Ｄｅｂｕｔ
〔ご注意〕***30字くらいで改行されるよう、ウィンドウの横幅を適宜縮めてお読み下さい***
「もう、大丈夫そうだな」
「え？」
「眉間の皺....消えてる」
「そ、そうだったか？」
「あぁ、本当に辛そうだったぜ」
「......ゴメン、もう平気だ」
「......じゃ、元気になったところで、朝飯食いに行こうか」
「え......わーっ！もう、こんな時間っ」
「大丈夫だ。今日明日のスケジュールは把握してる....ちゃんと時間はある」
「......そ、そっか......さすがゾロ。じゃ、完全に任せるぞ」
「おぅ」
思わぬ事で、短期間ながらホテル住まいをする事になった二人。予想をはるかに超える、濃密な時間を過ごし、さらに二人の距離は縮まり、思いは強く、深くなった。
そして間もなくそれも終わり、またそれぞれの自宅へ戻る事になるのだった。
＊＊＊＊
某所にあるスタジオ。サンジは少し緊張していた。今日のこの仕事の為に、ロビンの言う通り食事や運動に注意を払い、さらに筋トレもしてきた。肌や髪の状態にも気を遣った。
「おはようございまーす」
主役であるモデルが入ってきた。思わず目を留めてしまうような、美しい女性だった。10代20代の女性から絶大な支持を集めているらしい。
(実物の方がずっとキレイだな)
ただ、サンジは彼女が美人であるという事に関心はあるものの、何の魅力も感じなかった。
今回の仕事は肌の露出が多い。その為かメーク担当が二人付いている。肩や背中にシミやニキビ跡等があればカバーメークするのだが、サンジにはその必要も無かった。
「サンジさんって髪が綺麗ですね」
「そう？ありがとう」
「シャンプーのCMとか、お話来ないんですか？」
「さぁ....今のところは聞いてないけど...あ、化粧品関係が1本来てるような事聞いたなぁ....。あ、まだ決まってないから内緒でね」
「あ、そうなんですか....化粧品って...やっぱり女性用？」
「うん、だから俺がメインって訳じゃないと思うよ」
「でも、すごく目立ってますよ？今日のだって....」
「あんまり俺は前に出ちゃいけないんだよね、本当は」
「本当は？」
「うん....でもウチの社長は"自分が主役のつもりで"って言うんだけどね」
「そうですよ！私もそれでいいと思います！」
サンジを取り巻くスタッフは、一度でも一緒に仕事をするとほぼ例外無く、サンジのファンになるらしい。サンジも少しずつではあるが、自分の持っているものに気付き始めていた。
「はい、本番いきまーす！」
撮影は順調に進んでいた。主役のモデルもこの手の仕事に慣れているのか、サンジを上手くリードしてくれて、お陰でやりやすかった。時々、"こういうのが本当に必要なのか？"と思えるような、密着したポーズあり、エロティックな表情あり、で一体何の仕事なのか分からなくなる。
現場スタッフに囲まれて、ライトを浴び、サンジは気分が高揚していた。その頭の片隅で、僅かに目の前の美女に関心を向けてはいるものの、まるで人形の傍にいるような気分だった。しかしそれは彼女が絵に描いたような、完璧な美貌を持っているという事ではない。
(マジ俺って...ヤバイんじゃ？)
頭では正しく理解している筈だった。どちらかと言えば自分の好みのタイプ。スレンダーで、色気をあまり前面に出さない。是非ともお近づきになりたいと思えるような女性だ。
その彼女と同じ空間で仕事をしている。身体を隠す布は最小限の状態で、時には抱き合うような体勢で。顔もかなり接近している。
それでも、ドキドキしない。
「はい、ＯＫです！」
ホッと息をつき、サンジはスタッフがかけてくれたローブに袖を通しながら、モデルの女性へ軽く挨拶した。
「お疲れ様」
「お疲れ様でした.....」
「俺、足引っ張ったんじゃない？」
「いいえ、全然。本職でも充分いけると思うわ」
「今日は勉強になったよ。ありがとう」
「そんな....私も楽しかった...それと...」
「それと？」
「ちょっと不思議だったわ。何て言うか、その.....」
「....？」
「男性なのに、そんな感じしなくて....何だか同性と居るみたいな気分だった。あ、気に障ったのならごめんなさい」
「.....いや、俺も、その......始める前は緊張してたんだけど、変な気になったらどうしようかと...あ、いや、そういう意味じゃなくって....」
「......ふふっ」
少し慌てるサンジを見て、彼女は思わず笑った。
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....。
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