Ｄｅｂｕｔ
〔ご注意〕***30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい***
「とりあえず....ナミに打診してみるわ」
「説得して、形式上承諾を取るだけなのに？」
「鋭いわね」
「それくらい、分かりますよ」
「一応自分の名誉の為に言っとくけど....。時間が無さ過ぎるの。だから相談とか検討とか、してる場合じゃないのよ」
「俺は社長についていくだけです」
「.....本当、世渡り上手過ぎて、可愛げが無いわ」
「社長が思うほど、世渡りは上手くありません。可愛げが無いのは、その通りですが」
この男が部下で良かった。雇っているという立場で良かった。
ロビンは心底そう思うのだった。
＊＊＊＊
ナミの件は、次のボーナスを上乗せするという事で手が打たれた。ナミもまた、仕事に関してはシビアで責任感があった。
ナミは、ロビンから渡された、仕事内容について書かれた物に目を通し、今までタレント管理業務をやってきた経験から、自分のやるべき事は掴めていた。ロビンは今回のような事も想定して、自分に色々な業務を経験させていたのではないか、とも思った。
芸能界に興味があったからこそ、この会社に居るのだが、タレントという不安定な仕事には、実はそれほど思い入れは無かった。よほど売れれば別だが、いつどうなるとも知れないし、事務所も絶対的に保障してくれる訳でもない。ただ、今回は会社の一大事。その会社がどうにかなれば、自分の身も危ういのだ。これは仕方の無い事と言えるだろう。
「引き受けたのはいいけど....」
映画やドラマの出演ではないのだから、代役と言っても同じような事をする必要もないし、それを要求されてもいない。だが、しかし、
"社運がかかっている"
そう、ロビンは言っていた。その言葉がナミの決心を早めたのは間違い無い。それほど大きな仕事とも思えないのだが。
ナミが命じられた業務がもう一つ。スカウト。つい先日も、ロビンが目を付けた一人の若い男に、何とかコンタクトを取ろうと試みた。話がしたい、とメモに書き、携帯のアドレスを添えた。
怪しい勧誘か何かと思われてはいないだろうか。しかし、待ってみるしかなかった。
(私も、ゆっくりと話をしてみたいしね)
＊＊＊＊
「くっ.....」
「そう」
「はっ.....んっ」
「いい感じ」
「.....はぁ....はぁ.....」
ロビンはまるで作品を見るような表情。そのしなやかな筋肉質の腕に手を伸ばし、撫でている。
「これ以上、つけちゃ駄目よ」
「....分かってます」
「肩と背中もそうだけど、上腕は特に気をつけて」
「はい」
「じゃ....計測」
首にかけたメジャーの端を持つと、目の前の男の脇の下へと回し、胸の一番厚い部分に巻きつける。毎日鍛えつつ、一定以上には筋肉がつき過ぎないよう、こうしてチェックしているのだ。
「あなたはあくまで私の秘書.....できるだけ普通の男っぽく振舞って欲しいの」
「はい」
「私は狙われてます、危険から守ってもらってます...って言うのは絶対駄目なの」
「はい」
「......あら、どうしたの？」
振り返ると、ナミがドアを少し開けかけて、動きが止まった状態だった。
「お取り込み中かしら？」
「いいえ。問題無いわ」
「.....！」
ナミが目にしたのは、上半身裸のゾロの胸に腕を回して、抱きついているように見えるロビン。
「ここ、一体何なんですか？」
「あら、初めてだったかしら？」
まるで小さなスポーツジムのようになっている。色々な器具が揃っていて、隅にはシャワールームまであるようだ。
ゾロのすぐ傍には、さっきまで使っていたらしい、ダンベルがあった。
「運動不足解消にいいわよ。ナミも良かったらお使いなさい」
「ええ、機会があれば」
「仮眠も取れるし」
ナミは自分の方へと近付いてきたロビンを見て、彼女が手にしているのが洋裁で使うような、巻き取り式のメジャーだと分かった。
「サイズ....測ってたの？」
「そうよ....」
「......理由、訊いていいかしら？」
「彼、鍛えるのがとっても好きみたいなのよね」
「ええ......」
「鍛えるのはいいんだけど、うっかりすると私の理想のサイズを超えちゃうのよ」
「.....」
「だから、こうして時々測ってチェックしているのよ」
「....イマイチ、話がよく分からないわ」
「.....もし筋骨隆々な大男が、私の横について歩いてたら、どんな印象持つかしら？」
「...........いかにも、ボディガードって感じね」
「かえって目立つし、営業上もちょっと...でしょ？」
そう言いながら、簡易式のクローゼットから、男物のスーツを取り出した。
「これ....彼の為に作らせたのよ」
「.....これって....」
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何かに一歩踏み込んでしまったナミ....
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