Ｄｅｂｕｔ
〔ご注意〕***30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい***
「ゾロ、追加注文する？」
「あぁ、頼む」
「ママ！追加お願い！3本持ってきてー！」
「あ、ナミさん....俺は、もう飲まないから...」
「あ、いいのよ。2本は私が飲むから」
「おめぇが2本ってどういうこった？」
「細かい事は気にしないの！」
その後もナミが中心になって、話が進んでいった。サンジが聞き上手なのも手伝ってか、ナミは適度に酒も回り、上機嫌で喋っている。それに対してゾロは、ナミが話を振ってきた時にだけ、口を開き、相槌を打つ程度。後はずっと酒を飲み続けていた。
サンジは、二人のあまりの飲みっぷりに圧倒されていた。彼が手にしたグラスは2杯目から中身が減らず、煙草に持ち替えた。
「おいナミ....明日も仕事だぞ」
「何よこれくらい...それに私、明日は内勤だから」
「いくらお前が酒に強いったって...飲み過ぎは毒だぞ」
「...そうだよナミさん.....肌にも良くないし...せっかくそんなにキレイなのに」
「サンジくんがそう言うなら」
少し得意そうな顔をして見せるサンジに、ゾロはムッとした。
(ん？俺がナミさんと仲良くしてるのが、気に食わねぇみてぇだな？)
(何だコイツ、チャラチャラしやがって...ナミの本性も知らずに幸せな野郎だ)
かなり感覚のズレた二人の思いなど、全く気にもかけない様子のナミが、唐突に話し出した。
「ゾロはね....秘書とは名ばかりの、社長付きの"用心棒"だったのよ」
「おいっ....ナミ、何だ急に....」
「いいじゃない、本当の事でしょ？」
これからの仕事には直接関係はないが、ナミのマネージャーに急に任命された経緯を話すには、避けては通れない話だった。
「見た目はこんなだけど....信頼はできる男よ」
「こんな顔で悪かったな」
ナミがずっと手にしていたグラスを置いた。
「ん....どうしたんだろ、眠くなってきちゃった」
ナミはかなりの酒豪で、いくら飲んでも酔い潰れるという事はなかった。自分の限界もわきまえているし、周囲にからんで迷惑をかけるという事もない。
ここ最近は仕事で神経を使う事が多く、何よりも急な慣れない仕事を経験した。やはり疲れが出てきたのだろうか。
「ナミさん....大丈夫？」
「ええ...ちょっと奥で休んでくるわ」
勝手知ったる馴染みの店なので、店内の間取りは全て分かっている。立ち上がろうとするナミの身体を、サンジがそっと支えた。
「大丈夫だって.....。すぐ戻るから」
サンジの助けを断わり、ナミは一人で歩いていった。カウンターから出てきたママが、その様子を見ている。
「あら、珍しい.....。男前が二人もいて、さすがのナミちゃんも舞い上がってたのかしらね？」
ママは、わざと不躾な視線をゾロとサンジに向けた。
(ナミさん....俺のせいで.....)
(いや、それは有り得ねぇ....そんなタマかよ)
ナミが居なくなり、男二人が残された。ゾロはペースを落とす事なく、酒を飲み続ける。サンジはグラスに残っている酒を、申し訳程度に舐めながら、煙草を手にしている。
サンジは顔を横に向けて、吸い込んだ煙を吐きながら、ちらりと目の前の男の方を見た。
「おめぇ....酒強ぇんだな」
「よく分かんねぇが、人にはそう言われる」
「ナミさんも相当だし、それに顔色一つ変えずに合わせてたし」
「....そのせいで」
「ん？」
「ナミの前のマネージャーが...」
「マネージャー？」
「あぁ....」
「....辞めちゃったとか？」
「そいつは配置換えで何とか収まったが....お陰で俺がその穴埋めに回された」
「....確か、前は社長秘書...って」
「ったく.....やった事ねぇのに、迷惑な話だ」
「いいじゃん、相手はナミさんだぜ？俺なら大歓迎だ」
「....代わってもらいてぇくらいだ」
「代われるもんなら、な」
さっきナミが話していた。ゾロが社長の"用心棒"であったという事。秘書という仕事と、このゾロのイメージが結びつかないと思っていたが、それなら納得できる。
そして今回、急な事でナミのマネージャーに抜擢されたらしいが、それもやはり、何だかこの目の前の不機嫌そうな男とは、結びつかない。
スカウトされたばかりで、まだ仕事も始めていない。しかしサンジは仕事よりも、会社の内部事情の方に興味津々だった。
＊＊＊＊
「はい、これ台本ね」
サンジはナミから手渡された、冊子を受け取った。店の仕事に支障が出ない範囲で、こうして事務所の方へ顔を出している。
「台詞は少ないし、大袈裟な演技は要らないけど....短い時間でハッキリ映るから。気は抜かないでね」
「ええっと.....これと....これと....」
サンジは蛍光ペンで、自分の番に印を付けた。
カフェ店員、ホテルマン、花屋.....。ほんの一言か二言の台詞しかないチョイ役ばかりだが、主役級の女優と言葉を交わす、目立つ役だ。
一通りの演技指導を受け、読み合わせにも参加した。
「お疲れ様」
「あ〜...本当に俺でいいのかなぁ」
「何言ってるの！社長の目に狂いは無いわ」
「そうかなぁ...」
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サンジも始動。
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