁ...」
「ゾロ、ちゃんは今、集中してんだから、そんなに寄ってたら駄目だろ」
「へいへい」

時々汗で鉛筆を滑らせながらも、"サンジ君の手アップと腕まくりと胸チラ見せの図"が描きあがった。

「見せて見せて...」
「あ、あんまりジッと見ないで..サラッと、で」
「ふーん...」

サンジより前にゾロが顔を突っ込んできた。

「おい！俺の絵だぞ！先に見るんじゃねぇよ！」
「いいだろ...ケチ」
「仲良く見てよ...減るもんじゃないんだから」

するとゾロはサンジの隣にぴたりと座り、並んで絵を眺めた。確かに仲良く見ている...。

「ちゃん...俺感動しちゃった...モデルなんて初めてやったけど...いい経験になったよ」
「凄いな....サンジの軟派な部分が見事に抜かれてる...ちと美化し過ぎじゃねぇのか？」
「いえ...その...会ったばかりだし、内面までは分からないし.....見たまんま描いただけで...」

絵を誉められるのは嬉しいが、できれば穴があれば入りたい気分だった。

「じゃ...次は俺だな」
「...あ、やっぱりぃ？？」
「俺では不足か？」
「そ、そんなこと...是非」
「脱ごうか？」
「い、い、いえっ...」
「別に全部脱ぐとは言ってねぇが...」
「じゃ、サンジ君くらいで...」
「あぁ？それだと似たような絵になるだろ」
「いえいえ顔が違うから大丈夫...」
「これでどうだ？」

ゾロはシャツのボタンを全て外し、ボトムにも手をかけた。

「あーっ、ゾロ？それは脱がなくていいからっ」
「脱ぎはしねぇ...少し外すだけ...こういうの、よくあるじゃねぇか...」

確かに、ジーンズショップの店頭のポスターで見たような気がする。は汗が出そうだった。

サンジの柔らかなイメージとは違う、暑苦しい一歩手前の、男らしさが漂っている。シャツの間から見える、厚い胸と、綺麗に割れた引き締まった腹筋。

「なっ？俺の方がいいカラダしてるだろ？」
「何だゾロ？俺だってちゃんと絞ってるぞ？おめぇよりは細いけどな」
「あのぉ...サンジ君...ちょっとだけ離れててくれる？」
「ほら、から注意されてんぞ」
「ちゃん...俺の時より真剣じゃないか」

(違うのよ...ゾロの方が肌の露出が多いから...どう描こうか困ってるのよ...)

しかしいざとなると、眠っていた力が目を覚まし、思っていた以上に綺麗な筋肉が描けた。筋肉さえ描ければ充分と思って描いたせいか、服の線などはちょっとラフ過ぎた。

「これ...俺か」
「...あ、あんまりジロジロ見ないでくれると嬉しい」
「...すげぇ悪人ヅラだな...」
「ははっ...ちゃんには、こう見えるんだな」
「それに...何か挑発的な感じがする」
「いつも誘ってるからなぁ...」

(え？何を誘うんですかっっ？？)

「サンジ....何を誘うって？」
「いやぁ...ははっ...今のは失言だな」

ゾロはニヤリとした。

「、せっかくだから色んな絵、描いていけよ。何でも希望のポーズ取ってやるからよ」
「えええっ？何でも...って言っても」
「全部脱げと言われれば脱ぐし」
「え゛」
「二人でカラメと言うんなら...」
「え゛え゛え゛え゛え゛...ぐはぁっ...」

「あーあ、ゾロ...おめぇ冗談も過ぎるとシャレになんねぇぞ...ほらぁ、ちゃん、また眩暈起こしちゃったじゃねぇかよ」
「....あ、私...」
「ごめんね、ちゃん...ゾロは別にからかってる訳じゃなくて...本当マジなんだよ。嫌ならハッキリ言ってくれていいからね」

(これは.....またとないチャンスっ！)

「................」
「...ちゃん？」
「じゃ、二人とも上半身脱いで...そのソファにもたれて...」

何かに憑かれたように、はテキパキと指示を出し始めた。

「まずは手始めに...サンジ君がゾロの顔に手を...」
「目線はこっちで...」
「顔はここらへんまで近づけて...」

そして超高速で、鉛筆を動かしていく。その後、さらにいくつか指示を出し、ポーズを変えさせて、数枚のスケッチができた。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

「ちゃん...大丈夫？」

スケッチブックを抱えて、居眠りをしている。あんなに集中して描いたのだから、疲れたのだろう。

「すげぇな...俺達二人、こんなカッコにして、あの迫力で描いてたんだからな」

サンジもゾロも、最後には、ほぼ全裸だった。

「ちゃんの指示するポーズが、何かイチイチどれも、俺達の普段の生活見てんじゃねぇ？みたいな...」
「、やっぱり男だったのか...」
「バカ、ちげーだろ！ちゃんは、男同士のこういうのを何の偏見もなく、そのまま受け止めてくれる広い心の持ち主なんだよ！」
「...は、気付いてんのかな？」
「あぁ？何が？」
「俺達の...関係」
「そりゃ、気付くだろ...」
「いいのか？」
「ん？」
「は...おめぇのファンなんだろうが...1年間も思い続けた」
「それは...ちゃんに訊かねぇと分かんねぇけど...絵を描くっていう目的は達成できた訳だし」
「...だな。の満足そうな顔...見ろよ」

大願成就。は持てる力を存分に発揮した。


BACK＜＜　　　＞＞NEXT



潜入メニューに戻る



Parallel MENU

NOVEL MENU


TOP