Ｄｅｂｕｔ
〔ご注意〕***30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい***
「はい、午後の予定」
ゾロは、ロビンから渡された資料を見て、昼食をゆっくりと食べてはいられない事を悟った。続けてサンジにも冊子が渡された。
「この後のマネージャー会議が終わるまで、きちんと読んでおいてね」
今撮影中のドラマの、次の台本だった。もう一つは、ロビンが手書きしたらしい、一枚もののメモ。
「そっちは、本決まりじゃないけど.....」
「.....広告？」
「今流行の、男女兼用のアイテムなんだけれど」
「....香水とか？」
「いくつかあるみたいよ。載るのは雑誌の裏表紙とか、あと駅張りポスターとか」
「駅張り？」
「すごい露出ね。ドラマに出るよりよっぽど目立つわ」
「.....マジ....？」
「あら、嫌なの？」
「.....俺、まだ新人ですよ？そんな事して営業効果あるんですか？」
「意外と顔も名前も売れてるわよ？それに、知らない人でも"これ誰だろう”って、逆に興味が惹かれるわ」
「顔に落書きされるのがオチですよ....」
「随分と謙虚なのね？」
逆にロビンには自信があった。ただ、それは確固とした根拠があるという訳ではなく、本能というか直感というか。
「あ、それからゾロ」
「はい」
「あなたにもスタイリスト頼んだから」
「は？」
「と言っても専属じゃないけど。サンジ君と一緒にね」
「....意味が分かりませんが」
「意外とね、マネージャーも結構見られてるのよ？」
「いや、目立たないよう、スタジオでは隅っこに居ますけど」
「いいから私の言う通りにして.......あら？」
ロビンがゾロの襟元に目を留めた。
「こんなシャツ、持ってたかしら？」
「あ、いや....これは借り物です」
「社長、それ、俺のです....ゾロのは洗濯中で」
(シャツが変わっただけで、すぐ分かるなんて....)
「そう？サンジ君には色々お世話になったって訳ね」
「いえ.....」
「じゃ、ゾロ。会議の前に、奥に.....来てね」
「分かりました」
(奥？確かあそこには....)
ロビンの隠れ家的な空間で、トレーニング機器や特殊仕様のスーツなども置かれていると聞く。色々と詳しく、憶測も含んだ話をナミから何度か聞かされていたので、サンジは自分で見たような気分になっていた。もう社長秘書ではないゾロが、そこに何の用があると言うのだろう。
ナミは明言こそ避けていたが、やはりロビンはゾロと特別な間柄だと考えているのだろう。少なくともサンジには、そう思えた。
(馬鹿な.....でも、そんな事、仕事とは関係ないんだし......)
そのまま思考が暴走してしまうのを止めようと、サンジは自分のこめかみを、ぐりぐりと拳骨で何度か押した。
＊＊＊＊
「ゾロ、本当に心配したのよ」
「すいません」
「謝らなくてもいいわ...でもね」
ロビンはゾロの胸に顔を埋めた。
「あの日の事が....蘇ってきて、夜中に二度も目が覚めてしまったわ」
目の前でゾロが刺された、あの悪夢のような出来事。
「.......」
「あぁ、でもとっても丁寧に手当てしてもらってるのね」
包帯が巻かれたゾロの手を、ロビンがそっと撫でた。
「大袈裟なんですよ....アイツ」
「何言ってるの。感謝しなきゃ」
「.....してますよ」
「サンジ君は、まだこの仕事を始めて日も浅いし、不安だらけなのよ？あなたがそういうところ、フォローしてあげてね？」
「....俺もマネージャーの仕事は、始めたばかりです」
「自分の事で精一杯？」
「......」
「不安なら、ちゃんと言いなさい」
「？」
「私は、あなたが安心して働けるようにする義務があるの」
「.....」
「あなたの上司だから」
「.....はい」
「......今日はどれにしようかしらね」
ゾロから離れ、ロビンはクローゼットを開けた。ネクタイがずらりとかかっている。前日締めていた色と思い浮かべ、似た物は避けて選んでいく。
「じゃ、今日はこれね」
たくさんある中から一本を選び、ゾロの首にかけた。ゾロはじっとして、ロビンのする事を見ている。相変わらずの慣れた手つきで、あっという間に結びあがった。
「もう、そろそろ自分で結ばないとね」
「......社長が、それでいいなら」
「うふふ、そう言えば....」
ここで働くための契約事項には、何が何でも社長を守る事、その社長の命令は厳守する事、とあった。そして、ネクタイを結ぶのが苦手だというゾロのため、毎日ロビンが結ぶというのも"契約書外契約"となっていた。
「これも、毎日の楽しみだったのよ」
「.......」
「もう、秘書じゃないから、契約満了ね」
「はい」
「じゃ、きちんと自分で結べるようになる事。社長命令です」
「分かりました」
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