Ｄｅｂｕｔ
〔ご注意〕***30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい***
一見気が強く、わがままで自己中心的に見えるナミだったが、時間には正確、服装も髪型もきちんとしていた。メイクも地味で清潔感がある。仕事は丁寧かつ迅速で、効率よくテキパキと進めていく。予測できる事は先に手を打っておく。分からない事が出てきたら、後回しにせずすぐに調べる。
早い話、他人から指摘されたりするのが極端に嫌いなのだ。だから、それを避ける為にやっているだけの事だった。
同じ秘書課に居ても、ゾロはナミとあまり話をした事がなかった。会議の席で、発言しているのを聞くくらいだった。
何度考えても、ゾロは自分が適任とは思えなかった。酒に強い、などという理由があっていいものか。しかし、もう正式に配属されてしまっているし、ロビンの期待を裏切る訳にはいかない。
そんな事を思いながら、ゾロは知らず知らず、足が勝手に秘書課への通路の方へ向かっている事に気付いた。少し迷いかけながら、行き先を変更した。
(今日からは....営業部だったな)
ナミは今日は内勤だった筈だから、秘書課での用事が済んだらこっちへ来るだろう。それ迄にまずは、営業部の事をここに居る誰かに色々と教えてもらおうと思った。
秘書課と違い、少し雑然とした雰囲気。周囲の席を見てもデスクの上には右や左へ適当な向きになったファイルが積み上げられている。
「あら、おはよう、ゾロ」
「おはようご.....何だお前か」
「何よ、マネージャーがそういうのでいいの？」
「あ？」
「おはようございます、ナミさん...でしょ？」
「マネージャーは付き人とは違う。それに、俺に指図するな」
「なっ.....ちょっとあんたね、社長以外は皆そういう扱いなの？」
「......何かアイツが辞めたがった理由が分かる気がする」
「....アイツ？ウソップの事？」
「ま、とにかく」
ゾロは、つかつかとナミに近付き、右手を差し出した。
「最初だからケジメだけはキッチリとな」
「......」
ナミもすぐに状況を察し、同じく右手を出した。
「俺は、マネージャーという仕事は全くの素人だ。だからしっかりお前が俺に教えろ」
「人に物を教わるのに、随分と偉そうだけど....いいわ分かった。ちゃんと私が責任持って、仕込んであげるわ」
「よろしく頼む」
「こちらこそ」
二人は固い握手をした。
ナミの説明は要領がよく、丁寧だった。かつて自分がマネージャーやタレントの管理をしていただけあって、視野が広く、応用が利く。タレントの個々の性格や、仕事のタイプにより、マネージャーとしての仕事の進め方も千差万別。総合的に管理してきた経験は、ここで充分役に立った。
ゾロも物分りは良い方で、要点のみ書き留めていった。彼が手にしている真新しい手帳に、ナミはすぐに気が付いた。
「あら？それいい手帳じゃない？」
「ん？あ、これか」
「わざわざ今回の為に買ったの？」
「前の手帳は....そのままウソップへ引き継いだからな」
「そのブランド....社長のお気に入りのやつね」
「よく知ってるな」
「ロビンからのお餞別....ってとこかしら？」
「何でもお見通しなんだな」
「ロビンったら、最近すっかり乙女なんだから」
「え？」
「いーえ、何でもないわよ」
あ、そうだ、という表情になったナミが、少し声のトーンを上げて言った。
「ただね、ゾロ」
「ん？」
「マネージャーはね、営業マンでもあるのよ」
「うん」
「無愛想な顔や眉間の皺なんて、厳禁！もってのほか！」
「.....こういう顔だしなぁ」
「目元はもう少し柔かく....何か顔が怖いのよ！」
「社長にはそんな事、言われた覚えはねぇけどな....あ、そう言えば」
「あるの？」
「愛想良ければ、仕事取れるのに、とか言ってたな」
「仕事？ゾロが？」
「カタログのモデルとか....やってみないかって」
「それ、いいかも！男性用下着とか！」
「何でそっちなんだよ」
「下着のモデルって誰でもできないわよ？痩せ過ぎでも駄目だし、あと、あんまり毛深いのも向いてないんじゃないかしら？」
「.....いつ、俺の身体見た？」
「.....ほら、あの時！ロビンがサイズ測ってたじゃないの」
「.......あぁ、あれか」
あの時は、ナミはロビンとゾロの関係を少し疑っていたのだ。しかし色々と深い事情を知らされて、少しだけ考えを改めた。
(ま、今でも多少は、怪しいとは思ってるんだけどね)
ナミは会社専属タレントになったのではなく、あくまで秘書課の人間だった。自己流ではあるが、ゾロへの「研修」が一通り済むと、また秘書課へと戻っていく。
「まだ色々と話したい事あるから....この後飲みにいかない？」
「酒か....」
(こうしてウソップは潰されたのか。気の毒なヤツだな)
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ナミの洗礼？
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