Ｄｅｂｕｔ
〔ご注意〕***30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい***
「後は俺がやっとくから....ちょっと腹を休めたら、シャワー浴びてこい」
「......」
「俺は、もう済ませたから」
「.....そうか、じゃ、借りる」
「終わったら、手、消毒してやるからな」
「.....おう」
「すげぇな...もう傷治りかけてるぞ」
「そうか？そんなの普通だろ」
「いいや！浅く切っただけなら、そうかも知れねぇけど...」
「だから、かすり傷だって」
「ぶつけて出来た傷だぞ....」
「しっかり食って寝りゃ、治るさ」
「ったく....どんな身体してんだ」
もしかしたら、他人を守るという仕事がまさに天職なのかも知れない。サンジは漠然と、そう思った。
「ゾロ」
「ん？」
「いくら頑丈だからって、油断はすんなよ」
「......何だ、心配してくれてんのか？」
「だっ......誰がっ.....俺の身が危険に晒されたら困るだろ！だから.....だからその為に言ってんだ！」
「せいぜい守らせてもらうさ....」
処置も終わり、二人は身支度を整えると外へ出た。
「じゃ、おめぇんちまで、ドライブだな」
「あぁ....悪ぃけど、頼む」
「あ、おめぇ、ネクタイは？」
「あぁ....ここに持ってる」
ジャケットの内ポケットに、丸めて入れていたらしい、ネクタイを取り出した。
「ま、どうせ今から帰って別のやつ、持ってくるんだろ？」
「いや....家にはあんまり置いてない」
「何で？」
「会社に...」
あ、と小さく呟いたゾロ。怪訝そうな顔で、歩きながらゾロの台詞を待つサンジ。
「会社に予備が置いてあるから、それを使う」
「ふーん」
サンジがまだ何か訊きたそうにしていたが、構わずゾロは先に車に乗り込んだ。サンジもそれに続いた。
「このへんだろ？おめぇんち」
「あぁ....見覚えのある景色だ」
「こんな分かり易いルートなのに、やっぱりまだ駄目か？」
「何回も通れば、何とかなるが」
「もう、何回か、俺を送っただろ？」
「まだまだ、この程度じゃ無理だ」
「...きっとあちこち余計なとこ寄り道して、家に辿り着いてんだろうな？」
「いや、それもよく分からん....でもとりあえず帰れてるから、それでいい」
「......着いたぞ」
初めて来た筈なのに、慣れた感じで迷わずに運転してきたサンジの顔を、ゾロは少し尊敬の眼差しで見つめる。
「すげぇな....」
「あぁ？何が？」
「一発で来れた」
「だからぁ、地図があるだろ？地図っていうのは、こういう事の為にあんだよ！知らねぇのか？」
「......知ってても、俺にはできねぇから、困ってんだよ」
少しすがるような、頼るような表情でサンジを見る。サンジはそんなゾロの顔に慣れていないので、どう反応していいか分からなかった。
「ほら、俺に感謝してんなら、ちょっと水を一杯飲ませろ。車ん中、結構乾燥してたみてぇだから喉渇いた」
「お、おう.....」
初めて入るゾロの部屋。サンジは思わずぐるりと中を見回してしまった。必要最小限の家財があるだけの超シンプルな部屋だった。散らかす方が難しいくらいの、物が殆ど置かれていないテーブルや棚。
(女の影も....これは無いな)
コトリ、と音がした方を見ると、テーブルに水の入ったグラスが置かれた。
「お、サンキュ」
サンジがそのグラスに口を近づけると、爽やかな香りがしてきた。
「....レモン？」
「ん？あぁ....そうだが」
「いつも、こういうの用意してんのか？」
「水道水そのまんまだとマズイし、水買ってくんのもかさばるし面倒臭ぇだろ」
カルキ抜きした水にレモンを入れて、冷やしておくのだと説明した。ゾロがとてもそんな事をしそうにないので、何だか不思議な感じがした。
(こんなマメな事するヤツか？)
そんな事を思いつつ、サンジが空いたグラスをキッチンへ出して戻ってくると、ゾロもすっかり準備が整ったようだった。
「あ、もう手は痛まねぇから、俺が運転する」
「いいや、会社までは俺に任せろ」
「でもな....」
「社長にも、おめぇの代理で運転する事、ちゃんと言ってある」
「い、いつの間に連絡を....」
「ンな事いいから、ほら、キー貸せ」
そうしてドライブは再開された。道が混んでなければ、会社には小一時間程で着くだろう。
仕事での移動中は、仕事の話しかしない。他の話題は禁止という事でもないのだが、ゾロは余計な話は一切しなかった。サンジも、そういうものなのかと思っていた。
でも今は、"出勤途中"だ。何を話しても問題ない筈だ。とにかく、サンジはゾロに訊きたい事が山ほどあった。
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ゾロの事が知りたくてたまらない....
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