Ｄｅｂｕｔ

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「サンジさんって凄いプロ意識高い人なのね」
「え？」
「今まで色んな人と仕事してきたけど....プロのモデルさんは別として、ルックスだけで採用されたみたいな人が結構いて....」

彼女は指を口に当て、ここだけの話だけど、とさらに続けた。

「ちょっとエロ系のプロモーションとか撮ったんだけど.....演技じゃないような、マジな顔したり....終わった後、メアド教えろとか言ってきたり....幻滅するような人が多くて」
「....」
「サンジさんは、そういう人たちとは違うと思う」
「....俺も男だから、似たようなもんだよ」
「そう？」

少し含みのある笑みをたたえ、彼女は自分の控え室へと去っていった。ローブを羽織った後姿でさえ、美しかった。






「無事、終わったみてぇだな」
「ゾロ.....」

最近のゾロは、色々細かい仕事も増えたようで、ずっとサンジに張り付いているという訳ではなかった。今日もサンジをスタジオまで送った後、関係先を回ったり、喫茶店で資料のチェックもしていたらしい。

「疲れただろ...後ろに乗れ」
「いや、ここでいいよ.....」

ゾロの勧めを断わり、サンジは助手席へ座りシートベルトを締めた。ゾロは運転席に座り、ドアを閉めると、いきなりサンジの方へ近付いてきた。

「んっ.....」

車の中で、ゾロがこんな事をしてきたのは初めてだった。

「.....珍しいな」
「......悪ぃ」
「.....いや、悪くねぇ」
「...」
「でも、何で？」
「.....よく分からねぇ」
「....さっきのお前の顔...」
「ん？」
「何か....良かった」
「何？」
「ああいう顔、すればいいんだな....」
「だから、何の話だ」
「俺.....何か足りねぇみたいなんだよな」
「....？」
「あ、話長くなるから....車、出してくれていいよ」




サンジがかいつまんで今日の仕事の内容を話した。そしてモデルの女性に対して思った事、彼女と話した内容についても触れた。

「俺って.....男としてどうなのかなぁ....」
「どうって？」
「色気とか感じねぇ？」
「......」
「お前に訊いても....しょうがねぇか」
「....そういうのは....自然と滲み出るもんだろ」
「.....」
「今来てる仕事だって、今のお前を見て、依頼が来てる」
「....そうだな」
「それに....あんまり色気出されてもな....」
「....何？」

ゾロはそれきり何も言わなくなり、黙って運転を続けていた。サンジも同じように静かになった。





次の現場が近付いてきた。

「ここは時間はそれほど取らない。終わったらまだすぐ移動だ」
「うん」
「その後はA社で雑誌の....」
「ゾロ」
「ん？」
「今日は独りで帰るよ」
「....そうか、じゃ指定のタクシー使え」

サンジの知名度も上がり、それほど売り込みも必要なくなってきた。その分ゾロには新しい仕事を任され、別に新人ばかりを担当するチームに加わった。もう以前のようにサンジに付きっ切りではない。

サンジも、仕事には慣れてきた。そうそう保護者は必要ない。

ゾロとは、オフの日にゆっくり会えばいい。

(でも....もう俺専属じゃないんだっけ)

ゾロと休みが同じという事はない。社内での仕事もあるし、他のタレントの管理もある。

今後は、サンジに限った事ではないが、自分が超大物にでもならない限り、専属のマネージャーを付けてもらえる事はないのだ。

(次はいつ二人で会えるんだろうな)

「おい、次がラストだからな」
「......え？.....あ、あぁ」
「ぼんやりしてんじゃねぇぞ」
「あぁ」
「嫌な事訊かれても、顔に出すなよ」
「.....んなの分かんねぇよ」
「お前は正直過ぎるから」
「そ。裏表のない、誠実な好青年だからな」
「言ってろ」

サンジがこの日最後の仕事へ向かう。ゾロはクライアントへ1件連絡を入れ、社に戻る。

「あ.....また明日言うけど」
「何？」
「映画の仕事、今考えてるとこだ」
「映画？」
「あぁ、でも俺がどんなに動いても....取れる仕事じゃねぇけどな」
「そんな大作なのか？」
「ウチは大手じゃねぇし....実力で勝ち取るしかねぇ」

詳しくは次の日に聞く事にして、サンジは現場へ向かった。






営業部では、どのマネージャーも慌しく動いている。映画のオーディションの通知が来たのを受けて、準備に追われているのだ。あまり日程に余裕が無く、誰に受けさせるか急いで決めなければならなかった。



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....。





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