Ｄｅｂｕｔ
〔ご注意〕***30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい***
「お疲れ様でしたー」
「お疲れ様でした...お世話になりました」
「サンジさん....あそこで見てる人、まさかマネージャーさん？」
「え？あ、そうですけど」
「いやぁ、ちょっと噂で....かなり綺麗な女性マネージャーさんだって聞いた事あるんで...デマだったのかな」
「....あぁ、彼女は秘書課の人で、営業もやってるんで...最初だけ付いてきてくれてたんですよ」
「何だ....その彼女、会いたかったなぁ...挨拶だけでもしたかった」
「会社に戻ったら、お伝えしときますよ」
「営業に来て下さいって、言っといてくれる？」
「はい」
男性からすれば、少々がっかりなのかも知れない。スタジオの隅にナミが立っているだけで、華やかだった。サンジは共演する女性達の誰よりも、ナミの方が素敵だと思っていた。
そのナミと一緒に行動できないのは、残念だったが、不特定多数の男の目に触れない分、安心だった。
局の裏口を出た人気のない通路の隅で、ゾロは携帯を手にし、電話をかけ始めた。
「今、終わりました」
そう言いつつほんの一瞬、ゾロが目を伏せた瞬間。
ほんの数人だが、女が一斉に駆け込んできた。サンジの名を叫びながら、握手を求め、上着を掴もうとする。ゾロは自分に向けられた殺気のようなものを感じた。
「おいっ、離れろ.....どこから入ってきたんだ！」
ゾロは女達を威圧するように声を張り上げながら、サンジを庇うような体勢で割り込んだ。ゾロの手から落ちた携帯が、通路に転がった。
邪魔だ、という声が複数の口から聞こえた。、ゾロを引き離そうとする者、何か固い物で攻撃してくる者.....。しかし、びくともしないゾロの様子に、とても敵わないと悟り、女達は走り去った。
ほんの数分間の出来事だった。
「おい、何ともないか？」
「俺は大丈夫だけど.....おめぇ、手が.....」
「ん？」
サンジの視線はゾロの右手に向いていた。手の甲から血が出ている。少し打撲もしているようだ。
「救急車、呼ぶか？」
「要らねぇ....」
「じゃ、とりあえず近くの病院へ...」
「別にこれくれぇ...かすり傷だ」
「じゃ、局に戻って....応急手当だけでも」
「騒ぎになるだろ....せっかくおめぇにいい仕事が来てるのに、ケチ付けてどうする？」
「.....マネージャーって、そこまでしなくちゃいけねぇのか？」
「....さぁ、よくは分からん...何せまだ始めたばかりだからな」
ゾロは辺りを見回すと、床に転がった携帯を見つけ、拾い上げた。表示はロビンとの通話中のままになっていた。ゾロは終了ボタンを押し、胸ポケットにしまおうとした時、着信音が鳴った。
「....はい」
『ゾロ！いったいどうしたの？何があったの？』
「ちょっと....一般人が....乱入してきて」
『あなた達、無事なのね？』
「ええ、大丈夫です」
『怪我....したんじゃないの？』
「あ、いや....」
『会社の事は心配しなくていいから、病院行きなさい』
「それほどの事じゃないんで....大丈夫です。心配かけてすいません」
『本当に？』
「はい」
『今日は.....直帰してもいいわ。また電話して』
「分かりました」
車のキーをゾロの手から奪い、サンジが運転席に乗り込んだ。
「どういうつもりだ？」
「見て分かんだろ？」
「おめぇの席じゃねぇ.....」
「怪我人は大人しく後ろに座っとけ」
「これくらい大した事ねぇって言ってんだろ」
「俺が嫌なんだ.....」
「.......」
サンジの固い意志が伝わってきた。ゾロはしぶしぶ後部座席に座った。
「家まで送ってってやるよ」
「何でおめぇに送られなきゃいけねぇんだ」
「まだ分かってねぇの？おめぇ怪我してんだぞ？」
「タレントは一人で移動しないって決まりだ」
「そんな固い事.....」
毎日ロビンを送ってから帰っていたゾロ。そのルートを覚えるのに相当時間がかかった。そして今はサンジを送ってから自分の部屋へ帰るのだが、まだしっかりとは覚えていない。
そして今居る場所からは、会社に戻るルートだけ、辛うじて分かる。つまり、ここから自分の家に帰る道が分からないのだ。
「おい、マネ....」
「ん？」
「ゾロ」
「な、何だ....っ」
「こっからどう走ったらいいんだ？おめぇん家」
「......俺に訊くな」
「はぁ？じゃ、誰に訊けっつーんだよ？」
そう言いながら、"あぁ"とサンジは思い至った。ナミからも聞かされていた、ゾロが極度の方向音痴であるという話。
「家、どのへん？」
せめて住所を聞けば、近くまでは行けるだろうと思ったサンジ。ゾロから聞いたその地名は、サンジの家とはまるで違う方向で結構遠く、送った後帰るのが面倒になりそうだった。さらに車を置いておくとなると、一人で電車で帰らなければならない。
さっきの出来事を思い出すと、さすがに少しサンジも不安になった。しかし考えていても仕方がない。
「とりあえず、俺んち来い」
サンジはゆっくりと車を出した。
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ゾロが居てよかった....
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