Ｄｅｂｕｔ
〔ご注意〕***30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい***
一瞬笑みを浮かべたかに見えたゾロは、すぐに元の無表情に戻った。
「社長、そろそろ時間です」
「じゃ、行きましょう」
二人は会議室へ向かった。
＊＊＊＊
ゾロが会議から戻る迄の間、サンジは台本を何度も読んでいた。恐らく昨日渡される筈だったのだろう。一日でも遅れているのなら、取り戻さなければいけない。
ドラマはともかく、ポスターの仕事の方が気になる。撮影は一日で終わるだろうが、人の目に触れる期間が長い。どうも最初に抱いたこの仕事に対するイメージから、どんどん変化しているように思える。
自分はここで、一体何を求められているのだろうか。そして、それに応えられているのだろうか。必要とされているのなら、多少無理な事であっても、一生懸命やっていきたい。
(与えられる仕事を、ただこなすだけでいいのか？)
まだ新人の分際で、そんな事を考えるのは思い上がりなのだろうか。
「おい.....」
「ん？」
ゾロが会議を終えたらしい。サンジは我に返り、少し間の抜けた返事をした。
「社長がお呼びだ」
「.....何だろう？」
「例のポスターの仕事の.....クライアントが来てるらしいぞ」
「えええっ？」
「別件で近所まで来たから...って事らしいが」
「何で俺まで.....」
「ちょっと顔見せるだけでいい。俺も一緒に行く」
まだ新人だから実績が無い。だから本人に直接会ってみようという事なのだろう。
「実物の俺を見て、オファー取り下げ、なんて事....」
「自信持て。お前なら大丈夫だ」
「何を根拠に？」
「まぁ、あれだ.....お前は、何て言うか....」
「ん？」
「.....あんまり男臭くねぇから.....今回のイメージに合うんじゃねぇか」
「........ゾロ」
「え？」
「へっ.....俺のマネージャーらしくなったじゃねぇか」
「うるせぇよ」
「頼りにしてるぜ」
「ふん」
(冗談抜きで、マジ、頼りにしてるから.....)
「あー、緊張した」
「なかなか好感触だったな」
「そうなのか？」
「少なくとも、俺はそう感じた」
面談を終えて、サンジは顔を扇ぐような手振りをしながら、話している。ゾロも涼しい顔をしてはいたが、少しは緊張していたようだ。
そして少し時間が経ち、ロビンが二人のところへやって来た。
「社長....俺、テンパって、変なコト言ってませんでしたか？」
「大丈夫よ、サンジ君。先方様、かなり喜んでいらしたわ」
「はぁ.....」
「それとね......」
ロビンは少し息継ぎしながら続けた。
「あなた達が出て行って、その後も少しお話したんだけど、ゾロ、あなたの事、色々訊いてきたわ」
「.....俺、ですか？」
「ポスター、２パターン作りたいって」
「......」
「ゾロの事見て、閃いたんですって。後でデザイン画をメールで送ってくれるそうよ」
「何の事か、よく分かりませんが」
「ま、とにかく悪い話じゃないわ」
「俺がその仕事に参加するとか、そういう話じゃないですよね？」
「そういう話だと思うけど？」
「う.......」
冗談じゃない。いくら客の希望であっても、できる事とそうでない事がある。
「どうしたの？」
「.....俺はマネージャーだって事、先方は分かってて言ってるんですよね？」
「ええ、その筈よ」
「そんな非常識な事も、引き受けないといけないんですか？」
「この仕事に常識なんか無いわよ....他と一緒じゃ駄目よ」
「しかし....」
「往生際が悪いわよ」
「何でそうなるんですか！」
「ゾロ」
「.....」
「いい加減、あなたは自分の力に気付くべきよ」
「何の事ですか？」
「前にも言ったでしょ？もう少し愛想が良ければ、ウチの仕事いくらでも取れるのよ？」
「俺は、そういう立場じゃない」
いくら考えても、自分がその仕事に参加するというのが、イメージできない。
「何もずっとって訳じゃないわ。ここで無理を聞いておけば、色々とまた今後もご贔屓にしてくれるかも知れないし」
「......社長の頼みとあらば」
「そう気負わないで。詳しい事はまだ分からないけれど....まずは後でそのラフ画を見せてもらって.....からね」
翌日のスケジュール確認をしながら、手帳のページをめくる。パソコンのキーを打つ。いつもと変わりない作業をしながらも、ゾロは先ほどロビンから聞かされた話を思い出していた。
「ゾロ、お前さ」
「ん？」
「引き受けるって、決めたんだろ？」
「.....あぁ、まぁな」
「だったら、もう迷うな」
「あ、いや.....別に迷ってはいないが」
「写真撮られるだけじゃねぇか？後はプロのやつらが綺麗に加工してくれるから....大丈夫だろ」
ゾロは、そういう事を気にしているのではなかった。元々これはサンジへのオファーだった筈だ。それを今日初めて会って、本来なら関係の無い、マネージャーである自分にも依頼が来るなど聞いた事が無い。
それについては、サンジはどう考えているのだろうか。
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ついにゾロにも.....
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