Ｄｅｂｕｔ

　〔ご注意〕***30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい***





「旨ぇな....これ」
「おう、そうだろ？」
「こっちも.....」
「....」

美味しそうに食べながらという訳でも無く、味わう様子も無い。しかし確実に料理は減っていくのが分かる。何とも男らしい食べっぷりだ。

「そんなに旨ぇか？」
「うん」
「....しょうがねぇな。じゃ、また作ってやるよ」
「....うん」



(な...何だよその"当然"みてぇな顔！)

サンジは少し多く作り過ぎたかと思ったが、予想以上にゾロがよく食べてくれた。全ての皿の上の料理が無くなった瞬間、計画通りの時間内に料理を仕上げた時と同じような、満足感や達成感を味わった。

「ご馳走さん」

手を合わせて軽く頭を下げたゾロを見て、さらにサンジは嬉しくなった。そしてサンジが動くより先にゾロは立ち上がると、食べ終えたばかりの食器を片付け始めた。

「おいおい....いいって....座ってろよ」
「何でだ？」
「手、怪我してんだし」
「運ぶだけだ....その後は頼む」

愛想笑いもしない、余計な話もしない。それでもゾロはゾロなりに気は遣っているようだ。サンジは残りの食器をキッチンへ運び終え、軽く汚れを流した。

「帰りはどうすんだ？」
「ん？」
「おめぇんち結構此処から遠いだろ？」
「そうなのか？」
「....あ、分かんねぇか....要するに遠いんだよ、かなり」
「ま、でも帰るしかねぇな」
「運転、どうすんだ？」
「何とかできるだろ」
「でも、これで事故ったら....」
「俺は今まで無事故無違反だ」
「んなの関係ねぇだろ！今は...」
「じゃ、どうしろってんだ」
「.....」

サンジは一瞬頭に浮かんだ言葉を、今言うべきかどうか迷った。

(どうするかな....)

その間、ゾロは翌日のスケジュールを確認し始めた。サンジの仕事は午後に1本のみで、後は事務所に戻ってから、ミーティングがあるだけだった。
ゾロは手帳から視線を上げ、サンジに言う。

「悪ぃが、今夜は泊めてくれ」
「へっ？」
「寝るのはどこでもいい」
「....あ、構わねぇけど」
「もう一つ、悪ぃけど」
「ん？」
「明日の朝、早めに出て....俺んち寄ってくれ」
「あぁ....それじゃ住所ちゃんと教えてくれるか？...地図で調べるから」



サンジはまた部屋の奥でごそごそやっている。そして戻ってきた時に手にしていたのは、きれいに畳まれた、まだ新しそうなワイシャツだった。

「なぁ、これ、とりあえず明日着ろ」
「？」
「俺が着て、ちょっと大きめだから....多分サイズは大丈夫だろ」
「......悪ぃな、じゃ借りとく」
「おめぇのは、洗濯しといてやる」
「すまん」

変な遠慮はせず、サンジの好意を素直に受け取るゾロ。そして気が付けば色々と世話を焼いているサンジだった。


＊＊＊＊


翌朝。


「おい、起きろ」
「ぐが.....」
「起きろって....」
「ん？」

片目を少し開けて、ゾロは左右に視線を動かした。"ここはどこだ？"という顔で、目の前のサンジの方を見る。

「早めに出るんだろ？時間無くなるぞ」
「.....あ、あぁ.....」

気が付くと、ほんのりとコーヒーの香りが漂ってきている。

「これから朝飯にすっからよ.....顔洗ってこい」

キッチンへ向かうサンジの後姿から、もうそれが当たり前の事として行動しているのが窺えた。ゾロは欠伸をしながらソファから立ち上がり、洗面所へ向かう。少し首が痛いが、いつもと違う姿勢で眠っていたせいだろう。

洗面所にはタオルと使い捨て歯ブラシが置かれていた。こういう物がすぐ用意できるなんて、ここに誰かが不意に泊まる事が、度々あるのだろうか。





「熱いうちに食えよ」
「お、おう.....」

ゾロは手を合わせて"いただきます"をしてから食べ始めた。

「パン、お替りあるからな」
「むぅ....」

口いっぱいにしながら、一応返事だけはするゾロ。何にも言わないが、食べてるという事は、きっと美味しいのだろうと思い、サンジは安心して自分も食べ始めた。
一見、どこにでもあるような朝食メニューだったが、オムレツに入れる塩にも、サラダのドレッシングにも、ちょっとした工夫があった。

「別におめぇの為に、料理の工夫してる訳じゃないんだけどな」
「もぐ.....」

何を言ってもゾロが返事できないのが分かっていて、ついつい話しかけてしまう。自分が作った物を、目の前で食べてもらう事など、普段は殆ど無いからだろうか。

(野郎相手でも、こんな風に食べてくれると、やっぱり嬉しいもんだな....)

サンジの手が止まっている。

「おい、冷めるぞ」
「あ？あぁ.....」
「旨かった、ご馳走さん」

サンジは自分の皿に残ったオムレツの大きな欠片を、慌てて口に放り込むと、食器を片付けようとするゾロを制した。



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何だか仲良しになりました。





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